kuruizakiに、ふぁんたじーだ
  
  恋に狂い咲き パラレルストーリー
  300万・400万ヒット記念企画 特別編
  (登場人物、狂い咲きのメンバー)


第一話 サンタの贈り物



(時は、一年前)

マコはゆるりとした目覚めを迎えた。

何かとても幸せな気分だった。

彼女は背伸びをして、ゆっくり起き上がり、心をときめかせながら枕元に視線を向けた。

そこにサンタからの贈り物の包みを見つけて、マコは嬉しさに微笑んだ。

今日はクリスマス。

昨夜お忙しかったサンタ様は、休んでいらっしゃるだろうし…

今朝はひとりで朝食だ。
ほんとうのとこ、ひとりきりの食事では、食欲も湧かないけれど…

マコはベッドから降り、クローゼットに近づいた。

贈り物は朝食をいただいた後の楽しみにしよう。


朝食を食べたマコは、サンタの眠りを妨げないように注意しながら掃除を終え、部屋に戻った。

贈り物に手をかけてリボンを解こうとしていた彼女は、馬のいななきを耳にして、手を止めた。

スノーだわ。

こんな朝早く、誰か来たのだろうか?

外に出てみると、妖精国の王、トモエがいた。

黒馬のブラックにまたがっているところをみると、いま着いたばかりのようだ。

スノーは、ブラックが気に入っていて、彼が来たことで喜んでいるようだった。

「トモエ様、ごきげんよう」

「メリークリスマス、マコ」

「メリークリスマス、トモエ様」

マコはトモエに笑顔を向けてブラックに近寄った。

「ブラック、メリークリスマス」

スノーが不服そうにいなないた。

自分への挨拶は?と言いたいようだ。

マコはスノーに近づき、彼女に触れながら笑い声を上げた。

「もちろん貴方のことを無視するつもりはないわ、スノー、メリークリスマス」

スノーが喜びのいななきを上げた。

「相変わらず、ふたり仲がいいな。まるで姉妹のようだよ、マコ」

トモエのくすくす笑いの混じったからかうような言葉に、マコは笑みを浮かべた。

「姉妹ですもの」

マコは真実そう思っている。

親も兄弟も親戚すらいないマコにとって、スノーは特別な存在だ。

スノーは、マコが十五になった年の、サンタからの贈り物だった。

あの時は狂喜のあまり、マコらしくなく、小躍りまでしてしまった。

サンタはマコにとって、父親同然で、誰よりも慕っているし、サンタからも溢れるほどの愛を感じる。

けれど…サンタは誰にも不公平なくやさしい、特別なお方だ。

父と思うのは…

「マコ、招いてはくれないのかい?」

その言葉にマコは我に返った。

「あ、申し訳ございません。トモエ様。さあ、どうぞお入り下さい。すぐにお茶を用意しますわ」

「お茶は後でいいよ。君に贈り物を持ってきたんだ」

「まあ、いつもありがとうございます」

マコは笑みを浮かべ、玄関のドアを開いて、トモエを家の中へ招いた。

サンタが休んでいることは彼も承知だから、物音を立てないように気遣ってくれている。

家の中に入る前にスノーはと見ると、ブラックと仲よさそうに並んで歩いていた。

スノーは、ブラックをとても気に入っているようだけど…異性として好きという思いは無いように見える。

マコがトモエ王に対して感じている思いと同じなのかもしれない。

親しいひとであり、とても好きだけれど…それ以上には思えない。

けれど、ブラックの方はそうではないようだ。

マコはスノーを見つめ、家の中に入った。


トモエ王との語らいは、いつもと同じに楽しかった。

たくさんの贈り物をもらい、彼女は少し困りつつも、お礼を言った。

彼女からは、彼女の手作りの、ベルトにつけられる少し大きめのポーチを贈った。

「マコ、ありがとう。とても使い勝手が良さそうだ」

「喜んでくださって嬉しいですわ」

出来がいいとはいえない贈り物に貰うには、大袈裟すぎる王の言葉に、マコは頬を赤らめながら答えた。

おしゃべりしながらお茶を飲んでいるところに、来客があった。

トモエの護衛の人たちだった。


「王、いますぐお戻り下さい。クリスマスを祝う宴が始まりますゆえ、王のお母上様が、すぐ戻るようにと仰せです」

「私がいなくても、宴はやれる。お前達、さっさと帰れ」

「王が不在の宴など、催せないと分かっておいでのはずです」

トモエは、むっとして家来を睨んだ。

緊張を含む空気に、マコはハラハラした。

「トモエ様、お帰りになった方がよろしいわ」

「マコ…私は…」

「トモエ様」

マコは両手を合わせ、頼み込むように、瞳を向けた。

トモエは仕方なさそうに肩を竦め、「わかった」と言うと、ブラックを呼んだ。

ブラックはすぐに駆けてきて、トモエはひらりと飛び乗った。

「マコ、また来る」

心残りそうにそう言うと、王は護衛とともに帰って行った。

マコはみなの姿が見えなくなるまで見送り、部屋に入った。

トモエの母は、マコの存在を、よく思っていないようだった。

当然かもしれない。

王である息子が、天涯孤独な娘と仲が良いなど、喜べることではないのだろう。

数年前に亡くなったトモエ王の父である前王とも、マコはあまり顔を合わせたことがなかった。

もちろん、トモエ王の他にも幼馴染の友達は数人いる。

けれど、彼女たちのどの親も、マコと親しくすることを快く思っていないのだと思う。

血縁とか、家柄というものを、ひとはとても重視する。

サンタはみなの尊敬を集める人物だけれど、サンタの血縁ではないマコと、その尊敬は関係ない。

彼女は妖精の姿をしているけれど、もしかすると本物の妖精ではないのではと、マコは疑いを持っていた。

両親がいないなんて、おかしなことなのだ。

サンタは、彼女がいくら尋ねても、両親が病気で亡くなったとも、事故で亡くなったとも教えてくれない。

親戚すらいないなんて…普通に生まれたのなら、そんなはず、あるわけないのだ。

つまり、マコの存在は、普通では無いということなのだ。
だから、どこの親も、マコを快く思ってくれない…

「マコ」

ぼんやりと佇んでいたマコは、その声にはっとして振り返った。

「サンタ様、もうお起きになったのですか?」

「ああ。疲れは取れた。お前は、こんなところで立ちっぱなしで…どうしたのだね?」

癒すようなサンタの声に、マコはたちまち元気を取り戻した。

「い、いま、王がおいでになっていて、お見送りしたところなのです」

「王が?そうか。それで?贈り物は気に入ってくれたかな?」

マコは目をぱちくりさせた。

「まだ、これから開けようと…」

サンタは笑みを浮かべて頷いた。

「お茶を入れてくれるかね。喉が渇いたな」

「はい。いますぐに」

マコは頷き、サンタのためにお茶を入れた。

サンタからの贈り物は、とんでもなく高価そうな、淡い水色のドレスだった。

不思議な生地で、光に当たると、キラキラと輝きを発する。

「…なんて綺麗…」

「マコ、着て見せてくれないか?」

「もちろんですわ。あ、でも昼食を食べてから…、支度をしてきます」

マコは箱にドレスを戻し、それを抱えて居間から出た。


サンタが一緒だと、食事もとても美味しい。

マコはおお腹いっぱい食べ、片づけを終えると、サンタの勧めでドレスに着替えた。

ドレスはマコにあつらえたようにぴったりだった。

彼女は嬉しさに、姿見の前で一回転した。


「これはこれは、どこのお姫様かと思うほど美しい」

サンタの賞賛に、マコははにかんだ笑みを浮かべた。

コツンと窓の方から音がして、顔を向けると、スノーがいた。
どうやら、窓ガラスを鼻面でたたいたようだった。

散歩に出掛けようと言っているのだ。

「スノーがお待ちかねのようだね。マコ、夕方までスノーと遊んでおいで」

マコはサンタの言葉に甘えることにした。

「それじゃ、少し出掛けて来ます。スノー、着替えてくるわ。待ってて」

スノーに向けてそう言ったマコに、サンタが口を開いた。

「そのままでいいじゃないか」

「でも、せっかくのドレスを汚してしまいたくないですし…」

「汚れることなど気にしては、着る機会などないだろう?」

その言葉に、マコは胸がツンとした。
たしかに、何かの宴にマコが招かれることなどない。

サンタはお客を招いて宴を催すなんてことはしないし、マコが着飾って、お客様をもてなすなんて機会は、これからも訪れないだろう。

「マコ?」

サンタの気掛かりそうな呼びかけに、マコは笑みを浮かべて応えた。

「行って来ます」

そう言ったマコに、サンタは慈しみのこもった表情で「楽しんでおいで」と声を掛けてくれた。


スノーの背にまたがり、マコは小道へと進んだ。

「どこに行こうかしら?スノー、どこがいい?」

今日はどこの家も、クリスマスの宴を催しているせいで、人と行き合うこともほとんどなかった。

スノーは、目的地を決めているかのように、迷うことなくどんどん駆けて行く。

マコはスノーに任せることにして、愛馬を自由に走らせた。




   
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