kuruizakiに、ふぁんたじーだ
  
  恋に狂い咲き パラレルストーリー
  300万・400万ヒット記念企画 特別編
  (登場人物、狂い咲きのメンバー)


第3話 幻の小道



「マコ、何かあったのかね?」

サンタに問われて、マコは昼食を食べる手を止めた。

心臓がとくんと跳ねたが、マコは平静を装った。

「何もありませんわ」

「そうか?この最近、あまり食べていないようだが?」

「そんなことは…ちゃんと食べてますわ」

マコはサンタに心配を掛けないよう、なんでもないように笑みを浮かべてみせた。

サンタはマコの様子を思案げに見つめた後、口を開いた。

「少し用事を頼みたいんだが、いいかな?」

「はい。もちろんです」


マコは食事の片づけをし、サンタから頼まれた用事のために、外に出てスノーを呼んだ。

「スノー」

マコは、スノーの背に手を掛けて頬を寄せた。

頬にスノーの温もりが心地よい。

「スノー、あの方にはもう逢えないのかしら…」

失望感に襲われ、涙が込み上げた。

カズマとの突然の出会いから、二週間ほど経っていた。

初対面の相手だというのに、口づけまでしてしまったことに驚き、逃げてきてしまったが…

彼にもう一度逢いたくてならず、マコは翌日、またあの湖に向けてスノーを駆けさせた…

けれど…

マコはスノーの背にまたがり、ゆっくりと馬首を道へと向けた。

向かうのはそれほど遠くない場所、きこりの夫婦の家。

あの湖は…どれだけ探しても見つからなかった。

それはおかしなことだった。

そんなに複雑な道のりではなかったのに…

カズマは、彼の存在は、マコの夢想だったのだろうか?

あの日、彼女はリアルな白昼夢を見たというのだろうか?

そう考えると、いまは、それが事実のように思えてならなかった。

水上に佇んでいたカズマ…

マコを眼差しだけで虜にしてしまったカズマ…

あんな出会いなど、現実にはあるわけが…

孤独感で、精神状態が異常になってしまったのだろうか?

いつだってサンタ様が一緒にいてくださるのに、彼女はどうしてこんなに孤独を感じるのだろう?


きこりの家の前に来て、マコはスノーから降りた。

用事はすぐに終わり、彼女はスノーの頬を撫で、愛馬に乗らずにそのまま歩いて帰ることにした。

歩いて帰れば、時間つぶしになる。

サンタの家に着くのは夕方くらいになるだろうから、そしたら夕食の支度をして…

「マコ?」

背後から聞こえたその声に、マコはびくりと身体を揺らした。

「探したんだぞ」

マコは、自由に動かない身体を捻って、後ろに向いた。

森の中の一本道…いまマコが歩いてきた方向に佇んでいるカズマ。

彼はどこから現れたのだ?

「いったい…?」

「…マコ、この間は怖がらせてしまって、すまなかった」

マコは、カズマを見つめて首を横にゆっくり振った。

ぎこぎこと音を立てそうなほど、首は強張っている。

彼女は彼に逢いたくて逢いたくてたまらなかったのに…

こんなに何気なく現れて、…すまなかった?

「ど、どこにいたの?」

「マコ?」

「湖が…みつからなくて…何度も何度も探したのに!」

マコの責めるような叫びに、カズマは彼女との距離を一気に縮め、次の瞬間彼女は抱きしめられていた。

「逢いたいと思ってくれていたのか?君が逃げ出して…俺は、嫌われたと」

「わ、わたし…」

「マコ、座って話せる場所に行かないか?」

マコはカズマを見つめ、ためらいつつも頷いた。

カズマはほっとしたように笑みを見せ、マコを森へと誘った。

「この先にいい場所があるんだ。俺の気に入りの…」

「で、でも、スノーは入ってゆけない…」

カズマがさっと手を振り上げた瞬間、森の間に小道が現れた。

マコは目を丸くして、突如現れた小道を見つめた。

「元々あったのさ。幻で見えなくしてあった。何も怖いことはない、大丈夫だから。ほら、スノーもおいで…」

臆している主人を他所に、スノーはわかったというように小さくいななき、カズマに従順に従った。

「す、スノー」

スノーはマコを気にするそぶりなどみせず、カズマと並んでどんどん歩いてゆく。

「もう、スノーったら」

ふたりに置き去りにされそうになって、マコは小さく地団太を踏んだ。

カズマが振り向いた。

「ほら、おいで」

カズマはマコに向けて、大人が拗ねた幼い子どもに対するように、ご機嫌を取るように手を差し伸べてきた。

マコは自分が軽んじられているような気がして、その場から動かずにカズマを睨んだ。

カズマは苦笑しつつ戻ってくると、マコの手を取って歩き出した。

「あんがい意地っ張りなんだな。もっとおとなしいのかと思った」

「おとなしい女性が良かったのなら、おあいにく様」

マコは本気でぷりぷりしつつ言ったのに、カズマはくすくす笑うばかりだ。

むっとしてカズマの笑い顔を見ていたマコだが、いまさら喜びに包まれた。

カズマが、彼がここにいる。

繋がっているカズマの手のひらのぬくもりを感じて、マコは泣きそうになった。





カズマが連れて行った場所はそんなに遠くなく、とんでもなく美しい場所だった。

丸く開けた場所には、小さな池があり、座り心地の良さそうな倒木が転がっていた。

「こんな場所があったなんて…」

「昔からここで遊んでた。マコ、座って」

スノーは池に近づき、水を飲んでいる。
マコはそれを眺めながら、カズマの勧めに従った。

カズマは当然のように、マコに寄り添うように倒木に座り込んできた。

こんなの馴れ馴れしすぎると思うのに、嬉しくてならない。

カズマは繋いだ手も、離そうとしなかった。

「貴方は人間族なのに、どうして妖精国に?」

「僕こそ、不思議に思った。君は、俺が人間族なのに、さほど驚かなかったな?」

「…見たことが…ありますので…」

本当は、サンタ様の家でお世話になっていますからと言うつもりだったのに…

出てきた言葉は彼女の意志を無視した、まるで違ったものだった。

マコは胸に違和感を感じた。

「そうなのか?妖精国には、よほどのことがないと入れないんだが…」

「あなたはどうして入れたのですか?」

「俺は、トモエの友人なんだ。この国の王だが」

「トモエ様の?ご友人だったのですか?」

マコは驚いてカズマを見つめた。

そ、そうだ。彼は魔法使いだった…
人間族の中でも、特別な人なのではないだろうか?

「あの湖はどこにあるんですか?」

カズマはマコを見つめて、思案顔をし、口を開いた。

「あの湖は、必要な時にしかいけないんだ。もともとそういう場所なのさ」

マコはカズマの説明にパチパチと瞬きした。

「ならば、あの時は?…必要な時だったとおっしゃるの?」

「そうだろう。俺と君を出会わせてくれた。…マコ」

カズマの真剣な瞳を、マコはドキドキしつつ見返した。

「はい?」

「運命だったのだと思う」

カズマの顔がゆっくりと近づいてきた。

「君と…」

身動きできぬまま、カズマを見つめていると、彼の唇がマコの唇に微かに触れた。

「俺は出会うさだめだったんだ」

カズマは唇を触れ合わせたままそういうと、唇をぴたりと合わせた。

言葉を少しずつ交わしながら、ふたりはほとんどの時間を、互いを見つめあうことと、口づけばかりに費やしていた気がする。


スノーに、鼻面で肩を突かれ、マコは我に返った。

驚いたことに、すでに夕暮れていた。

「か、帰らなきゃ」

マコは驚きながら立ち上がった。

「マコ、また会えるな?」

マコは願いを込めて強く頷いた。

カズマはほっとした笑みをみせた。

「それじゃ、三日後、ここで」

「でも、小道が…」

「大丈夫、君は見つける」

後ろ髪を引かれる思いに苦しみすら覚えながら、マコはスノーに手を掛けた。

カズマの手が肩に触れた。

彼は性急な口づけをし、心残りそうに顔をあげた。

「三日後だぞ、マコ、必ず」

頬を赤らめ鼓動を速めたまま、マコは別れに胸が迫って言葉にならず、未練をたっぷりと残しながら、その場を後にした。




   
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