kuruizakiに、ふぁんたじーだ
  
  恋に狂い咲き パラレルストーリー
  300万・400万ヒット記念企画 特別編
  (登場人物、狂い咲きのメンバー)


第4話 招かれざる客人



きこりの家へと続く小道。

マコは急くような気持ちでスノーを駆けさせていた。

約束の日までの三日間の長かったこと…

こんなに時の進みを待ち望んだことなど、初めてだった。

カズマはマコに何をしたのだろう?

彼との出会いからの二週間は、胸がつぶれそうなほどの失望を彼女に味あわせたし、この三日間は、彼に逢えることだけを考えていた。

魅了されてしまったのだ。

マコの心は、もうマコのものではないのかもしれない。


幻の小道があったあたりに到着し、マコはスノーから降りた。

「ここよね?スノー」

スノーはそうだというように、頭を上下させながら小さくいなないた。

カズマはマコなら見つけられると言ったけれど…本当なのだろうか?

マコはハッとして目を見開いた。

小さな光の点がゆらゆらと宙に浮いている。

初め、木漏れ日だろうかとも思ったが、その一定でない動きは、そうではないようだ。

マコの見たことのない生物なのだろうか?

恐れが湧いて光から一歩退いたとき、微かな声がした。

「我は問う。おぬしの名は?」

マコはぎょっとして光を見つめ、スノーにすがるような目を向けた。

「ス、スノー、いまの声…こ、この光から聞こえなかった?」

金属的な声は、頭に直接響いたように思えた。

聞き取れないほどの音量なのに、はっきりと意味を聞き取れたことも不思議だった。

「我は問う。おぬしの名は?」

光は先ほどとまったく同じに、言葉を繰り返した。

これって、カズマの?

そうに違いない。彼は魔法使いなのだもの。

マコは息を吸い、光に向かって口を開いた。

「私の名は、マコです」

光がパッとはじけた。

眩しい光を浴びて、きゃっと悲鳴を上げたマコの前に、幻の小道が現れた。

「こ、こういうこと、必要なわけ?しなきゃいけないわけ?スノー、カズマ様ったら、私のこと驚かせて楽しんでいらっしゃるんじゃないかしら」

心臓が止まるかと思うほど驚かされたことに、ぷりぷりしつ、マコはスノーにカズマに対する文句をぶちまけた。

だが、その一方で、マコの心には、カズマとの待ち合わせの場所へと通じる小道を見つけられた喜びがせりあがってくる。

スノーと小道へと入り、なんとなく後ろに振り向いて確認すると、きこりの家へと続く道の方が消えていた。

カズマはほんとうに不思議なひとだ。

トモエ王も魔法を使えるが、見せてもらったことはあまりない。

必要に応じてしか、魔法は使わないとのことだった。





ひらけた場所には、人影はなかった。

すでにカズマはいるものと疑わなかったマコは、がっかりしつつ、池に近づいた。

「なんだか吸い込まれそうね」

水の底を透かしみて、いくぶん畏れを抱きつつそうマコがそう言った時、水面にさざなみが立った。

横を見ると、スノーはなんの感動もなく、普通に水を飲んでいる。

「スノーってばぁ」

マコは手を振り上げて、友の背をパチンと叩いた。

不平を言うようにいななき、スノーがブルブルと首を振るのを見て、マコは笑い声を上げた。

「マコ、待たせたか?」

「カズマ様」

マコは声に振り向きざま、カズマに駆け寄り、思わず彼に抱きついた。

「マコ」

カズマの驚きを混ぜた嬉しげな声に、マコははっと我に返り、パッとカズマから離れた。

「あ、ご、ごめんなさい」

こ、こんなこと、まったくもって、自分らしくない。

真っ赤になって俯いたマコは、くすくす笑うカズマに抱きしめられていた。

「わ、笑わないでください」

「でも嬉しいんだ。また君に逢えて…だから笑いが込み上げてくる」

カズマの肩に顎を乗せたマコの耳に、カズマの言葉が甘く響く。

こんなにしあわせな時など、味わったことがない。

マコはカズマの背中に両手を回し、ぎゅっと力を込めた。





「あの光はなんだったのですか?」

「ああ、あれは見張り役だ」

「見張り役?」

「幻の小道に一度入ったものには見えるんだ。光は意識を感じる。そして、自分の認知したものに問うのさ」

「我は問う。おぬしの名は?」

マコは光の言葉を口にした。カズマが楽しそうに微笑んだ。

「そうだ。君が名を答えれば、道は開ける仕組みだ」

「三日前、別れる前に、どうしてそのことを教えてくださらなかったの?」

マコは咎めるようにカズマに言った。

「知っていたら、楽しみがなくなるだろう」

したり顔でいうカズマに向かって、マコは頬を膨らませた。

「だって、パチンって弾けて。…もう口で言えないくらい驚かされました」

大きな声でカズマは笑い出した。

「カズマ様」

「サプライズが好きなんだ。驚きは人生の宝だ。俺といる限り、君を退屈させはしないぞ」

そう言ったカズマは、突然笑みを消した。

「マコ」

「はい」

「君は妖精族だ」

「は、はい」

「私は人間族」

カズマの言おうとしていることが分かって、マコは萎れた。

「だが、俺は、君と一緒に…」

馬のいななきが遠くで聞こえ、カズマは言葉を止め、いななきが聞こえた方向に、上半身で振り返った。

いまのいななき?

スノーを見ると、首を傾げて思慮しているように見えた。

あれはたぶん…

「招かれざるお客人が来るようだ」

「トモエ様も…この場所に」

カズマはトモエの名を聞いて、苦笑いを見せた。

「ここは、もともとあいつの遊び場だ」

マコは納得して頷いた。

「王になって後、多忙さに、あいつがここに来ることはなかったんだが…」

トモエはかなりの速度でここに向かっているようで、ひずめの音は地面を揺るがすほどに荒々しく聞こえた。

すぐにやってくるだろう。

マコは焦りに駆られた。

「わ、わたし…か、帰ります」

上ずった声で言ったマコに、カズマがぐっと眉を寄せた。

「どうして?」

「こ、こんなところで…トモエ王と顔を合わせるなんて…無性に恥ずかしいですわ」

「別にいいだろ。なんでそんなことを気にする。俺と一緒にいるところを見られて、王に誤解されたくないのか?」

突然、怒りを見せたカズマに、マコは驚いた。

「カズマ様、そういうことでは…ただ、恥ずかしいだけ…」

カズマは荒々しく唇を合わせてきた。

マコは驚きに打たれ、カズマを引き剥がそうとしたが、カズマは許そうとしない。

ドドウッと大きな音があたりに響き渡り、ブラックのいななきがすぐ側で聞こえた。

「これは…」

驚愕したような声…トモエ王だ。

まだ口づけから解放されぬまま、マコは身を縮ませた。

「カズマ!」

カズマが突然マコから離れた。

身を竦ませて目を見開くと、目の前にカズマとカズマの肩をがっしり掴んでいるトモエ王の姿があった。

トモエ王の表情には、困惑と凄まじい怒りがあった。




   
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