kuruizakiに、ふぁんたじーだ
  
  恋に狂い咲き パラレルストーリー
  300万・400万ヒット記念企画 特別編
  (登場人物、狂い咲きのメンバー)


第五話 結ばれた心



「これは、どうしたことか!」

激しい怒りに突き上げられた吼えるようなトモエ王の声に、マコは怯えた。

「どうしたこと?」

カズマはマコの怯えを感じ取ったのか、彼女から恐れを取り除こうとするように、手のひらでそっと背を撫でた。

「わざわざ問うような、野暮なことをするのか?見て分かっただろう?」

「カズマ!おのれ!」

「落ち着け、トモエ。取り乱すなど、お前らしくもない」

「これが落ち着いていられるか。この隠れ場にマコを連れ込んで、カズマ、許されると思うのか?」

「連れ込んだ?まあ、半分はそうかもしれない。だが、マコもそれを望んでる」

「そんなわけが…」

「あ、あの。トモエ様」

マコはいきり立っている王に、おずおずと言葉を掛けた。

正直、彼の怒りが恐ろしくて、声など掛けるのはためらわれたのだが…

「誤解がありますわ。わ、私、カズマ様に、連れ込まれたわけではありません。自分の意志でここに来たのです」

「マコ」

カズマはマコの言葉に、満ち足りた笑みを返してきた。

だが、かたや、トモエの顔は、さらに険悪になった。

「君は、どこでカズマに逢った?いつ?」

「に、二週間ほど前、偶然に湖で…お逢いしました」

「…湖?どこのだ?」

「それが分からないのです」

「分からない」

トモエは、平坦な声で呟くように言った。

そのトモエの瞳が揺らいだ。

「トモエ…もう分かっただろう?俺と彼女は出会うさだめだったのさ」

「そんなことはまやかしだ!」

「まやかしでないことは、お前は誰より良く知っているはずじゃないか」

トモエは顎を強張らせ、口を一文字に結んだ。

ぎりぎりと音がしそうなほど、顎に力を入れている。

トモエの怒りが、その顎と、危険な光を発している瞳に集中しているのがわかり、マコは恐れを感じて一歩退いた。

「トモエ、マコを恐れさせるな」

カズマは彼女を守るように横抱きにきつく抱きしめてきた。

「マコは、私のものだ」

カズマの言葉に、トモエが失笑した。

「馬鹿な」

トモエはマコを見つめ、それからカズマに視線を当てた。

冷静な目だった。

その冷静さは、真実のものではなく、王の意志の力でまとったもののように思えた。

瞳の表面には、感情の波一つ立っていないが、瞳の奥には計り知れない憤りが潜んでいるようだ。

「マコは…彼女は妖精族だ。お前達はけして結ばれない。それが真実のさだめだ」

「これまで前例がなかっただけのことだ。誰がなんと言おうとも、私は彼女を妻にする」

マコはその言葉に驚いた。
もちろん、とんでもない量の嬉しさが湧いた。

「お前の知らぬらしい普遍の事実を、ひとつ教えてやろう」

トモエは、ひどく冷淡な声で言った。

「知らぬ事実?」

「妖精族の我らが、この地だけで暮らしているのは理由がある」

「理由?」

「生きられないのだ。この地を満たしている特殊な精気なくしては、我々妖精族は生きられぬさだめなのだ」

カズマの顔が驚きに染まった。

その事実をもともと知っていたマコは、カズマの驚きに哀しい気持ちになった。

彼は知らなかったのだ。
一番知っていなくてはならない事実を…

「それは本当のことか?」

「本当ですわ」

意気消沈したマコは、ぽつりと言った。

カズマが衝撃を受けたように大きく喘いだ。

「わかったろう。何がさだめの出会いだ。お笑い種だ」

トモエのあざけりを含んだ言葉を聞いて、カズマはぐっと胸を逸らした。

「道を見つけるさ」

「道だと?」

「ああ。彼女は必ず私の妻にする。そのために障害となるものはすべて、俺の手で取り除く」

カズマは拳を固めて、トモエに向けて突き出した。

くっくっと、トモエの笑い声が響いた。

顔を上げたトモエは、もう笑っていなかった。

彼はカズマに抱かれているマコを鋭い目で見つめ、カズマに向いた。

「できるものならば、やってみるがいい」

「言われなくともそうするつもりだ」

「だが、彼女を危険な目に遭わせることだけはするな。この国から無理やり連れ出しなぞしたら、彼女は三日ほどしか生きられぬだろう。そのことは肝に銘じておけ」

カズマとトモエは、長いこと睨み合った。

「わかった」

「マコ、わたしと一緒に帰ろう。送って行く」

「ダメだ。彼女はまだ返さない。お前ひとりで帰ればいい」

「マコ」

トモエの呼びかけに、マコはカズマにしがみつくことで答えた。

マコの気持ちはすでに固まっている。

カズマを失ったら、二度と生きる喜びを感じられないだろう。

トモエは怒りを静めるためにか、大きく息を吐き、ブラックに跨った。

そしてそのまま現れた方向へと駆け出し、すぐに姿は消えてしまった。

ブラックのひづめの音だけが、しばらくの間、池のほとりに響き続けた。

「マコ」

マコはカズマの胸に抱かれ、目を閉じた。

彼女はカズマを信じる。

「君に了解を取る前に、あんなことを言ってしまって…ロマンチックじゃなかったな」

そう言ってカズマはため息をついた。

後悔をたっぷり含んだカズマの声に、マコは笑みを浮かべた。

あの言葉を聞いた瞬間、とんでもなく胸が震えた。

ロマンチックなどより、よほど胸に響いたのに…

「いまさらだけど…マコ、俺の妻になってもらえないだろうか?」

カズマの言葉は真実嬉しくてならなかった…だが、素直にはいとは言えない。

「カズマ様。私は妖精族なのです。トモエ王が口にされたとおりなのです。私は人間族の住む地にはゆけません。それでもいいのですか?」

カズマは思案するように眉を寄せた。

「君は、俺がこの地に住むことを望んでいるな」

その言葉に、マコは驚いた。

それでしか、ふたりがともに生きることは出来ないのに…

カズマは何を望んで…

「は、はい。だって、私は…」

「俺はこの地には住めない。この地に住む権利を持たないんだ。トモエ王は、けして許さないだろう」

「で、でも…」

「私は君を人間国に連れてゆく」

「でも、…それは無理です」

「いまは無理だろうな。まだ私はその術をもたない。だが…」

「カズマ様?」

「この世には起こせない奇跡はない。なにより、俺と君は出会うさだめだった。必ず方法は見つかる」

「方法?どんな?」

「君を人間族にする方法だ」

マコはあ然とし、目を丸くしてカズマを見つめた。

「そ、そんなことは不可能です」

「いや。見つけ出す。マコ、そんなことより、君だ」

「わ、私?」

「ああ、君は私に付いて来てきてくれるか?」

「え?」

「君は、親も兄弟も親戚も友達もすべて捨てる覚悟は…あるか?」

マコはカズマを見つめ、ぎこちないながら、深く頷いた。

カズマがほっしたように息を吐いた。

「わ、私、ひとりなんです」

「えっ?」

「私は、ひとりなんです。親も兄弟もいないんです」

「孤児?…だというのか?」

カズマはひどく腑に落ちない顔になった。

マコは、天涯孤独な身の上の自分が恥ずかしくなり、カズマから視線を外した。

「そんなことは聞いたことが…妖精族は…」

カズマは言葉を言いよどみ、黙り込んだ。

妖精国に、孤児など…存在しない。カズマはそう言いたいのだ。

「君は…」

マコはカズマの口から出る言葉を聞くのが恐ろしくなり、彼から身をふりほどこうとした。

「マコ?」

「私…」

「君に親類縁者がいないのなら、私にとっては好都合だ」

「え?」

「妖精国に未練はないのだろう?」

カズマの顔を見つめたマコの脳裏に、仲の良い友の顔が浮かんだ。

だが…

「私はカズマ様とともにいたいです」

カズマは頷いた。

その瞬間、マコは、ふたりの心がひとつになった奇妙な感覚に囚われた。

ふたりの心は、言葉にならない不思議な力で、いま結ばれたのだ。




   
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