kuruizakiに、ふぁんたじーだ
  
  恋に狂い咲き パラレルストーリー
  300万・400万ヒット記念企画 特別編
  (登場人物、狂い咲きのメンバー)


第七話 友のぬくもり



これから自分はいったいどうすればいいのか?

マコは、そればかり考えながら、サンタの家へと戻った。

サンタの家の居間のあかりを目にして、マコははっとした。

そ、そうだわ!

夕食のことをすっかり忘れていた…

今夜は、サンタ様にとって、もっとも大切な日だというのに…

マコはスノーから転がるように降りると、焦りに足元をもつらせながら家に入った。

「マコか、おかえり」

動転しているマコと対をなすように、サンタはのんびりと声を掛けてきた。

「わ、わたし、わたし…」

マコはパニックに陥って、その場にしゃがみこんで泣き出した。

サンタの顔を見て、心の底に突き上げてきた思いのもろもろを、いまのマコはなにひとつ処理できなかった。

心の混乱に駆られて号泣し続けたマコは、エネルギーを枯渇させてぐったりとサンタにもたれかかっていた。

「マコ…」

サンタの腕はあたたかかった。

まるで幼子をあやすように、サンタはマコの身体を撫で、やさしくゆすった。

「お前をここに迎えたのは、つい数日前のような気がするよ、マコ」

知らぬ間に、ソファに座っている。

「サンタ様…わ、私は…何者なのですか?」

「おかしな問いだね。お前はマコだ。それ以外の者ではないよ」

「分かっていらっしゃるのでしょう?カツマは…カツマではなかったのです」

「ああ。そうだね」

マコは驚きとともに顔を上げた。

「知っていらっしゃったのですか?」

「ああ。知っている」

「ど、どうして教えてくださらなかったのです?」

「お前を想うからだよ」

「どういうことです?」

「カズマは死んではいない。致命傷は負ったが、生きている」

「ほ、ほんとうに?」

サンタの頷きに、マコは安堵しすぎて眩暈がした。

「もう一度、カズマ様にお逢いできますか?」

「それより先に、いったいどんなことが起こったのかをまず聞きたいものだが…」

「え?」

マコは、サンタの問いに驚いた。

「サ、サンタ様は、すでに全てをご存知かと…」

サンタはくすくす笑い出した。

「私は全能ではないよ」

「でも、カツマがカズマ様だということを…それにあの方は生きていると…」

「分かることと分からないことがある。すべてを知りえるわけではない。マコ、話は明日にしよう。今宵はゆっくりしていられない」

その言葉を聞き、マコは唇を噛み締めた。

そうだった。今夜、サンタ様は…

「夕食にしよう」

「申し訳ありませんでした。すぐに…支度を…」

「支度は出来ている」

「え?」

「おいで」

サンタに促されて台所に入ったマコは、入り口で立ち竦んだ。

食卓には零れ落ちそうなほどの料理が盛られた皿がひしめいていた。

「こ、これ?サンタ様が?」

「ああ。いつもは君がやってくれるからね。料理はひさしぶりだった。だが、腕は落ちてはいないと思うがね。さあ、マコ食べよう」

「わ、わたし…。ご、ごめんなさい」

「マコ、こういうときは、謝りの言葉でなく、喜びの言葉が欲しいね」

「サンタ様に料理をやらせてしまうなんて…それも今宵のような大切な日に…わたし…どうしたら…」

サンタはくすくす笑いながら、マコの背中を、軽く愛情込めて叩いた。

「私は長いことひとりきりで暮らしてきた。なんでも自分でやっていたんだよ」

そ、そうだった…

サンタ様のお役に少しでも早く立ちたくて、必死でお料理やお掃除のお手伝いをした…

「さあ、食べようじゃないか。時間を気にしながら口にしては、おいしさも半減だ」

「は、はい」

マコは勧められるまま、椅子に座った。

「あとでスノーのところに行っておいで、彼女はとても心配しているよ」

マコは自分が恥ずかしくてならなかった。

自分ときたら、戻って、スノーに一言の言葉すら掛けずに…

食欲はなかったが、サンタと静かに語りながら食べているうちに、マコは少しずつ元気が出てきた。

「サンタ様、私はどうやってここに来たのですか?」

何度も同じ問いを口にし、いつもはぐらかされてしまっていた…けれど、いまなら…

「それらの話はいまはやめておこう。マコ、スノーが待ちわびているぞ」

サンタはそれだけ言って、静かに部屋を出て行った。

質問の答えをもらえないもどかしさを押し殺し、マコは後片付けのために立ち上がった。


「スノー」

スノーの住まいにやってきたマコは、彼女にすまなそうな声を掛けて、中に入った。

床は柔らかなコケがびっしりと生え、いつでも生き生きとした深い緑色をしている。

マコは、柔らかさを心地よく感じながら、スノーに近づいていった。

「ごめんなさい」

分かっているというように、スノーは慰め混じりのいななきを上げた。

スノーの心のあたたかさにマコは堪えきれず、愛馬に寄りかかって長いことすすり泣いた。




   
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