クリスマス特別編
《苺×爽》
第6話 イブのご依頼



目的地に無事到着した。

「おおっ、ここですか? 素敵なところですねぇ」

車を降りた苺は、周りを眺め回しながら興奮気味に言う。

「ええ。悪くありませんね」

「爽様、鈴木様。あちらにスタッフが出迎えに参っておりますよ」

そう話しかけてきたのは、善ちゃんだ。ここまで善ちゃんの車でやって来たのだ。
さらに藍原さん岡島さんも別の車で一緒に来ている。

藍原さんと岡島さんも車を降りて、三人のところに歩み寄ってきた。

善ちゃんの向いているほうに視線を向けると、スタッフがふたり駆け寄ってきていた。

「ご苦労様です」

苺たちに向けて、そう声をかけてくる。

実は彼らとは、すでに打ち合わせで顔を合わせている。

ふたりは持ってきた荷物を受け取ってくれ、先に立ち、苺たちを案内してくれた。

うひゃーっ、なんかもう、わくわくしてきたな。

「それで、予定通り進んでいるのですか?」

爽が前を歩くスタッフに聞く。

「はい、滞りなく進んでおりますので、いまのところ予定通りに開始となりそうです。……ああ、ちょっと狭いのですが、こちらの通路に……見つかってしまいますと、困りますので」

スタッフは、スタッフ専用と思われる通路へと、五人を導く。

だよね。参加者の誰かに見つかっては、せっかくの計画がおじゃんになってしまうかもしれないもんね。

案内された部屋に入り、苺はさっそく身支度することになった。

爽と藍原さんと岡島さんは、隣室で支度している。

本当は四人だけで来るつもりだったんだけど、話を聞いた善ちゃんがどうしても自分もお供させてほしいとお願いしてきたんだよね。

もちろん善ちゃんも一緒で嬉しい♪

さて、着替えないとね。

苺は服を脱ぎ、ここのところ毎日着ているイチゴサンタのコスチュームに着替えた。

あとはこの衣裳に見合ったお化粧をするんだけど……

自分でもやれるんだけど、今日は爽がやりたがってるんだよね。

苺はイチゴサンタの帽子を取り上げ、爽たちの部屋に行く。

コンコンとノックをして、「イチゴサンタでーす」と呼びかけたら、「どうぞ」と笑い交じりの返事があった。

こちらの三人も、すでに支度は終えたのだろう。

「おまたせでーす」

イチゴサンタのふくらんだコスチュームで、なんとかドアをくぐり抜ける。

「これは、なんとも可愛らしい」

善ちゃんが真っ先に声をかけてくれた。

新しいお店では毎日着てたけど、善ちゃんが、このイチゴサンタの苺を見るのは、今年は初めてだ。

苺は大サービスして、善ちゃんの前でくるりと一回転してやった。

嬉しいことに、ますます大喜びしてくれる。

「苺、ほら、お化粧しますよ。そこに座って」

すでに化粧品を用意していた爽が、苺に命じてくる。

苺は素直に座り込んだ。

爽と藍原さんと岡島さんの三人は、去年も着ていた真っ赤な地に、白と銀色が使われたド派手なスーツ姿だ。そして山高帽も、テーブルの上に三つ並べて置いてある。

「ほら、前を向いて」

山高帽を見ていたら、爽の手で顔をまっすぐに戻された。

さっそくお化粧が始まる。

かなり塗りたくってくれる。

藍原さんと岡島さんは愉快そうにその様子を見物しているが、善ちゃんは眉を寄せている。

マスカラと口紅を塗ってもらっていたら、善ちゃんがおずおずと口を挟んできた。

「爽様、さすがに少し塗り過ぎではございませんか?」

「これくらいでいいんだ。ねえ、苺」

「はい。苺とわからないくらい塗らないと、イチゴサンタとしては完璧じゃないですからね」

「そうなのですか?」

「そうなのですよ」

鸚鵡返しに善ちゃんに答えたところで、爽は頬紅を塗り始めた。

これまたたっぷりと塗ってくれる。

「できましたよ。うん、完璧ですよ」

爽は満足そうだ。

鏡で確認してみたら、イチゴサンタがこちらを見ている。

苺はにこっと笑いかけた。
イチゴサンタもにこっと笑いかけてくる。

やっぱり、これはもう苺じゃないな。

それが楽しい。

そのとき、訪問者がやってきた。今回の依頼人様だ。

感謝の言葉をたっぷりもらう。

依頼人さんが戻って行き、あとは時間がくるまで待機だ。

「あの、爽様?」

おずおずと善ちゃんが爽に話しかけた。

「なんだ?」

「あのぉ……」

善ちゃんはなにやらポケットから取り出し、両手でそれを捧げ持った。

あれっ、デジカメだ。

「イチゴサンタの鈴木様と写真を撮らせていただきたいのですが」

「ああ、いいですよ。爽、お願い」

苺は善ちゃんのデジカメを取り上げ、爽に声をかけつつデジカメを手渡した。

そして、善ちゃんの腕を取ってくっつく。

「す、鈴木様! 爽様にではなく、藍原君か岡島君に」

「いいですね。私とのツーショットもお願いできませんか? 爽様」

善ちゃんの言葉はスルーし、藍原さんはからかうように爽に声をかけた。

「あ、藍原君!」

「吉田さん、冗談ですよ」

藍原さんは苦笑しつつ、むっとしている爽の手からデジカメを取った。

それから撮影会が始まってしまった。

色んなペアで撮ったし、最後にはここのスタッフにお願いして、全員揃った写真も撮ってもらえた。

こいつは、あとで見るのが楽しみだ。

そんなことをやっていたら、ついにお呼びがかかった。

スタッフに出番ですと促され、一気に緊張してしまう。

「そ、爽。苺、ちょっと緊張してきちゃったですよ」

「大丈夫ですよ。私がついています。たとえ本番でずっこけたとしても、貴女なら笑いを取れる。みんな許してくれますよ」

「笑を取ってちゃダメに決まってます。今日は厳粛な式なんですよ」

「そんな風に考えるから緊張するのですよ。いいですか、いまの貴女は鈴木苺ではなく、イチゴサンタなのですよ。らしくありなさい」

苺じゃなくて、イチゴサンタ。……らしくありなさいか。

爽の言葉で、なんだかファイトが燃えてきた。それとともに緊張が薄まる。

「ありがとう、爽。緊張が取れちゃったですよ」

お礼を言ったら、爽は嬉しげに微笑み、軽くキスする。

「わっ。も、もおっ、みんないるのに……それに、ほら爽の唇に口紅がついたちゃったですよぉ」

「拭けばいいだけのことですよ」

なんでもなく言い、爽はすっと取り出したハンカチを苺に差し出してくる。

へっ? 苺に口紅を拭きとってくれっての?

みんなが見てるのに?

けど、ここで嫌だと言ったら、爽がへそを曲げそうだ。

苺は照れで顔を真っ赤にしつつ、口紅を拭きとってあげた。

「爽様、鈴木様。もう行かないと、お客様を待たせてしまいますよ」

藍原さんが急かしてきた。
スタッフのひとも、そわそわとして待っているようだ。

「そ、そうでした」

慌てた苺の手を、爽が取る。

「さあ、行きましょう」

爽にエスコートされ、苺はドキドキわくわくしながら、スタッフさんの案内について行ったのだった。






プチあとがき

苺パニック、クリスマス番外編、これにて終了となります。

えっ、納得いかない?

そうですよね。笑

このあとのお話は、この下から進んでくださいませ。
お楽しみいただけたら嬉しいんですけど。


では、どうぞ。
     ↓

最高に素敵なサプライズ




  
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