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第2話 クリスマスパーティ同伴者
「わあっ、たいてい」
休憩のために店の事務所に入った大成は、姪っ子の奈乃の大歓迎を受けた。
両手を広げて抱っこをせがんでくる奈乃を抱き上げ、大成は兄の賢司に顔を向けた。
「兄さん、イブの日、ちょっとした用事が出来たんだけど、数時間抜けてもいいかな?」
「イブか。忙しい真っ盛りじゃないか」
「数時間だよ。午後の三時間くらいでいいんだ」
「三時間? いったい何の用事があるんだ?」
「実はさ…」
コンコンとドアをノックする音に、大成は言葉を止めた。
「失礼しますぅ」
入って来たのは、サンタガールの玲香だった。
「ああ、玲香ちゃん、お疲れさん」
「はい。あっ、奈乃ちゃんだぁ」
奈乃を目に入れた玲香は、パッと笑顔になって奈乃に手を伸ばしてきた。
「奈乃ちゃん♪」
百ワット以上の光り輝く笑みで、玲香は奈乃を誘ったというのに、奈乃はぷいっと顔を背けた。
「え、ええーっ、な、なんでぇ?」
「玲香ちゃん。ダメダメ。大成に抱かれた奈乃は、もう誰にも目をくれないよ」
「ええーっ」
玲香は不服そうに、大成を睨みつけてきた。
睨まれてもしょうがないのだが…
「ほら、奈乃、お姉ちゃんがおいでってさ」
「奈乃、たいていなの。ごめんしゃい」
大成の胸元をぎゅっと握り締め、奈乃はひどく申し訳無さそうに、玲香に向けてぺこんと頭を下げた。
「ブッ!」
賢司が派手に吹き出し、玲香は雇い主だというのに、鋭い目で賢司を睨む。
「ごめんごめん。でもさ、君はいいよ。言っとくけど、僕はこの子の父親だってのに、君と同じ扱いなんだぞ」
賢司はそう言うと、奈乃に向けて手を差し出した。
「奈乃、おいで」
「パパ、おちごとよ」
「パパはいま、お仕事お休み中だよ、ほら奈乃、おいで」
奈乃は、ブンブンと首を横に振る。
「パパはおちごとです。奈乃はたいていでいいのね」
「なんだよぉ」
情けない顔で文句を言う兄に、大成はくすくす笑った。
なんだかんだいっても、奈乃の一番は母親の麻里子と賢司なのだ。
玲香は賢司から勧められて椅子に座り込むと、肩を落としてサンタの帽子を脱いだ。
大成は思わず玲香に歩み寄り、残念がって俯いている玲香の頭を撫でていた。
大成の行為にひどく驚いたらしく、玲香はパッと顔を上げ、大成を見上げてきたが、その頬は真っ赤に染まっていた。
「あ、ごめん」
つい奈乃のレベルで、玲香を見てしまったが…さすがに彼女は三歳の女の子じゃなかった。
「い、いえ…」
「で、大成、さっきの話の続きだけど。どうしてもイブは休むのか?」
「だから、一日休み欲しいってわけじゃないって。実はさ、これ」
大成はズボンのポケットからチケットを取り出し、賢司に見せた。
「これ、無理やり買わされた。無駄にしたらもったいないし、色々料理とか出るみたいだから、それだけでも食ってくるかと思ってね」
「それなんなんですか?」
玲香がおずおずと聞いてきた。
「クリスマスパーティの参加券」
「へえっ? 誰と行くんですか?」
「別に誰とも。二枚なんて買うつもりなかったんだけど、券を始末したかった友達に押し付けられたんだ」
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
「どうぞ」
手を差し出してきた玲香に、大成は券を一枚手渡した。
「大学の? これって、大学生じゃなくてもいけるんですか?」
「君、行きたいの?」
「えっ? つ、つれてってくれるんですか?」
「いいよ。券を無駄にはしたくないし…。でも、スケジュールは空いてるの? イブの午後なんだよ」
「そ、そうでした。私、イブの夕方まで、ここのキャンペーンガールなんでした」
「いい、いい。ふたりしてパーティに行って楽しんで来い」
賢司の言葉に、大成は振り返った。
「兄さん、それでいいのか?」
「まあいいさ。ふたりとも青春だもんな。おじさんは君らの青春を応援させてもらうよ」
「宮島さんは、まだまだおじさんじゃないですよぉ」
「いやいや、すでに子持ち。おじさんで充分。な、奈乃」
「あいっ!」
父親から名を呼ばれた奈乃は、右手を上げて元気良く答えた。
玲香がたまらないというように笑い出し、大成も笑いに加わった。
まあいいか。
喜んでくれているようだし…
中学生の女の子としては、大学という少しオトナの世界を、垣間見たいのだろう。
大成は手にしたチケットを眺めて嬉しそうに微笑んでいる玲香を、笑みを浮かべて見つめた。
プチあとがき
クリスマスに、ちょこっと番外編をお届けしました。
「君色の輝き」の誠志朗の弟、宮島大成、そして伊坂玲香ちゃん。
玲香ちゃんが誰だか、分かるでしょうか?笑
大成は大学生になってますね。
どうも彼は、啓史の後輩となったようです。
参加するらしい大学のクリスマスパーティは、啓史が飯沢のたくらみでスタッフをやらされたパーティのよう。
行動力のあるリーダー的性格のくるみは、やはりスタッフを買って出たようですね。
あちこちからやさしい風のメンバーが参加してくれて、とっても楽しく書きました。
このお話、たぶんもう1話続きます。
明日、更新できるかなと。
読んでくださってありがとう!!
楽しんでいただけたなら嬉しいです(o^−^o)♪
fuu
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