苺パニック


キリ番リクエスト番外編



1 サンタさんへのお手紙


「みんな、ハサミは気をつけて使うのよ。慌てずにゆっくり切ってね」

担任のふくみ先生が、わいわい騒ぎながら作業をしているみんなにやさしく注意してくる。

みんなは張り合うように「はーい」「はーい」と大きな返事をする。

もちろん苺だって、みんなに負けじとお返事した。

いま、教室に飾るクリスマスの飾りを作ってる。

お星さまに、赤い靴下、ゆきだるまにベルにモミの木。
それらが紙に印刷されていて、子供たちは自由に色を塗ったあと、ハサミで切り抜くのだ。

「苺ちゃん、上手だね」

前の席の洋君が、苺の切り取った飾りを見て言ってきた。

「ありがとう」

褒められて気をよくした苺は、洋君に笑顔でお礼を言った。

「そんくらい誰でもできる」

生意気そうに横合いから口を出してきたのは、苺の右隣の席にいる剛だ。

「ほら、僕の方がうまいぞ」

剛は、挑戦的に自分の作った飾りをふたりに見せてくる。

本人の言うように、確かに上手だった。
切り抜きだけでなく、色もとてもきれいに塗れていた。

「ほんとだ。つよくん、上手だねぇ」

苺が手放しで褒めたら、なぜか剛はうろたえたようだった。

「つよくん?」

「あのなぁ、僕がいまみたいに言ったら、苺も自分の方がうまいって言うんだよ」

「へっ? な、なんで?」

「なんでって……」

苺と剛のやりとりを聞いていた洋君が、なぜか笑い出した。
苺の左隣に座っているすいちゃんも笑っている。

「剛君、面白いねぇ」

洋君がそう口にしたら、剛はむっとした顔になった。

「洋君笑うな! 僕は面白くない!」

「剛君、どうしたの大きな声出したりして? 飾りはできたの?」

「も、もうちょっとでできる」

先生に注意されて剛はもごもご答える。すると、洋君も「僕もできるよ」と、ふくみ先生に言う。
苺も自分の作った飾りを持ち上げて、ふくみ先生に見せた。

「ふくみ先生、見て。苺できたよ」

「あらあ、苺ちゃん上手にできたわねぇ」

大好きなふくみ先生に頭を撫でてもらえ、苺は満面の笑みを浮かべた。

そして教室の中は、クリスマスの飾りでいっぱいになっていった。
もう教室にいるだけで心が弾んでならない。

さらに、今年のクリスマスには、サンタさんに何をもらうかでみんなと盛り上がった。

みんなもう決めているみたいで、すでにお手紙を書いたという子もいて、まだ手紙を書いていなかった苺はちょっと焦ってしまった。

なので、幼稚園バスに乗り込んだ苺は、隣に座っている剛に急いで話しかけた。

「ねぇ、つよくんはもうサンタさんにお手紙書いた?」

「まだ」

よかったぁ。つよくんもまだなんだ。

苺はほっとしつつ、剛を誘うことにした。

「苺もまだなんだ。今日おうちに帰ったら、一緒に書こうよ」

「いいけど」

ずいぶんそっけない言い方するけど、つよくんはいつもこんなだ。

「うん、ありがとう、つよくん」

剛と約束し、幼稚園バスを降りた苺は、迎えに出ていた母親にいつものように飛びついた。

家がすぐ近所の剛の母親も一緒だ。

苺の母はいつもエプロンをつけていて、エプロンの匂いを嗅ぐと、苺は幸せな心地になれる。

けどつよくんは、苺みたいに飛びついたりしないんだよね。

「おかえり剛」と声をかけてきた母親に、「ただいま」とぶっきら棒に答えるくらいなものだ。

健太兄ちゃんに言わせると、つよくんはちゃい……じゃないか……しゃいだったかな? しぇい?

まあ、そうなんだって……

「かーたん、お手紙書くのちょうだい」

苺は母親を見上げて頼み込んだ。

「お手紙?」

「うん。サンタさんに書くの。つよくんのぶんもね……つよくん、苺のおうちにくるよね?」

剛に顔を向け、苺は問いかけた。

「あら、ふたりでサンタさんにお手紙書くの?」

剛の母が尋ねて来て、苺は満面の笑みで大きく頷いた。

「うん。ね、つよくん」

「あ、ああ」

剛はなぜか、みんなにそっぽを向いて仏頂面で答える。

すると、いつものことなのだが、母親は揃って含み笑いをする。

なんでそんな風に笑うのか、苺にはわからないんだけど。

それから、おやつを食べながら、苺は剛とサンタさんにお手紙を書いた。

「さんたくろーすさん、くりすますの……」

苺は声に出して言いながら、ひと文字ひと文字書いていく。

「苺、間違ってるぞ」

「えっ? どこ?」

「『さ』が、どっちも『ち』になってる」

うん?

『さ』と『ち』?

いまいちピンとこないでいたら、剛が紙に書いて教えてくれた。

「これが『さ』で、これが『ち』だ。わかったか?」

「そうか、逆だったんだね」

そんな風に納得し、書き直したら、さらに指摘をもらう。

あと、『く』も逆になってるし。それから、『す』の字に横棒がない」

あわわ‼

間違いだらけで、苺は剛に教えてもらって書き直す。

そんな感じで、苺はなんとか手紙を書き上げた。

お願いしたプレゼントをもらったところを想像し、苺はにんまり笑った。

ピンクの大きなリボンのついた自転車をもらえたら、いま自転車に乗る練習してる健太兄ちゃんのおさがりの青いのなんかぽいしちゃうんだもんね。

「なあ、苺」

「なあに?」

「サンタさんに頼むプレゼント、違うものがいいんじゃないか?」

「違うもの? どうして?」

「いや……苺にはもう、自転車あるからさ」

「だってあれ青だもん。それも健太兄ちゃんのお下がりだし……苺はピンクのがいいんだもん」

そう言ったら、剛は困ったように黙ってしまった。

そんな剛を見てしまうと、苺の心にも不安が湧いてしまう。

「サンタさんはなんでもお願い叶えてくれるもん。去年だって、可愛いバッグが欲しいですって書いたら、ちゃんとくれたし」

心に湧いた不安のせいで、苺はムキになって剛に言ってしまう。

まあ、ピンクのリボンのやつが欲しかったのに、もらったのは真っ赤なイチゴのバッグではあったんだけど。

去年もつよくんに字を教えてもらってお手紙を書いたけど、ただバッグって書いただけだったと思うんだよね。

ピンクのリボンのついたのってちゃんと書けば、絶対ピンクのリボンのバッグをもらえたはずなんだよ。

苺の記憶にはすでに残っていないのだが、去年の苺は『バッグ』の三文字を書くだけでも大変で、書き上げるまでに挫折して泣いてしまったのだ。

結局剛が書いてくれたのだが、苺は自分で書いた気になっているわけだった。

今年は、ちゃんと『ぴんくのりぼんのついたじてんしゃ』って書いた。
だから今年は間違いなく、ピンクのリボンのついた自転車をもらえる。

期待満々で手紙に封をしようとしていたら、兄の健太が学校から帰って来た。

健太は居間に駆け込んできて、「おっかあ、おやつ」と母に向けて叫び、苺と剛がいるのに気づき、「おっ、剛来てたのか?」と剛にだけ声を掛けてきた。

さらに健太は、かついでいたランドセルを無造作にソファに投げる。

苺にとって強いあこがれのランドセル。なのに、そんな風に乱暴に扱うなんて……

罰当たりなお兄ちゃんだよ。

でも来年になったら、苺もついにランドセルを手に入れられるんだもんねぇ。

楽しみだなぁ。

けど、来年ってすっごい遠いよね。

いまは十二月だから……
来年になってお正月になって一月の二月の、三月……

うーん、ひと月って物凄ーく長いのに……なんかランドセル、永遠に苺の元に来ない気がしてくるよ。

「お前ら、何やってんだ?」

苺が憂いていたら、健太がふたりの手元を覗き込んできた。

「サンタさんに、プレゼントのお願いのお手紙を書いてるんだよ」

「ふーん。苺、お前何をお願いしたんだ?」

「教えないよーだ」

なんとなく素直に言いたくなくて、そんな風に言ってしまう。

「かわいくねぇやつ。んで、剛は?」

「望遠鏡」

健太をなぜか崇め奉っているらしき剛は、とても素直に答える。

「へーっ、いいな。もしもらえたら、俺も使わせてくれよ」

「うん」

「つよくん! 苺も、苺も使わせてね!」

苺も負けじと急いでお願いする。

「ああ、いいよ」

剛が愛想よく頷いてくれたので最初大喜びしたのだが、よくよく考えて苺は眉を寄せた。

剛の望遠鏡を使わせてもらうのに、苺のプレゼントはピンクのリボンのついた自転車だ。苺が良くても剛は乗りたがらないだろう。

そう言えば、去年のクリスマスも苺は赤いイチゴのバッグをもらって、つよくんはブロックだった。

だから、苺は毎日くらいブロックで遊ばせてもらってて……

なんかそれって、ずるくないかな?

困った苺は、封をするばかりのサンタさんへのお手紙をじっと見つめたのだった。





つづく






プチあとがき

ゆき様からいただいたキリ番リクエスト。
ようやくお応えできました。
とは言っても、まだ終わっていませんが。(;^_^A

なにはともあれ、幼稚園の苺のクリスマス、いかがでしたでしょうか?
気に入っていただけたなら嬉しいのですが。

まだ続きます。
たぶん、もう一話かなと思います。

あまりお待たせしないうちに、アップできるよう頑張りますので、
お楽しみに♪

読んでくださってありがとうございました。

ゆきさん、リクエストありがとう(*^。^*)

fuu(2016/12/12)




   
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