苺パニック

サイト11周年記念特別番外編

 
主の憂い

第1話 リサーチ(藍原要



「はふうーっ」

要の観察対象が、ふぬけたため息をついた。

ため息の回数は、昨日と比べ、さらに上回っているようだ。

観察対象の名は鈴木苺。
彼女は、要の主である藤原爽のお気に入りである。

人の行動や言動は、かなり予想がつくのだが、鈴木苺は予想できないことが多々ある。
要にとって、そこがなんとも面白い。

その観察対象のため息が、日々更新している原因について、要は承知していた。

もちろん要の主である爽様も理解しておいでだ。

鈴木苺のため息は、前職のことを危惧してのもの。

あれは正月のことだった。

鈴木苺を奪還すべく、勇ましいご婦人三人が、『ジュエリーFujiwara』にやってきた。

鈴木苺がアルバイトをしていた会社の業績が、鈴木苺を失ったために、落ち込んでしまったのだ。

会社の先行きを案じた婦人たちは、社長に直談判し、鈴木苺を正社員にするという約束を取り付け、鈴木苺の元を訪れた。

その話を聞き、鈴木苺は心を揺らした。

自分が戻れば会社を救えるのかもしれない。

仲良しのおばちゃんたちは、自分のために社長に直談判までしてくれた。

戻るべきだと思うものの、すでに『ジュエリーFujiwara』は鈴木苺にとって、離れがたい場所になっていた。

まあこれは、鈴木苺自身が自分を理解できていなかったにしろ、すでに爽様としっかり繋がっていたためだ。

鈴木苺はご婦人たちにもう戻れないと正直に伝えた。

そして婦人たちは、苺の気持ちを理解して帰って行った。


――とまあ、そのような経緯があり、いま鈴木苺はため息の数を日ごと増やしているのである。

考えても仕方のないことだ。

そう考えても、仲良しのご婦人たちや、傾きかけている会社は気にかかるのだろう。

しかし、世の中、そんなことはよくあること。
放っておいてもいい類のものだ。

だが問題は、爽様が鈴木苺のため息に囚われておいでだということ。

主のため、このままにはしておけない。

「鈴木さん」

爽様が、鈴木苺のため息に反応して呼びかけられた。

鈴木苺はハッとして顔を上げ、ちょっとコミカルに慌てる。

呼びかけられて、自分がいまため息をついた事実に気づいたようだった。

「ごっ、ごめんです。いまお仕事中なのに……こっからは、苺、しっかり集中するですよ」

苺語連発に、失笑してしまう。

爽様の婚約者であられる以上、苺語は大問題だ。

爽様の伴侶になろうかというお方が、おつむが軽いと思われては困る。

やめてほしいのだが……そう思うかたわら、これはこれで面白いと思う部分もあり……

まあ、いまはそれについてはいいか。

爽様は、顔を曇らせ、肩を落としている鈴木苺を見つめておられる。

やはり、私の方でなんとかせねばならぬな。





調査してみた結果、鈴木苺の前職である会社は、現在見事に傾いていた。

すでに風前の灯火、と言っていい。

パートのご婦人方は必死に頑張っているのだが、社長は業績が下降の一途を辿っているのが、自分のせいだとわかっていない。

加えて、役に立たない自分の娘をいまだに優遇し、パートを安い賃金で酷使している。

それだけでも目に余るというのに、仕事が減っている現状に腹を立てるばかりで、なんの手も打とうとしない。

いや、手など思いつかないのだろう。商才がないのだ。

元々父親が経営していた会社を引き継いだのだ。

父親が事業に関わっているうちはよかったが、父親が亡くなって業績は落ち込んでいった。

そこに鈴木苺がバイトとして入ってきたのだ。

そして鈴木苺のアイデアのおかげで、ぐんぐん業績は上がって行った。

それは明らかな事実だったのに、社長はまったくわかろうとしなかった。

要が知る限り、最低レベルの能無し経営者だ。


さて、状況はわかったが、どうするかな?





つづく






プチあとがき

『やさしい風』サイト、11周年の記念にお届けさせていただきました。

ずっと書きたいと思っていたお話です。

要は主のため息に、爽は苺のため息に、そして苺は松見たちのことが気にかかりつつも、苺ではどうしようもないことでした。

そこで立ち上がった、要さん!笑

楽しんでいただけたなら嬉しいです♪
読んでくださってありがとう(^o^)丿

fuu(2016/7/2)




   
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