苺パニック

サイト11周年記念特別番外編

 
主の憂い


第2話 報われる瞬間(吉田善一



「辞めるのかね?」

「はい。とてもいいお話をいただきまして、そちらで頑張ってみたいと」

四十代既婚者の有能なスタッフから、突然辞職の意を告げられ、少々驚いたが……

新しい職にやる気を見せて、彼の瞳はキラキラと輝いている。

「わかった。君に辞められるのは惜しいし、私個人としても寂しいが……」

「吉田さん……ありがとうございます。そのようなお言葉をいただき、本当に嬉しいです」

「辞めても、たまには顔を見せてくれるかね?」

「は、はい。吉田さんがそう思ってくださるのなら、お邪魔させてください」

「うん。それと、もし何か困ったことがあったら、いつでも相談してきなさい」

「は、はい」

スタッフは、少し瞳を潤ませ、嬉しそうに下がって行った。

残念だったが、彼の未来は明るい。善一はそれが嬉しかった。


夜も更けてから、仕事を終えた藍原が部屋に遊びにきてくれた。

いつものように、爽様や鈴木様の職場でのご様子を教えてくれる。

二杯目の紅茶を注いでやりながら、善一はスタッフがひとり辞めることになったと話した。

「そうですか」

「寂しいが……とてもやりがいのある仕事のようでね、彼の表情は光り輝いていたよ」

「よろしかったですね。吉田さんの教えを受けて成長したスタッフです。どこに行っても、成功するでしょう」

「かなり厳しく指導しているが……こういう瞬間に報われるよ」

藍原は、善一の気持ちをすべて受け止めるように微笑んでくれる。

その夜、寝床に入った善一は、幸せな気持ちで目を閉じたのだった。




つづく





   
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