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第4話 懐かしい訪問(鈴木苺
爽のお屋敷で夕食を食べた後、苺たちはティールームに移動してお茶をいただくことになった。
このお屋敷で暮らし始めて、もうだいぶ経つ。
仕事はとっても楽しいけど……ふいに思い出して切なくなるのは、前の職場のこと。
松見さんたち、どうしてるんだろうなぁ?
会社は大丈夫なのかなぁ?
つぶれてたりしないかなと思った苺は、慌てて首を横に振った。
縁起でもないよ。
そんなことになったら、みんなバラバラになって、苺はもうおばちゃんたちに会えなくなる。
そう考えた苺は、しょぼんとする。
会いに行きたいけど……
松見さんたちが苺のためにいっぱい頑張ってくれたのを無駄にしちゃって、おばちゃんたちに顔を合わせられなくて……ずるずる日が過ぎちゃってるんだよね。
……それに、会社に行って、もしなくなってたらと思うと、怖くて様子を見にも行けない。
「ところで鈴木さん」
考え込んでいるところに藍原さんが話しかけてきて、苺は慌てて顔を上げた。
「は、はい」
「貴女の前職の会社ですが」
「えっ?」
「経営者が替わったそうですよ」
「ええっ⁉ な、なんで藍原さん、そんなことを知ってるんですか?」
「小耳に挟んだのですよ」
小耳に挟んだ?
苺が戸惑っていると、爽は藍原さんをじーっと見つめ「小耳にね」と繰り返した。
「あ、あの、藍原さん。経営者が替わって、松見さんたちがどうなったかも、知ってるんですか?」
不安いっぱいに聞いてしまう。
経営者が替わって、みんなクビになっちゃってたら、どうしよう?
「松見さんたちも、元気に働いておられるそうですよ」
その言葉に、苺は安堵した。
「よ、よかったーっ!」
けど、藍原さん、どこでそんな情報を小耳に挟んだっていうの?
「あの、藍原さん、いったい誰から聞いたんですか?」
「現社長からですよ」
「いまの社長さんと会ったんですか? あ、あの……元の社長さんはどうなったんですか?」
頑固爺でわからずやな社長さんだったけど、どうなったか気になるよぉ。
「倒産しかけた会社を買い上げてもらって、いまは悠々自適に暮らしているそうですよ」
「そうなんですか」
苺はほっとして息をついてしまう。
「会社は持ち直し、業績を上げているそうです。もう心配いりませんよ、鈴木さん」
「うわあっ、藍原さん、教えてくれてありがとう。苺、ほっとしたですよ」
もう言葉にできないくらい感激だよ。
嬉しすぎて、涙が滲んでくる。
「一度遊びに行かれたらいかがです。みなさん、歓迎してくださいますよ」
そう促されて、苺は顔を曇らせた。
苺だって会いたいけど……
「でも……苺、松見さんたちを裏切っちゃったようなものだし……合わせる顔が……」
「そんなことはありませんよ」
そう言ったのは、爽だった。
「爽?」
「会いに行きましょう。会社を持ち直せたのは、松見さんたちの力も大きいはずです。頑張りを称えてあげてはいかがです?」
爽がそんな風に言ってくれ、苺の胸はいっぱいになる。
苺は、爽と藍原さんの三人で、会社に行ってみることにした。
ひさしぶりの会社は、改装と増築もされていて、見違えるようにきれいになっていた。
従業員も増えているようだ。
一緒についてきた藍原さんは、なんのためらいもなく先頭を切って会社の中に入って行く。
「なんか藍原さん、ずいぶん堂々としてますね?」
「堂々としていない要など、私は見たことがありませんが」
爽がそんなことを言うので、苺は堪らず噴き出した。
確かにそうだよ。
藍原さんに続いて、会社の中に入ったら、男の人が数人、きびきびとした歩みで出てきた。
ひとりは新しい社長さんで、残りの男の人たちは、従業員だと紹介された。
「そういうことか」
爽は新しい社長さんを見て、思わずというように口にした。
かたや社長さんの方は、爽を前にしていくぶん緊張の面持ちで、きっちりと頭を下げた。
なんだか、爽と社長さんは顔見知りっぽい。そして藍原さんも。
それにしても、『そういうことか』ってのは、どういう意味なんだろう?
社長さんに苺のことは伝わっているらしく、すぐに松見さんたちのいる職場に案内してもらえることになった。
うわーっ、苺、すっごい緊張してきちゃったよぉ。
松見さんたち、いまどうしてるんだろう?
つづく
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