続苺パニック




16 簡単な話(苺



いったい、ここのどこに苺たちのお店はあるっての?

目の前には、社長室というプレートがついているドアがあり、その他にもドアはいくつかあるのだが、どこもお店っぽくはない。

苺は眉をひそめ、後ろを振り返ってみた。

うん?

三人は、なぜか苺をじーっと見つめている。

な、なんなの?

この三人、苺のなんらかのリアクションを待っているようでもある。

「あのー、苺たち、今日から働くお店に来たはずですよね?」

そう問いかけたが、爽は口を開く様子はなく、藍原は微妙に笑いを堪え、岡島は困った顔になった。

「どうして答えてくれないんですか?」

文句を言った苺は、ありえそうにないけど、ありえるかもしれないことを思いついた。

「もしかして」

「もしかして、なんです?」

なぜか藍原が勢い込んで、苺に言葉の続きを催促してきた。
藍原は、微妙に興奮しているようである。

藍原さん、なっ、なんなの? と、苺はいくぶん引いてしまう。

だが、三人とも答えを待っているようなので、苺は思いついた内容を話すことにした。

「社長室っていう店名のお店ですか? 社長さん専用グッズを扱う店とか?」

一瞬、場は水を打ったように静まり返ったが、次の瞬間、爆笑の嵐だ。

「笑うことないじゃないですかっ! 誰も答えてくれないし、苺はそれくらいしか思いつかなかったんですよっ!」

いまだ爆笑の中にいる三人に、憤懣やるかたなく苺は吠えた。

顔を真っ赤にして頬を膨らませていたら、ようやっと三人は笑いやんだ。

まったく、岡島さんまで腹を抱えて笑うとか……三人とも、失礼しちゃうよっ!

「なら、どういうことなのか説明してくださいよ!!!」

怒り心頭で三人に詰め寄ったら、爽が頭を撫でてきた。

笑いものにされて憤っていた苺は、その手を思い切り払ってやろうとしたが、爽はそれを予想していたらく、払われる前に手を引く。

きーっ、むっかっつっくぅ~~~っ。

苺は苛立ちいっぱいに地団太を踏んだ。

すると、何を考えたのか、藍原が苺の前に出てきて、王様を前にしたみたいに姿勢を正した。

今度は、なんなの?

いぶかしく藍原を見る。

「さすが鈴木さんですね」

藍原は、なぜか感服した様子で言う。もちろん苺はおおいに戸惑った。

「さすがって、何がですか?」

「いまの回答ですよ。私の予想を遥かに超えていました。素晴らしい!」

パチパチパチと拍手までくれる。

もちろん、ぜんぜんまったく嬉しくない。

「ああ、さいですか」

藍原さんが、嬉しそうでなによりだ。苺はちっとも楽しくないけどね。

「あのですね。苺はそんな言葉を求めてるわけじゃないんですよ。ここがどこだか知りたいし、お店はどこにあるのか知りたいんですよっ!」

力を込めて言いながら爽に詰め寄ったら、なぜか両手を握られた。

「爽?」

「実は、間に合わなかったのですよ」

申し訳なさそうに言われ、苺は面食らった。

「間に合わなかった? それって、次のお店がってことですか? 苺たちが今日からお仕事するはずのお店……」

「ええ」

なんだ、それ?

「それじゃ、ここはなんなんですか?」

「新しい店を開業するために、色々やらねばならないことがあります。そのためにはオフィスが必要だということで、ここにその場所を作ったのですよ」

「ここに作ったって……でも、ここ社長室って書いてあるんですよ」

「ええ。ですから、この中にスペースを作ったのですよ」

苺はあんぐり口を開けた。

社長室にオフィスを作るって、ありえるのか? いや、どう考えてもありえないよね?

「では、鈴木さん、ご案内しましょう」

爽が言うと、それを待っていたかのように岡島はさっとドアに歩み寄った。そして、かしこまってドアを開ける。

岡島さん、なんかすっごいかっこいいけど……ここはそういう場面なの?

爽と藍原は開けられたドアの中に入って行こうとする。もちろん苺を連れて。

「えっ! えっ! えっ! ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ」

苺は必死に足を踏ん張った。

「社長さんがいるんじゃないですか? 本当に入っちゃっていいんですか?」

「その社長というのは、爽様のことなのですから、入って構わないと思いますよ。鈴木さん」

藍原の言葉に、苺は眉を寄せた。

社長というのは、爽のこと?

「爽が社長?」

「ええ。ですが、別に意外ではないと思いますが? 鈴木さんは、年末の視察に同行されたのですから」

「確かに行ったけど……」

こんな大きなビルに、社長室を構えているとは思わなかったよ。

それで、次の店の開店準備に、ここのスペースを使おうっていうことなの?

そのとき、苺はピーンときた。

そうか、わかったぞ!

つまり、このビルは賃貸のオフィスなんだよ。

三人はオフィスが必要で、それでこの部屋をお借りしたわけだ。

そして、この社長室ってプレートがついてるのは、三人の悪ふざけなんだ。

苺を戸惑わせて面白がろうという魂胆だったわけだな。

なんだ。わかってみると、単純な話だなぁ。





つづく





   
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