続苺パニック




23 お手柄です



車は町から少し離れ、家々がまばらに立っている地域を走っていた。

すでに夕方で、もう薄暗くなってきている。

ここに来るまで、すでに何か所も回った。

森本という人を探しているわけで、少しずつ情報を得られているようなんだけど……

そのひとの居場所は、なかなかわからないようだ。

それでも、爽も藍原も焦りはみせていない。

今日の内に見つからないなら、明日また探せばいいとふたりとも考えているようだ。

そして車は、いまの目的地であった陶芸館にやってきた。

ここは、森村さんってひとと繫がりのある場所らしい。

うつわ販売ギャラリー、体験工房なんて幟がある。

「へーっ、陶芸の体験ができるんですね。苺、まだ陶芸ってやったことないんで、興味ありありですよ」

車を降りて陶芸館を眺めながら、苺は爽に話しかけた。

藍原は陶芸館の入り口に足早に向かっていく。だが、爽は動かない。

苺たちは行かなくていいのかな?

「陶芸がなさりたいなら、いつでも体験させて上げますよ。もちろん、いまは無理ですが」

「それくらいわかってるですよ。森村さんの捜索が先ですよね。でも、あの……爽は陶芸をやったことあるんですか?」

「ありますよ」

なんだ、あるんだ。なんか残念だ。

「なぜ、しょんぼりするんです?」

「爽の方は、もう体験しちゃってるのかと思うと……なんか残念なんです」

苺はそう言って、周りを見回した。

やっぱり北の国を彷彿とさせる景色ではなく、北の国にいるという実感がまるでない。

「苺たち、本当に北の国にいるのかなって疑いたくなっちゃいますね。この景色を写メに撮って母に送っても、北の国とは思ってくれないと思うですよ」

「逆に面白いではありませんか」

「逆に面白い?」

うーん、まあそう言われてみればそうかな?

「ねぇねぇ爽、せっかくだから、ここで記念写真を撮りましょうよ」

「記念写真?」

「思い出写真って言ってもいいですけど……」

ちょっとわくわくしてきて、苺は携帯を取り出した。

爽にぺったりくっつき、携帯を掴んだ手をぐいっと伸ばし、レンズをふたりに向けてシャッターを押した。

チャラリラリーンという賑やかな音がして、苺は撮影した画像を確認してみた。

「おおっ⁉ 爽見て見て、結構いい感じですよ」

撮れた写真を爽に見せたところで、ふたりの背後に藍原が小さく写っているのに気づいた。

藍原は陶芸館の入り口から出てきたところだった。

画像から視線を外し、苺は背後に振り返ってみた。藍原はもうすでに後ろにいた。

「爽様」

「どうだった?」

「森村さんの住所を知っているらしい山本という女性がいたんですが、私には教えていただけませんでした」

そう言った藍原は期待するように苺を見てくる。

「なんですか?」

「鈴木さん、貴女が頼めば教えてもらえるかもしれません。森村さんが窮地に陥っていることはご存じでしたし、とても心配なさっているようでしたから、彼女を助けるために、会う必要があると言えば、きっと」

おおっ、苺がお役に立てる時がやってきたようだ。

胸を高鳴らせ、苺は藍原に向かって敬礼した。

「わかりました! お任せあれですよ。苺、行ってくるですっ!」

苺は勇んで陶芸館の中に駆けて行った。

陶芸館の中に入ると、入り口にいた紺色の制服姿の女の人がいて、苺を見つめてくる。

この人が山本さんなのかな?

歩み寄ってみたら、山本という名札を付けておいでだった。

やっぱりこの人でいいみたいだ。

「あの、すみません。今ここに来た藍原さんの代わってやって来たんですけど……森村さんのおうちの住所、なんとか教えてもらえませんか?」

「あなたは、先ほどのひとと同じ会社の方なんですね?」

「はい。私は鈴木苺と申します。どうかよろしくお願いします」

「ああ、はい。……さっきの藍原とおっしゃる方が森村さんは無実だって言ってらして……信用できそうだとは思ったんですけど、個人の住所を……しかも女性ですし……勝手に伝えていいものか迷ってしまって……。あの、本当に森村さんのことを助けてもらえるんですか?」

「はい。必ずやお助けします。お任せください」

胸を叩いてきっぱり言ったら、その人は小さく折りたたんだ紙を手渡してきた。

受取って確認したら住所が書き込んである。

やった!

ついに重要な手がかりを手に入れられたぁ。

それにしても、いまの苺、探偵さんか女デカみたいだよね。

妙にワクワク楽しいんだけど。

いやいや、楽しがってちゃダメか。

苺は山本さんにお礼を言い、爽と藍原の所に戻った。

「やりましたよっ」

意気揚々と手に入れた紙を藍原に差し出す。それを確認し、藍原は満足そうに頷いた。

「お手柄ですよ。鈴木さん」

「ええ、よくやりましたね。えらいですよ、苺」

ふたりにこれでもかってほど褒めてもらえ、苺はいい気分になったのだった。





つづく





   
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