恋風
クリスマスバージョンおまけ
ハナとクリスマス-2



スタスタスタと、再度パーティー会場を視察に向かったハナは、ドアの外まで人の熱気が伝わってくる場所まで来て、ある女に呼びかけられた。

「まあ、かわいいっ」

ハナはぴたりと歩を止めた。そしてにやけた顔を上向ける。

「ねえ、あなた、ここんちのネコちゃんなの?」

少し脳の発育は悪そうだが、性格はそんなに悪くなさそうだ。

「にゃにゃ」(そうだけど、何か用?)

「ねえ、ねえ、翔様がどこにいるか知らない?」

「にゃうぁ…」(知ってても教え…)

ハナはぴたりと言葉を止めた。そしてにへらと笑う。

「な、なに、このネコ、笑ったわ…いま」

ハナの笑いを目にして、ぎょっとして目を剥いている女に、ハナ、恥ずかしさも手伝い、かなり不機嫌になる。

こいつと翔を鉢合わせさせたら、ずいぶんとおもいろいことになるに違いない。

「にゃ」(こっち)

ハナは階段に足を掛け、女に振り向いた。

「にゃにゃ」(ついてきて)

脳の発育が悪いだけあって、女がハナの仕草を理解するのに少々手こずったが、最後にはなんとかハナについて来た。

ちょうどよい頃合のはずだ。

調子よく翔の部屋の前につき、ハナは翔にハナの仕業と気づかれないように、手でちょいちょいと、女にドアを示した。

「そこ?ほんとに?」

女の疑いに、ハナはムッとしたものの、頭をこくりと下げてみせた。
そしてその場を女に譲るように少し下がり、女がドアに向かってゆくのを見て、その場からすぐさま離れた。
翔にハナの仕業だと思われると、不味い。彼にちらりとでも姿を見せてはならない。

ハナは階下に向かって急いだ。
お次は葉奈だ。

俺様翔があの女を追い出す前に葉奈をつれて来れたら、最高のシチュエーションに立ち会える。

葉奈の気配は、どうしてかなんてこと分からないが、いつでも感知できる。
ハナは葉奈の居場所に向かって飛ぶように駆けた。

ハナは葉奈の足元に擦り寄って行った。
葉奈はすぐにハナを見下ろしてきた。

「にゃあ」(急用よ)

「ハナ?」

ハナは葉奈の返事を聞くともすばやく前方に移動した。
前足をくいくいと動かして強めの響きで「にゃあ」(早く)と言った。

「あの、わたし失礼します」

葉奈はそういって頭を下げると、ハナよりも早く走り出した。

このまま階段を二段飛ばしで駆け上がって欲しいところだったのに、途中数人の男が葉奈に声を掛けてきて、ハナはいらいらした。

あの女がすぐにドアを開けて中に入っていたとしたら、そろそろ翔が追い出しているに違いない。
あの女が、少しばかりドアをノックするのをためらっていてくれると、いいのだが…

三人目の男が、しつこく葉奈に話しかけ、ハナはむかついて飛び上がりざま男の尻に噛み付いた。

「うぐっ」っと押し殺した叫ぴを洩らしたものの、この男かなりの見栄っ張りなのか、ハナに噛まれたことを、ひた隠しにしたいようだった。

葉奈は会話が途切れたのを幸いに、ハナが噛み付いたことも知らず階段をのぼり始めた。

尻をさすりつつ原因になったハナに気づいた男は、猛獣を見るような怯えた目でちらちらハナを窺いながらも、葉奈の背中を未練たらしく見つめている。

ハナはそれらをひと時の間に楽しんでから、葉奈の後を追った。

葉奈が翔の部屋まであと少しというところで、翔の部屋のドアが勢いよく開いた。

さっきの女が姿を見せ、ふたりの怒りを含んだ言葉のやりあいとともに、女を押し出す翔の腕が見えた。そして、間をおかず、ドアが破壊しそうな勢いで閉まった。

ハナは何も見なかったかのように翔の部屋に急いだ。
けれど、すれ違う直前の女のすさまじい形相も味わうのは忘れない。

ハナの期待するシチュエーションには、少しばかり遅れてしまったようだが、よしとするしかあるまい。

専用ドアをするりと抜けて中に入ると、頭から真っ黒な噴煙をあげるばかりの翔がいた。

「ハナ!あの女を連れてきたのはお前じゃないだろうな?」

ハナは鳴き声もあげずに、翔をねめつけた。

ハナは正直者だから、たとえ翔に通じずとも、ノーとは言えない。

ハナの無言に、翔が何を思ったか頬を赤らめた。

「すまない。頭に来てたもんだから」

翔は気まずそうに頭を掻き、ベッドに座り込んだ。

「しかし、あの女、なんで俺の部屋が…?あっ、もしかして、俺がトイレから戻るところを見られてたのかも…」

なんのことやら、ハナには分からなかったが、それだけひとり言のように呟くと、翔はまた気まずげにハナに視線を向けた。

「ハナ、ごめん。勝手に思い違いして、悪かったよ」

翔から深く頭を下げて詫びられ、ハナの方が気まずくなった。

それにしても、葉奈はどこに行ったのだ。
すぐ後についてきていたはずなのに…

あの女が翔の部屋から出て来たことが、葉奈には驚きがすぎたのだろうか?

ハナは回れ右をすると、また専用ドアから外に出た。




   
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