恋をしよう 

クリスマス特別編
プチおまけ♪ アクアマリンのささやき



海斗から手渡された、唯と相沢氏から贈られた箱の中には、水色のドレスが入っていた。

彼に急かされるようにして、詩歩はそのドレスにおたおたしながら着替えた。

クリーム色のコートを羽織ると、詩歩は保科家に泊まるための小さな荷物と一緒に、海斗の運転する車に乗り込んだ。

助手席に座った彼女は、恥ずかしさになかなか顔を上げられなかった。

「とてもよく似合ってるよ」

詩歩は俯いたまま、頷いた。

シンプルだけど、とてもしゃれたデザインのドレス。

中身の詩歩だけ浮いて見えないだろうかと不安に思っているのを、海斗に見破られたような気がして、詩歩の頬が赤らんでいった。

「こんなに高価なものいただいてしまって…わたし、相沢さんに何も用意していないのに…」

「いいんだ。これはあのふたりからの、僕への礼でもあるから」

「礼?海、唯さんたちに、何をしてあげたの?」

「詩歩と姉さんの性格は、かなり似た部分があるからね。僕としても…相沢さんに共感と同情を感じた」

どちらも消極的ということなのだろう。

「たいしたことをしたわけじゃないんだけど…ふたりともイブをふたりきりで過ごせることになって…幸せのおすそ分けをしたかったんだろうね」

幸せのおすそ分け…

詩歩はまだ赤い顔のまま微笑んだ。

なんとも心温まる素敵な言葉だ…

「詩歩」

「はい?」

「心にあるものを何もかも吐き出せないのは当然だと思う。けど、今回のこと…君は間違ってた」

詩歩は、しゅんと萎れた。

さきほど海斗から言われた言葉は、ずっと詩歩の胸を圧迫してくる。

『それを後で知った僕が…どれだけ哀しい思いをするか…分からない君じゃないだろう?』

恥ずかしくて言葉にできなかった詩歩は、自分の心にばかり囚われてたのだ。
海斗の思いまで、思い至れなかった。

「反省した?」

「は…い」

詩歩は、萎れたまま萎れきった返事をした。

海斗は、ふっとため息のように息をつき、そしてクツクツ笑い出した。

「これから先、僕らはきっと、何度も同じようなことを繰り返すんだろうな…」

詩歩の萎れた心の底に、ぽっと小さな光が灯った。

きっとそうなんだろう。

詩歩はそう簡単に変われない…けど…

海斗は、そんな詩歩を変わらずに見守ってくれるに違いない。


さんざん泣いた証の下瞼の赤みは、事の次第を海斗の父や祖母に暴露しているようで、ひどく恥ずかしかったが、素敵なレストランでのディナーはとても温かみがあり、やさしい会話に心が安らいだ。

海斗の父は、イブの恒例の食事の場で、初めてワインが楽しめると微笑んだ。

その微笑には、嬉しさももちろんあったが、変化への侘しさも含まれているようだった。
そして海斗の祖母も、時折、思い出したように控えめなため息を付いていた。

唯の存在がこの場にないことは、やはりふたりにとって淋しいことだろう。
それでもふたりは、詩歩の存在を心から歓迎してくれている。


クリスマスの雰囲気に包まれた保科家の居間で、紅茶と小さなケーキをいただきながら、4人でくつろいだ会話をした後、お風呂を使わせてもらった詩歩は、海斗に付き添われながら一階にある客間へと引き取った。

「君のおかげだ」

ドアの前まで来たところで、海斗は感謝をこめた瞳でそう口にした。
詩歩は戸惑った。

「何が?」

「君がいなかったら、居心地の悪いディナーになっただろうし、居間でもずいぶんと重い空気を、僕は吸うことになっただろうからね」

何気なさそうに微笑んでいる海斗の重い言葉に、詩歩は頷いた。

彼女の存在が、唯という大きな存在の穴を埋められたというのなら、詩歩も嬉しい。

「中に入ったらカギを掛けておくといい。男としての僕は、祖母にあまり信用されていないようだから」

冗談めいて言われたその言葉に、彼女はどう反応をして良いのか、困った笑みを浮かべた。

「それと、これ」

海斗が小さなラッピングされた箱をポケットから取り出し、詩歩の手のひらの上に置いた。

「明日の朝より、イブの夜、君に渡したかった。サンタクロースが、特別な魔法を込めてくれるかもしれない。詩歩、開けて」

詩歩はゆっくりリボンをとき、箱から桃色のケースを取り出した。

ケースの中には、小さなリングが入っていた。

銀色の繊細なリングには、大小の水色の石が三つ…
少し大きい真ん中の石の両側に、小さな石が寄り添っている。

シンプルで可愛らしいリングだった。

「薬指のものはいずれ…これは小指に…」

海斗はそう言うと、指輪を手に取り、詩歩の左手の小指にはめた。

「よかった。ぴったりみたいだ」

どぎまぎしている間に小指に嵌められた素敵すぎる指輪を、彼女はまじまじと見つめてしまった。

「アクアマリンは、僕と君の色をしてる」

甘くやさしいささやきを、詩歩はいつの間にか、海斗のあたたかなぬくもりの中で聞いていた。




End




あとがき

『恋をしよう』クリスマス編 おまけをちょっぴり付け加え、無事、クリスマスイブにて、完結致しました。

良かった良かった♪

皆様に、楽しんでいただけていたら、嬉しいです


しかし…

海斗、あなどりがたし ですか…笑

彼は静かな心を持ってます。凪いだ海のような心…

本心は、詩歩を泣かせるようなことはしたくない海斗ですが、詩歩に自分の行動の結果を経験してもらいたったのでしょうね。

他者が気配りして動いてばかりいたら、そのひとにとって、経験するべき大切なところが、人生から抜け落ちてしまう。

これから先、海斗は、詩歩と自分の間で、今回のようなことは繰り返し起こるだろうと知っています。
これからも、ふたりは波風を経験しつつも、しあわせにやってゆくことでしょう。


これからの『恋をしよう』
海斗視点を読んでいただきたいのだけど…
あまりこだわらずに、続編や番外編など、その時々で書いてゆこうと思います。

また、彼らにお付き合いくださいね…♪

読んでくださって、ありがとうございました。


fuu



  
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