kuruizakiに、ふぁんたじーだ
  
  恋に狂い咲き パラレルストーリー
  300万・400万ヒット記念企画 特別編
  (登場人物、狂い咲きのメンバー)


第二十八話 友への謝罪



「少しは灸が据えられたかしらね?このボンクラ孫」

やっとマコをなだめられたとほっとしたのも束の間、背後からの声を聞き取ってカズマは、どっと疲れた。

胸に抱いているマコも声に驚き、首を伸ばして祖母の姿を認めたようだった。

カズマは諦めて、マコから手を離し、立ち上がってタケコと対面した。

「知っておいででしたか?」

「知らぬわけがないでしょ?」

カズマはくさった。

タケコの表情は、なんと浅はかな孫だろうと、声に出して口にしているかのようだ。

「でもまあ、それは別にして、奇跡の玉を手に入れたのはお手柄だったわ」

いつの間に拾ったのか、タケコはマコが投げ捨てた奇跡の玉を手にしていた。

本気でお手柄だなどと思っているのだろうか?
素直に受け取れない褒め言葉に、カズマは頷くだけで答えた。

タケコはスタスタと歩き寄って来て、マコの前まで来ると、彼女に玉を差し出した。

「マコ。拗ねてばかりいないで、大切になさい」

「は、はい」

拗ねての言葉に、気まずそうに玉を受け取ったマコを、タケコは推し量るように、じっと見つめた後、おもむろに口を開いた。

「カズマを庇い立てするつもりはないけど…この子は必要なことをしたのよ。カズマは自分がやらねばならないことを知る者なの。だから危険に身を投じることも多い。あんたを助けた時のようにね」

タケコの言葉に衝撃を受けたマコは、苦しげに喘いだ。

「炎の魔女様…ま、まさか…これからも…このようなことはあると?」

「タケコ殿!マコ、大丈夫だ。俺は…」

カズマは、余計な事を口にして、せっかく沈めたマコの恐れを増幅させる祖母を睨みつけた。

「お前の妃となるのなら、真実を知っておく方がいいし、これくらいのことでビービー泣いていたら、妃としてやってゆけないわよ」

「タケコ殿!」

カズマは我慢が切れた。

マコは、カズマが王子であることを知ったばかりで、その事実をきちんと受け入れられずに、うろたえているような状態だ。

妃などと言われたら、パニックが増すに違いない。

「傷を治して欲しいんだと思ったけど?」

痛いところを突かれて、カズマは言いたかった文句を口に出来なくなった。

「炎の魔女様、カズマ様の、こ、この傷を癒せるのですか?」

「造作もないことよ」

ふんと自慢げに鼻を逸らす。

日頃、母からお前は祖母に似ていると言われる確たる証拠を見たようで、カズマは気が腐った。





「どう?」

カズマの傷は、タケコの持参した塗り薬と癒しの魔力でほどなく完治した。

なによりありがたいことに、指の感覚も元通りだ。

「ありがとうございます。すっかり良くなった」

カズマは指を動かし、動かせる嬉しさそのまま祖母に礼を言った。

「本当に?」

治療の間、心配そうな顔でカズマの側に付き添っていたマコは、確かめるようにカズマに尋ねてきた。

カズマはマコに「ああ」と、笑みながら答えた。

傷が劇的に癒えてゆく様に、マコは当然だろうが、ひどく驚愕していた。

「賢者様、世話になりました」

カズマはすぐ近くの椅子に、ゆったりと腰掛けている賢者にも頭を下げた。

ここは賢者の船の上だ。

それでは治療をと言ったタケコが湖を指した途端、賢者の船は湖上に忽然と現れた。

賢者と初対面のマコは、彼が賢者と聞いて、ひどく緊張していたが、言葉を掛けられてやりとりしているうちに、その緊張も解けたようだった。

この湖で初めてマコと出逢ったのだ。

あれがことの始まり…

だが、賢者はキューピッド役を目論んでいたわけではない。

闇の魔女の陰謀を阻止するために、カズマはマコと顔を合わすことになったのだ。

それでも、マコとの出会いは、カズマにとって運命だった。

カズマは傷の消えた腕を上下に回して確かめ終えると、マコをぎゅっと抱きしめた。

「か、カズマ様」

慌てたようなマコに構わず、カズマは抱いている腕に力を込めた。

賢者やタケコがいなければ、満足を得られるだけキスするところだが…

「それじゃ、そろそろ城に帰るとするわ。あなた方も戻らないと、そろそろ夕刻よ」

その声はシオンのものだった。
タケコのいた場所に振り返ると、シオンの姿があったが、見る間に姿が薄くなり音も無く消えた。

「まあ」

畏れ敬うようにマコは声を漏らした。

「では賢者様。俺たちもこれで」

「うむ。また会おう」

船は岸辺に浮かんでいた。

ひらりと船から岸に降り立ったカズマは、マコに手を差し伸べて彼女を船から降ろした。

カズマたちが降りてくるのを待っていたシルバーが、待ち長かったぞというように、不平たっぷりにいなないた。

「シルバー」

カズマはシルバーに寄り、背を撫でながら苦笑しつつ彼をなだめ、マコをシルバーの背に押し上げて乗せた。

「カズマ」

マコの後ろに飛び乗ろうとしたカズマは、賢者の呼びかけに動きを止めて振り向いた。

船を下りた時点で、賢者の船は消えたと思ったのに…

カズマは賢者のいる船のへりに歩き寄った

「なにかありましたか?」

「結婚の祝いをやろう」

「祝いですか?」

そのやりとりからひらめきをもらい、カズマは思わずにやりと笑った。

「それでしたら…」

賢者と手短に言葉を交わし終え、カズマが一歩退いた瞬間、船はかき消えた。





「カズマ様の周りには、不思議な方ばかりおいでなのですね」

信じられないというように首を振るマコに、カズマは噴き出した。

自分はサンタという不思議な人物の元で暮らしているくせに…

カズマが噴き出したことにむっとし、シルバーの上で不服そうな視線を投げてくるマコの後ろに、カズマはひょいと飛び乗り、彼女をそっと抱きしめた。

シルバーが不平を言うようにいなないた。

自分の背中でいちゃくつなと言いたいらしい。

カズマは笑いながら手綱を取ってシルバーを走らせた。

そう言えば…

「マコ、君はどうやってあの場所にやってきたんだい?」

「池に…」

「池?」

「やって来るのではと…思って…」

カズマの胸は喜びではちきれそうに膨らんだ。

マコはカズマ逢いたさに、あの池に行ったのだ。

「それで?どうやってここに?」

「炎の魔女様が現れたのです。…それで」

「それで?」

「池に飛び込めば…逢えると…」

それで、彼女は飛び込んだというのか?

「恐くはなかったか?」

マコは小さく首を左右に振った。

「何も考えなかったから…」

あのタクミでさえ、少しのためらいを見せたのに…

「君は勇敢だ」

「勇敢とかじゃ…だって…いくら待っても…」

マコの啜り泣きを耳にして、カズマは痺れるような愛しさが湧き上がった。

カズマはマコを抱いている腕に力を込めた。

「スノーは、池で待ってるのか?」

「家に帰っていると思います」

「そうだな」

スノーは賢い馬だ。
池に飛び込んだ主人は安全だと、分かっているに違いない。

それにタケコも、サンタの家に戻るように促しただろう。

「シルバー、スノーに逢うのは待ち遠しいだろう?」

カズマは、愛馬にからかいを込めて言った。

彼の言葉に反応してのシルバーの返事などなかったが、跨いでいる背の筋肉の感触が変化したように感じた。

スノーは美しい馬だ。賢い上に気性もいい。
シルバーが気に入らないわけがない。

「カズマ様…」

「うん?なんだ、マコ」

「そんなことをおっしゃっては、シルバーが嫌な思いをすると思いますわ…」

たしなめるように言われ、カズマは苦笑した。

「照れさせておけばいいさ」

しばし黙り込んだマコは、首を回してカズマに向いた。

その顔がしかめられているのを見て、彼は眉を寄せた。

「なんだい?」

「違います」

マコはひそめた声でそう言った。

「何が?」

「つまり…あまり好きではないのですわ」

カズマは眉をひそめた。

シルバーがスノーを嫌っていると、マコは言いたいのか?それともスノーがシルバーを嫌っていると?

「そんなことはないだろう?」

シルバーがスノーをなんてことはありえないし…スノーがシルバーを嫌う理由も…

カズマの言葉を否定して、マコは黙ったまま首を横に振ってみせた。

「そう言えば…」

口にしかけたカズマは、口を閉じた。

シルバーは妖精国に来るのをあからさまに渋っていたが…

あれはスノーに逢いたくなかったからだとでも?だが、どうして?

いくら考えてもさっぱりだった。

二頭の馬たちの気が合わないというような雰囲気など、微塵もなかったのに…

シルバーは、ひと目でスノーが気に入ったようだったし…

カズマははっとした。

そうか…原因はナイトに違いない。

十中八九、シルバーは恋敵に敗れたのだ。

なんてこった…

確かに、ナイトとスノーはお似合いかもしれない。

二頭とも雪のように真っ白な馬だ。

寄り添っている姿を想像して、カズマは気を落とした。
あまりにぴったりと嵌りすぎている。

カズマはシルバーが不憫でならなかった。

「そうか…」

いますぐ愛馬に慰めの言葉を掛けてやりたかったが、ここにはスノーの主人であるマコがいる。

マコの前での慰めは、シルバーのプライドを多大に傷つけるだろう。

参ったな…

自分の恋にうつつを抜かしてばかりいて、シルバーの現状にまったく気づいてやれなかったとは…

カズマは心の中で、シルバーに深く謝罪した。




   
inserted by FC2 system