kuruizakiに、ふぁんたじーだ
  
  恋に狂い咲き パラレルストーリー
  300万・400万ヒット記念企画 特別編
  (登場人物、狂い咲きのメンバー)


第三十二話 粋な贈り物



目覚めを自覚した途端、カズマはむっくりと起き上がった。

ついに、この日がやってきたのか?

感慨深くそんなことを思いながら、カズマは自分の隣のベッドに寝ているタクミを見つめた。

どうやらまだ熟睡中のようだ。

カズマはベッドに腰掛けて足を組み、前屈みになって頬杖をついた。

窓の外にはのどかな風景が広がっている。

人間国は、冬の真っ盛りだというのに…

カズマは静かに立ちあがり、音を立てないように服を着替えた。

カズマの母アヤネが幻想的と表現した洗面所で顔を洗い、彼は玄関から表に出た。

何か導かれるものがあるような感覚に逆らわず、カズマはスノーの家へと歩いていった。

シルバーの姿を無意識に探したカズマは、愛馬と目を合わせ、にやついた笑いを浮かべた。

シルバーに寄り添うようにしている、スノーがいる。いや、寄り添っていたのはシルバーだろうか?

せっかく愛馬が愛する女性との、早朝のひとときを楽しんでいたというのに…彼は無粋な真似をしたらしい。

「カズマ様」

その澄んだ声に、カズマは驚き、思わず立ち止まった。

「マコ?君もいたのか?驚いたな」

「目が覚めてしまって…」

はにかんでいるマコの側に、カズマは心を躍らせながら駆け寄った。

「こうして一緒にいるのは、久しぶりな気がするな?」

「はい」

マコは頬を染めて頷いた。

カズマはマコに手を差し伸べて、彼女の身体をやさしく抱きしめた。

顎の下に触れるマコの髪がなんとも心をくすぐる。

ドキドキと心臓が高鳴った。
カズマは静かに息を吐き、鼓動を沈めようとした。

「マコ」

「はい」

カズマは腕の力をゆるめ、マコを見つめた。

「カズマ様?」

「愛してる。君と出会えたことを、俺は一生、神に感謝する」

「わ、わたしも…カズマ様と出会えて…」

顔をくしゃりと歪めたマコの頬に涙が伝った。

「マコ、どうした?どうして泣く?」

「わからない…でも、…胸が、いっぱいで…。本当に私などでよいのですか?」

カズマは笑った。

「そんな問いを向けられたら困るな。君でなければ、結婚などしないさ」

「わたし…自信がないんです。とても不安で…」

「自信が…?どんな?いったいどんな不安があるというんだ?」

「私などが王家に嫁いでよいのでしょうか?それに、王家に馴染めるかも不安だし…本当に人間に戻れるのかも…わからないんですもの」

「マコ、考えすぎるな。王家だからって、他の者たちとたいして違わない」

「そう…でしょうか?」

「ああ。それに、人間に戻れなくたっていいさ。焦ることなどない」

「でも、人間に戻れなかったら…カズマ様の妻ではいられないんじゃ」

「その時には、ここにふたりの家を建てさせてもらって、住めばいい」

「そ、そんなわけには…」

「ゆく!」

カズマは強く言い切った。

「カズマ様?」

「どんなことにも、こうあらねばならぬということはない。俺たちの未来は俺たちで作るんだ。マコ、ふたりで幸せな未来をな」

マコがカズマの胸に顔を埋めた。

「カズマ様がそう言うと、それでいいような気がします」

彼は笑みを浮かべ、マコの身体をぎゅっと抱きしめた。

胸に、温かく少し湿ったマコの息があたるのを感じて、カズマは頬をゆるめた。





目の前に現れた彼の妃となる女性の姿に、カズマは息を呑んだ。

真っ白なドレスを身にまとったマコは、言葉に出来ぬほど美しかった。

カズマの世界で、マコ以外のものが、すべて霞んだ。

「カズマ様、なんて凛々しくていらして…マコ、あなたは本当に幸せ者だわ」

「幸せなのはカズマの方ですわ。こんなに美しくて可憐なお嬢さんを妻に娶れるのですもの」

それぞれの母の舞い上がった言葉など、カズマの耳に入ってこなかった。

カズマは頬を染めているマコだけを見つめ、彼女のちょっとした表情の変化を味わった。

「か、カズマ様」

あまりにじっと見つめられ、どうしていいかわからなくなったのか、マコはおろおろと首を周囲に回し、カズマをたしなめるように呼びかけてきた。

マコの瞳に魅入られ、頭を屈めて彼女の唇を味わおうとしたカズマは、マコの抵抗に遭った。

マコは両手でカズマの顔を押し戻したのだ。

もちろんカズマは、予想していなかった抵抗にむっとした。

「どうして抗う?」

「だ…だって…」

「カズマ、私たちがこの場にいる事を忘れているのじゃなくて?」

カズマは母親に肩を揺すられて顔を向け、その事実をいまさら認識した。

「ああ…そうでした」

「カズマ様」

くすくす笑うアヤネを見つつ、マコの母マスミは困ったような顔で呼び掛けてきた。

「そろそろ時間ですわ」

「そうね。私たちも外に出ましょう」

マスミは頷き、娘に向いてやわらかな笑みを浮かべ、そっとマコを抱きしめた。

「おめでとう。マコ」

「お母様」

マコの目が潤み、瞳がキラキラと輝いた。

「花嫁が、泣いては駄目よ」

母の言葉に、マコは涙を零しながら頷く。

「マコ」

カズマは自分の存在が彼女の側にあることを思い出させようとして、、彼女の手を掴んで握り締めた。

マコはこくこくと頷いて、マスミから渡されたハンカチで目元を押さえた。

母親のふたりが玄関のドアから出てゆき、カズマはマコとふたりになった。


もうすぐふたりのための婚礼の儀が始まる。

マコのために、マコの母マスミがあつらえた花嫁衣裳は、彼女の美しさを最大限にまで引き立てている。

胸元やドレスの裾に施された凝った刺繍は、カズマの母や祖母も協力してのものだということだった。

「マコ、美しいという言葉程度では物足りないほど、君は美しい…」

「カ、カズマ様も、とても素敵です」

「そうか?」

カズマは自分のいくぶん窮屈な花婿のための衣装を見回し、眉を寄せた。

「はい。とても、とても」

言葉を繰り返し何度も頷くマコに、カズマは笑みを浮かべ、彼女の顎にそっと手を掛けて自分に向かせた。

キスの予感を感じたマコは、焦ったような身振りをし、誰もいやしないのに左右を見回し、何かに気づいたかのように、はっとした顔になった。

「か、カズマ様、始まりの鐘が…」

カズマは動きを止めて耳を澄ました。

確かに、鐘の音が聞こえる。

ふたりの前方で、サンタの家のドアが、ひどくゆっくりと開き始めた。

薄く開いた扉から外の光とともに、ふたりを祝福する人々の言葉や拍手が大きくなってゆくのを耳にしながら、カズマはぎょっとしている花嫁の愛らしい唇に、唇を重ねた。

花嫁の愛らしい唇が、カズマを甘く誘う…

「カズマ様、何をなさっておいでです!」

唐突に、憤った強烈な叱責が、言葉通りに飛び込んできた。

マコの唇から唇を離し、顔を上げたカズマは、肩を怒りに上下させているクニムラを見つめた。

ドアは開き続けているが、人一人が入ってこられるほどには、まだ開いてはいない。

だが、クニムラにとって、このサンタの家は存在しないのだ。

ゆえに彼は、サンタの家のどこからでも、中にいる人物を見ることが出来るわけだし、自由に出入りもできる。

自分の立ち位置から、カズマの暴挙を目にした驚きで、勢い飛び込んできてしまったのだろう。

「クニムラ、いいのか、式が始まるぞ」

カズマの言葉に、クニムラは一瞬パニックに陥ったようだが、カズマを見つめ、そして少しばかり視線を上向け、顔をしかめた。

「カズマ様」

「なんだ」

何がどうしたのかクニムラは必死な様子で周りを見回し、ダッと駆け出し、壁の中へと消えた。

なんだ?いったい?

「お、驚きますね」

クニムラの行動に首を捻っていたカズマは、マコの言葉に振り向き、いなくなったクニムラの事を忘れた。

マコはクニムラの消えた壁を見つめ、青ざめている。

カズマもタクミの時から見慣れたこととはいえ、壁を通り抜けるのをみるのは、やはり気分のいいものじゃない。

「クニムラは式が終われば城に帰る。もう少し辛抱してくれ」

「わ、私は…」

「ほら、マコ行くぞ」

すでにドアは全開していた。

マコは慌ててカズマの腕に腕を絡めてきた。

花嫁と花婿の登場を待っていた参加者たちの拍手の音が響き渡る。

親しい者たちだけを招いての式で、人数は少ないが、そのぶん心地よいぬくもりがある。

「マコ、おめでとう」

カズマはマコと、華やいだ祝いの言葉を叫んだ一塊の集団に目を向けた。

マコの友達だ。

カズマに寄り添って歩きながら、美しさを褒め称える言葉を幾種類も投げ掛けられ、マコは恥ずかしげに彼女たちに頷いた。

カズマはマコを促し、三日足らずで作られたとは思えない豪華な祭壇に向けて歩いて行った。

「カズマ様、お待ちを」

必死な声が耳に届いて、驚いて振り向いたカズマは、すでに頭に何かのせらせれていた。

「クニムラ、何を」

そう口にしている間に、カズマは頭の上にのせられたものが何か、即座に理解した。

「お前な!」

「間に合ってよかった、よかった」

クニムラはカズマの声が聞こえているはずなのに、コクコクとひとり納得したように頷きながら、カズマの手の届かないところに駆け去って行く。

「カズマ様?」

クニムラにしてやられたカズマは、むっとしてマコに顔を向けた。

「お似合いですわ」

「本気か?」

「もちろんですわ」

マコは戸惑ったように口にした。

婚儀にケチをつけてしまうような真似は、さすがに出来ない。

ここは愛するマコに免じて、頭に載せているむかつく王冠の存在は忘れてやることにしよう。


指輪の交換、そして王家の証であるティアラをマコの髪に飾る儀式へと進み、最後に、カズマの望みが優先された必要以上に長い誓いの口づけのあと、厳かな雰囲気のまま式は終了した。

日の光に輝くティアラを身につけたマコは、畏怖を感じさせるほど清楚な美しさをたたえていた。


式は、(うたげ)へと移った。

宴の中頃で、虹色の衣装をまとって登場した新郎新婦に、わあっという歓声が沸いたが、本意ではなかったカズマは、素直に受け取れなかった。

たしかに虹色の衣装を着たマコは、輝くばかりに美しい…が…

カズマはにやついているタクミと、笑いを噛み殺しているトモエを刺すような視線で睨みつけた。

トモエにいたっては、首を絞めてやりたいほどむかついてならなかった。

こいつがくれたりしなければ、こんなもの着ないで済んだのだ。

絶対に着るものかと思っていたのに…

無理強いしてくるクニムラに抵抗し、拒否し続けるカズマを見て、マコがあまりに哀しげな顔をするから…

「カズマ、ずいぶんといい格好じゃないか?」

カズマはもうひとり、彼の滑稽な姿を目にして愉快がっている嫌なやつに、鋭い視線を向けた。

「…父上」

「お前のそんな姿が見られるとはな」

カズマは苦々しく父を見つめた。

「実に見事な色男ぶりではないですか。ねぇ、サンタ殿、ノモト公爵」

床に転げまわって大笑いしたいほどの笑いが込み上げ、それを必死に我慢しているのか丸わかりなくせに、よく言う。

くそっ!

「よくお似合いだ」

いつもどおりの温かな笑みを浮かべ、サンタが言った。

ノモト公爵はなんと口にすればいいのか分からないらしく、困ったような笑みを浮かべているばかりだ。

「カズマ様、本当にお似合いですわ」

マコのその真意の汲めない言葉は、王冠の時とは違い、まるきり慰めにならなかった。

サンタの隣に澄ました顔で座っているタケコは、カズマと目を合わせると、何気なく空に目を向けたが、その仕種は、彼に何かを知らせようとしている含みがあるように感じられた。

もしや…祖母は、知っているのか?

顔を強張らせていたカズマは、救いを求め、さっと空を見上げた。

青空の一点に光があった。

ようやく来たか…

カズマはほっとしつつ、隣にいるマコの手首を掴んだ。

「カズマ様?」

小さなものだった光は、七色の光となり、どんどん膨らみながらゆっくり降りてくる。

まるで球状の虹のようだ。

まばゆさに、ひとりふたりとその光に気づき始めた。

カズマは光の真下へと急いだ。

「な、なんだ?虹?」

「なんと…見事な」

「奇麗なものですね」

「いったい…これは?」

周囲で驚きと感嘆の声が上がる中、虹色の光は見る間にカズマとマコを包み込んだ。

「か、カズマ様?」

光に包まれて驚き喘ぐマコを安心させるように、カズマは彼女の肩を抱いた。

「大丈夫だ、なにも心配いらない」

ふたりの身体は、光とともにグンと勢いを増して上昇し、カズマは下で呆気に取られている皆を見下ろした。

「いったいいつ帰ってくるんだ?」

マヒトが驚きを含んでいない大きな声で呼び掛けてきた。

父親の隣には母が寄り添っていて、楽しげに見上げてくる。

「さあ。俺にも分からないな」

カズマは父親に叫び返した。

ふたりの身体は、虹色の光に溶け込み始めた。

周囲がぼやけ始め、時の経過を感じないうちに、景色がはっきりしはじめた。


ふたりは水の上にいた。

「い、いったいここは?」

マコは空中に浮かんでいるという普通ではありえない事態が恐いのか、カズマに必死にすがり付いてくる。

そんなマコを、カズマは愛しさを込めて抱きしめた。

「賢者の結婚祝いさ」

湖の上に賢者の船は無く、その代わり、中央の辺りにこぶりの島が浮かんでいた。

メルヘンチックな家が、こじんまりと建ってる。

彼らはいつの間にやら、島に足をつけていた。

「わあっ」

マコは、可愛らしい家を目を丸くして見つめ、驚きたっぷりに感激の声を上げた。

おとぎ話の世界に入り込んだような気分なのだろう。

「気に入ったかい?」

パチパチと瞬きを繰り返してばかりいるマコに、カズマは得々として問い掛け、彼女からの返事を貰う前に、その唇を塞いだ。





End










あとがきです。

300万・400万ヒット記念のお話として、今年の初めから連載を開始した『kuruizakiに、ふぁんたじーだ
』、五ヶ月掛かって、ようやく完結を迎えました。

いやー、長かった…かな。やっぱり。笑

もっと早く終わるはずが、お話が膨らみ始めてしまうと、もう止められないのですよ。

途中から、マコ視点まで盛り込んでしまったために、ほんとうに長くなってしまいました。が、そのぶん、お話の深みは増したかなと…

完結とはしましたが、まだ人間の姿に戻れてはいないマコ。
おまけでそのあたりを書けたらいいなと思っています。

しかし、ファンタジーものは、世界観が変わって愉快だし、色々不思議を盛り込めるしで、書いてて楽しいです♪


皆様に少しでも楽しんでいただけたなら、嬉しいです♪

読んでくださってありがとうございました。

fuu

  
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