kuruizakiに、ふぁんたじーだ
  
  恋に狂い咲き パラレルストーリー
  300万・400万ヒット記念企画 特別編
  (登場人物、狂い咲きのメンバー)



  
第四話 妖精国



以前の記憶を頼りに、カズマは小道を歩いていった。

妖精国は、人間国とは別世界だ。
荒れた土地はなく、緑は豊かだし、水も豊富で湖や川が多い。

こうして歩いていても、景色の美しさに飽きることがない。

気候は冬なのだが、風にいくぶんか肌寒さを感じるくらいで、震えるほど寒くない。

雪も降るらしいのだが、妖精国に降る雪を、カズマはまだ見たことがなかった。

そんな暖かさだから、妖精たちの着る服には、季節を通してあまり変化が無い。

途中何人か妖精たちとあったが、ちびっ子の妖精族に変身したカズマに、誰も気を向けたりしなかった。


王の城までたどり着いたカズマは、白い城壁の美しい城を見上げた。

日光の加減で、微妙に色を変える外壁に、カズマはしばし見入った。

最後にここに来たのはいつだっただろう?

記憶を辿ろうとしたカズマだが、どうしてか、はっきりとは思い出せなかった。

18?19…くらいだったか?

眉を寄せて考え込んでいると、城門が軋む音を立てて、開き始めた。

黒馬がぬっと顔を出し、カズマは乗っている人物に目を向けた。

トモエ…だな。

この国の現王。

トモエの後にもう一頭、白馬が出てきた。
こちらには女性が乗っている。

彼女を目にしたカズマは、はっと息を呑んだ。

美しい…

「おっ。なんだ?ちっこいのがいるぞ」

ちっこいのとは、…俺のことか?

カズマは憮然として、久しぶりに会ったトモエを睨みつけた。

「お前、こんなところで何をしている?」

「トモエ様、そんな風にきつい言葉でものを言うものではありませんわ。彼を怖がらせてしまいます」

信じられないくらい澄んだ声で彼女は言った。
その美しい響きは、カズマの心臓をおかしな具合に動かした。

彼女はするりと馬から降り、彼女の声が与える影響に驚きを感じて、棒立ちになっているカズマの前まで歩いてきた。

「こんにちは」

「どうも」

カズマは、彼女の魅力から自分を防御する必要性に駆られ、むっつりと答えた。

「口の聞き方を知らないのは、そのチビの方じゃないかと私は思うがな」

よほどカズマが気に入らないのか、トモエは威嚇するように、カズマに鋭い視線を向けてくる。

「トモエ様、大人気ないですわ」

咎めるように言われ、トモエはピクリと頬を引きつらせた。

いい気味だ…

「こいつ、いま私のことを笑ったぞ」

「トモエ様!」

「マコ、さあ、そんなチビなど相手にせずに、ゆきましょう」

彼女は、マコというのか…

それにしても、チビ妖精になったせいで、トモエは彼がカズマだとは、まるきり気づかないようだ。

愉快になったカズマは、妖精独特のとがった耳を確かめるように手で触れて、得々とした気分に浸った。

「あなた、もしかして…」

その言葉のあと、彼女の手が、カズマの頭にふんわり触れた。

カズマは心地よさに、ドギマギしつつ顔を上向けた。

マコと目を合わせたカズマは、その瞳に魅入った。

「サンタ様に会いに来たのではなくて?」

「サンタ様…?」

カズマは眉を寄せながら言った。

「サンタクロースのことか?」

「こいつ、サンタ様を呼び捨てにするとは、なんて不届きなやつだ。しおきを…」

「トモエ様。いい加減になさいませ」

マコはトモエを睨み、表情を和らげてカズマに向いた。

「貴方どこから来たの?ご両親は一緒なの?」

「遠くから来た…俺はひとりだ」

「まあ、そうなの」

カズマの言葉をどう取ったのか、彼女はひどく同情的な眼差しになった。

「俺、…サンタ様に会いに来たんだ」

思わずそう言っていた。

妖精国にもサンタがいるとは知らなかったが…

サンタは時を操作する魔法を知る人物だ。
そして、マコの言葉通り、誰よりも慈悲深い。

少なくとも人間国のサンタはそうだ。

会ってみる価値がある。

「どこに行けば会える?」

「大丈夫、私が連れて行ってあげるわ」

「ほんとか?」

「ええ」

マコは安心させるように微笑んだ。

「マコ」

イラついたような声でトモエに呼ばれ、マコは王に振り返った。

「なんでしょうか?」

「サンタ様のところに、軽々しくひとを連れてゆくべきじゃないと思うがな」

「どうしてですか?」

「わかるだろ?クリスマスが近づいているんだ。あの方はいま、一番お忙しい時期なのだぞ」

「サンタ様は、喜ばれます」

「喜ぶ?なぜそう分かる?」

「分かるからですわ」

マコは控えめながら愉快そうに言い、カズマに向いた。

「サンタ様に、よほどの願いがあるのね」

決定のように言われ、カズマは、彼女の言葉に含まれた意味について考え込みながら、まじまじとマコを見つめた。

「願いそのものを叶えてくださるかはわからないけれど、サンタ様は慈悲深いお方だから…きっと、貴方のためになることをしてくださるわ」

マコのやさしい笑顔に、カズマは思考を止めてその美に見惚れた。

「さあ、この馬に乗って。一緒にゆきましょう」

その申し出に、もちろんカズマは飛びついた。

嬉しげな笑みを浮かべたカズマに、マコがまぶしそうに目を細めた。

やはり、言葉で表現しようも無いほど、彼女は美しい…

その身をやわらかな不思議な光で包まれてでもいるように、カズマには見える。

マコはカズマに手を貸してくれ、彼女の馬に彼を乗せてくれた。

「好きにするがいいさ」

まるで捨て台詞のように鋭い声で言うと、トモエは馬首を後ろに向け、そのまま城門の中へと引き返して行った。

邪魔な存在になりそうだったトモエが同行しないと分かり、カズマはあからさまにホッとした。

そんなカズマに気づいたらしいマコが、小さな声でカズマをからかうようにくすくす笑い出し、彼の頬は反射的に赤くなった。

カズマは気まずい気分で、マコの目を避けるために、赤くなった顔をそむけた。

マコは笑い声を弾ませながら、カズマの後ろに乗り込んできた。
そして、小さな彼の身体をぎゅっと抱きしめてきた。

馬から落ちないようにという配慮なのだろうが、精神は成人した男のままだ。
この抱擁は、彼にとってたまらなく甘美だった。

どうやら否定しようもなく、彼はマコに惹かれている。

だが…忘れてはならないことがある。

彼女は妖精族…

妖精族と人間は、けして結ばれない。

彼女のことは、あまり考えないほうがよさそうだった。

彼は、子どもの姿にしてくれたタケコに、胸のうちで感謝した。

カズマはマコに会いに来たのではないのだ。

彼には使命がある。

使命を忘れてはならない。

「この馬の名は、なんというんだ?」

後頭部に触れているマコの胸のふくらみを甘く味わいながら、カズマは尋ねた。

「スノー…」

どうしてか、マコの声は震えているように聞こえた。

カズマは眉をひそめたものの、「いい名だな」と、マコには答えた。

スノーの背に揺られながら顔に風を受け、カズマは気持ちを改めた。


使命を忘れてはならない!

タクミの妹を見つけ出し、家族の元に連れ帰るのだ。

与えられた二日間のうちに…必ず




   
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