kuruizakiに、ふぁんたじーだ
  
  恋に狂い咲き パラレルストーリー
  300万・400万ヒット記念企画 特別編
  (登場人物、狂い咲きのメンバー)


第六話 広いベッドで



サンタの家の夕食は、温かく美味しかった。

心の中には落ち着かない苛立ちが巣食っていたが、カズマは出されたものをおいしく平らげた。

サンタも談笑しながら、たらふく食べていたが、マコはあまり食べない。

妖精族は小食だからな…

それにしても、マコはいつからサンタの家に住み込んでいるのだろうか?

カズマが知るサンタの家にサンタが行っている間は、この家でひとりで留守番をしているのだろうか?

しかし、サンタが、人間国と妖精国と、ふたつも家を持っていたとは…

案外、カズマも知らない異郷の地にまでも、邸宅を持っていたりするのかもしれない。

サンタは特別不思議な人物だからな。


「では、私は先に風呂に入らせてもらって休もうかの」

憩いの時間をぬくぬくと共有していたカズマは、サンタに顔を向けた。

「あの、サンタ様…この子のベッドは?」

マコは控えめな口調で尋ねた。

「君のベッドは広い、マコ、君と一緒に寝かせてやってくれ」

それは頼みではなく命令だった。

カズマは内容の途方もなさに、あ然とした。

「サンタ様、俺は…」

「わかりました」

屈託の無い微笑みをたたえてマコが言い、カズマは全身の血が沸騰した気分を味わった。

君が良くても、俺は困るんだ!

顔を引きつらせ、頭の中の壁に言葉を思い切りぶつけているうちに、マコは部屋を出て行った。

「サンタ様!」

カズマは噛み付くようにサンタに怒鳴った。

「まあまあ、いまのカズマ殿は子どもなのだ。なんの問題もないだろう」

サンタは腹が立つほど鷹揚に微笑んで言った。

「見た目だけのことですよ。私は成人…」

「マコには名を告げぬほうがよい」

「どうしてです?」

話をすげ替えられてカズマはむっとしつつ答えた。
サンタから言われずとも、名を告げるつもりはなかったが…

「もちろん、そうするのがよい結果を招くからだよ」

サンタは、「では」と立ち上がり、カズマを置いてさっさと自室に引き取った。

ならば、彼がマコと同じベッドで寝ることは悪い結果にならないってのか?

カズマは頭に湧いた妄想に顔を歪め、頭を強く振って抵抗した。

妖精の衣服は軽く薄い。

あんな薄物を織っているだけのマコと同じベッドに入り、平気な顔して、すやすや寝られるか?

言っておくが、俺は男だぞ!

チビになったからといって、人畜無害だと勝手に思われちゃ迷惑だ!

拳を固めて、胸のうちで叫んだものの、所詮1人芝居…

…虚しくなっただけだった。





「どうぞ」

風呂から上がったカズマは、マコから、微笑みつきで友好的に勧められ、マコの部屋にお邪魔することとなった。

風呂場は一風変わった作りだった。
湯船は木の幹が変形したとしか思えない椀型になったもので、滑らかな手触りだった。

壁はツタで覆われ、床は青々とした芝が生え、お湯は滝のように壁の上の方から伝い落ちていた。

お湯はぬるすぎると思ったのに、風呂から上がった後の身体はぬくぬくと温まっている。

マコのベッドは、部屋も広いからそれほど目立たないのだが、サンタの言葉どおり、確かに広かった。

その広さを確認して、カズマの心に安堵が湧いた。

小さく縮んでいるカズマがベッドの端に寝れば、マコの身体と接触することもなかろうと思えた。

「ねえ、あなたのお名前を、まだ聞いていないわ?」

ベッドに腰掛けたマコは、親しげに尋ねてきた。

ずいぶん嬉しそうな笑みだった。
彼と一緒に寝られることが幸せだとでもいうように…

カズマは一瞬迷い、「カツマだ」と口にした。

「そう、カツマ。ねぇ、カツマは、誰かに、ここに来ること、話してきたの?」

「ああ」

まあ、嘘ではない。

「カツマは誰と暮らしているの?」

「誰とって…両親と、まあ他にも大勢いる」

マコは「えっ」と、小さな驚きの叫びを上げた。

「まあ、私ったら…」

マコの驚きの反応に、カズマは眉を寄せた。

「なんだ?」

「いえ、なんでもないの。カツマは大家族なのね」

「まあな」

「羨ましいわ」

マコの言葉には、強い羨望といくばくかの嫉妬が含まれているように聞こえ、カズマは首を傾げた。

「そうか?小うるさいのがひとりいて、そいつに小言ばかり言われて、いい加減嫌になるけどな」

カズマの話に、マコはくすくす笑い出した。

その笑い声はカズマの胸をくすぐり、奇妙な疼きを彼に与えた。

「楽しそうだわ」

「マコは?君はいつからここに住んでいるんだ?」

「私?もちろん生まれたときからよ」

「え?」

それが当然というような言葉に、カズマは驚いた。

「マコの両親は?亡くなったのか?」

「私には…両親などいないわ」

カズマは眉をひそめた。
マコは本気でそう口にしているようだ。

「だが、両親の存在がなければ、君は生まれてこれないだろう?」

マコはおかしそうに声を上げて笑い出した。

「マコ、何がおかしい」

「だって、カツマの口ぶりったら、全然、ちっちゃな子らしくないんだもの」

それは彼が、ほんとうのとこ、成人した男だからだ。

そういってやりたかったが、カズマはその言葉を胸の外に放り捨てた。

「笑ってないで、マコ、俺の問いに、真面目に答えてくれないか?」

「私はね、サンタ様は認めてはくださらないのだけど、サンタ様に作られたのよ」

「はぁ?」

カズマは途方も無い話に、口をぽかんと開けた。

「私は妖精の姿をしているけれど、たぶん、本当の妖精ではないの」

「まさか!」

「いえ。ほんとうなの。だから私には親がいないの。自分のことだから、分かるのよ」

淋しげな瞳で宙に眼差しを向けているマコを見つめているうちに、カズマの胸に色濃い疑惑が湧いた。

「マコ、…君はいくつだい?」

「私?私は17よ」

俺やタクミより、三つほど年下…

カズマは頭をガンと殴られたような衝撃を受けた。

そうだったのだ!

彼女は…彼女こそが…





マコはやたらいい匂いがした。

腹が立つほど、あまやかな香りをその身から発する。

いまや、カズマはマコに抱きしめられ、理性と野性の戦いに身を絞っていた。

もちろん、そんな自分が憐れで哀しくてならなかった。

やわらかな生肌が彼に巻きつき、頬に触れている胸のふくらみは、言語道断な魅惑的な弾力をカズマに知らしめてくる。

これは試練か?

カズマは歯を軋らせた。

サンタは何を考えて、こんな事態に彼を追い込んだのだ。

彼女の、この信じられないくらいの寝相の悪さを知らないのか?

知らないのかもれない…

そう一度考えたものの、カズマは否定して首を振った。

この広すぎるベッドを彼女に与えたサンタなのだ。
知っているに違いない…

ふたりの身体が親密以上に絡み合った、このとんでもない罠から抜け出したくて、カズマは何度か彼女を起こそうとしたが、眠りの魔法を掛けられているんじゃないかと疑いたくなるくらい、どれだけ呼びかけてもマコは起きない…

彼の野性は、密着した彼女の身体を、思う様味わいたくてならなかった。

だが、相手は眠っているのだ。

それに、なんといっても、彼女は彼が助けに来た相手である、タクミの妹…

眠っている彼女に手を出したなどという話がタクミの耳に入ったら、どんなことになるか…

愚かな真似は、絶対に出来ないぞ。

カズマはマコのふくらみから視線を引き剥がし、必死に身体を捻って背を向けた。

背中に彼女の胸のふくらみがはりつくことになったが、眼にしないでいられるだけ楽に感じられた。

マコに抱かれたまま眠りにつくという事態に、屈辱じみた気分を味わいつつも、瞼を固く閉じたカズマは、意志の力でなんとか眠りへと旅立った。









注:この物語のマコは17歳、カズマは20歳です。
   
inserted by FC2 system