kuruizakiに、ふぁんたじーだ
  
  恋に狂い咲き パラレルストーリー
  300万・400万ヒット記念企画 特別編
  (登場人物、狂い咲きのメンバー)


第七話 目覚めの誓い



朝日が窓を照らす前に、カズマは危うく消えそうな理性を掻き集めると、マコのぬくもりから身を引き剥がした。

彼は温かなベッドから、未練をたっぷり残しつつ抜け出ると、サンタの部屋を訪問した。

「サンタ様」

サンタは分かっていたというように、ノックの音とともにドアを開け、カズマを中に招き入れてくれた。

「どうだったかね?」

その、のほほんとした問い掛けにからかいを感じて、カズマはむっとしてサンタを睨んだ。

「それはどういう意味での質問ですか?」

「そのままなんだが」

「知っておられると思いますが、私はこう見えても、成人している男なのですよ」

カズマはとげとげしく言った。

昨夜の自分の口に出来ない苦労を思うと、相手がサンタだろうと、むかっ腹が立ってならない。

「うむ。もちろん知っておるよ。それで、君の探索は、なんらかの進展を見たのかね?」

カズマは口元を引き伸ばし、しばらくサンタを睨んでいたが、おだやかな笑みを絶やさないサンタに根負けして口を開いた。

「彼女こそが、探していた相手でした」

「うむ」

カズマは内心舌を巻いていた。

サンタは、彼がマコとの語らいで、彼女が目的の人物と知るだろうと分かっていたのだろう。

それにしたって、一緒のベッドで寝る必要があったのか?と言いたいが…

サンタに言わせれば、それがもっとも有効であり、サンタ自身が言っていた、彼に出来ること…だったのに違いない。

「それでどうするつもりかね?」

カズマは考え込んだ。

「彼女に告げてもよいと思われますか?」

「さあ」

サンタはわからないというように、曖昧な返事を返してきただけだった。

ストレートに告げるかどうかは、カズマが考えて答えを出すしかなさそうだ。

ことの曖昧さに、苛立ちと不安が膨らむ。

答えを間違えたら、災いを招きそうだ。

マコに掛けられたまじないを、彼の手落ちで強めるようなことにでもなったら…

カズマはサンタに強い眼差しを向けた。

とにかく、なんらかの有効な手がかりを得たい。

「妖精の姿にされた、あの魔法を解かなければなりません」

「そうだな。それが一番手っ取り早い。そして一番難しい」

カズマは眉をしかめた。そのとおりだ。

魔法というのは、掛けた本人が解くのは造作も無い。
だが闇の魔女は死んでしまって、もうこの世にいないのだ。

思案に困ったカズマは、頭の中を一度整理することにした。

行き詰ったところにいてもダメだ。

始めに戻り、全体を見つめるのだ。

どこかに、なんらかの手がかり、そして打つ手が見えてくるかも知れない。

タクミとの会話では…何かなかったか…?

腕を組み、目を閉じて一心に彼との会話を初めからさらっていたカズマははっとした。

「サンタ様、実はタクミの両親は、クリスマスイブ前の数日、毎年妖精国の川向こうに逗留しているようなのです。入れてくれることを…」

ただ、願って…とタクミは言わなかったか?

なぜ願うだけなのだ?

自分の娘が魔女に捕らわれて、妖精国にいると分かっているのに…

何故、妖精国に要請しないのだ?娘を返してくれと…

「カズマ殿」

「どうしてなんでしょう?どうしてただ待っているんです。会いたくてたまらないはずなのに…」

「そうだろうな」

サンタの目が哀しげに揺らいだ。
その目に涙が湧きあがっているのを見て、カズマは胸が迫った。

「どうして…?」

「もちろん君にはわかるだろう?鍵があるのだよ。いくつかの。魔女は悪さを遊びとしていた。彼女はどんな魔法にも複数の鍵を残した。そのひとつが…」

カズマは硬い表情で頷いた。

両親に、あそこで待てば、いつか娘に会えると…

膨れ上がる怒りに、カズマは歯をギリギリと軋らせた。

なんと残酷な希望を持たせたのだ。

そして誰にも他言するなと言ったに違いない。
そうしなければ鍵の一つが消えて、娘はもう二度と彼らの元に戻らない…

だからタクミも、妹の存在を知らなかったのだ。

「闇の魔女が死んだことで、魔法はゆるんでいるはずだ」

希望を持たせるようにサンタは言った。

カズマは頷いた。

そうだ、希望はあるはずだ。

ならば、残りの鍵は?

部屋をノックする音が響き、カズマは思考を中断して顔をドアに向けた。

「マコ、なんだね?」

「サンタ様、おはようございます。朝食の準備が整いましたわ。あの…カツマの姿がどこにも見えないのですが…あの子は、帰ってしまったのでしょうか?」

その質問には、ひどく哀しそうな響きがあった。

胸が切なく疼き、カズマは考えるより先に、サンタの部屋のドアを開けていた。

「俺はここにいる」

マコの顔が、これまでみたこともないくらい、嬉しげに輝いた。
カズマはその輝きにみとれた。そしてやたら気分が良かった。

その輝きを与えたのは、他の誰でもない、彼なのだ。

「カツマ、おはよう。こんな朝早くに、サンタ様の元に押しかけて…」

マコはお小言のように言った後、しゃがみこんで彼と目の位置を揃え、カズマを嬉しげに見つめながら「お願いをしたの?」と、尋ねてきた。

「ああ」

願いはひとつだ。

カズマは、真剣な眼差しで、マコをまっすぐに見つめた。

俺は君を連れ戻す。何があっても、人間国に連れて帰る。

そして、君に掛けられた魔法を解き、姿を元に戻すのだ。

「カツマ?」

「俺は…」

「え?」

「イブの日に、君が欲しくてならない贈り物をあげよう」

マコは驚きに目を見開いた。

「カツマ…?」

「マコ、朝飯はなんだい?腹が減った」

カズマは、台所に向けてさっさと歩き出した。




   
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