kuruizakiに、ふぁんたじーだ
  
  恋に狂い咲き パラレルストーリー
  300万・400万ヒット記念企画 特別編
  (登場人物、狂い咲きのメンバー)


第九話 追っ手



カズマは、マコの白馬を勝手に拝借することにした。
目的の場所は、ちびな身体で歩いていたのでは、とても間に合わない。

スノーは、カズマが飛び乗ると、驚くこともなく、彼を風の如き速さで運んでくれた。

風を受けながら、カズマは一心に目的地へ心を向けようとしたが、正直うまくはゆなかった。

マコには愛する男がいるのだ。
その事実がカズマの胸を刺す。

人間国に戻ったら、そして人間の姿に戻ったら…マコは、そいつの元に行きたがるだろう。

王子の立場を使い、無理やりに、マコを妃に迎えることは出来ないことではない。だが、権力に物を言わせるなど、最低の人間だ。

トモエですら、それをしていないというのに…

自分に対して軽蔑の思いが湧き、カズマは顎を強張らせた。

だが、マコは欲しい…どんな男の手にも渡したくない。

心が引きつるように痛み、カズマは痛みに負けて、走り続けているスノーのたてがみに顔を埋めた。

その男が見つからなければ…可能性は僅かでも出てくるのでは?

そんなことを考えている自分が、たまらなく疎ましく思えた。

「スノー、俺はどうすればいい?」

彼の問いになんの反応もせず、白馬は迷いを見せずにひたすら駆け続けた。

迷う暇があるなら、マコを助け出す方法を考えなさい。

スノーはそう言いたいのかもしれない…





「ここで待っててくれな」

カズマはスノーにそういい、精一杯背伸びをし、ペチペチとやさしく二度叩いてから愛情を込めて撫でた。

カズマの馬は灰色の毛並みをしている。
くすんだ灰色ではなく輝きのある毛で、彼はシルバーと名をつけた。

この美しい白馬を見たら、シルバーはどうするだろう?

容易に想像できて、おかしさが湧いた。

主人と馬と、ふたりしてご婦人ふたりに恋わずらう事態になりそうだ。

カズマは笑みを消した。笑えない…

白馬は、カズマの表情を、まるで見守るように静かな目で見つめてくる。

「ご主人が妖精国を出るとき、もちろんお前も来るだろ?なあ、スノー」

白馬は変わらずカズマを見つめている。

「彼女はこの国の者では無いんだ。彼女の父と母は彼女をずっと待っているんだ…」

スノーの眼差しが少し揺らいだような気がした。

彼の思いは、この白馬に届いただろうか?

「お前がついて来てくれなかったら、彼女は悲しがる…」

カズマは呟くように言うと、馬の前足の付け根辺りを撫で、背を向けた。

湖の岸に立ち、カズマは目を眇めた。

目的の場所は、湖の真ん中あたり…

心臓がドクンと跳ねた。

あった!

船だ…賢者の船。

いつもここにあるわけではない。

そして常人には見えない。

普段、カズマは賢者のことを忘れているのだが、賢者に逢う必要が生じたときだけ、賢者のことを思い出す。

今回思い出せたということは、賢者はカズマになんらかの手を貸してくれるということに違いなかった。

時はどのくらい経っただろう?
たぶん、城を出てから半時は過ぎていないと思うのだが…

マコに余計な心配を掛けないためにも、一時間のうちには戻らなければならない。

賢者の船との距離を目測し、両手のひらを自分の顔の前にかざすと、彼は意識を集中し、力を溜めた。

手のひらが、徐々に光を発し始めた。

充分と思えるほど魔力を溜めたところで、カズマは水面に手のひらを置いた。

ピシーンという鋭く激しい音がし、手のひらから賢者の船まで一直線に波が立った。

出来栄えを確認し、彼は満足して立ち上がった。

「そこまでだ」

カズマはぎょっとしてすばやく背後に振り返った。

トモエ…

彼は背筋を伸ばし、黒馬に乗っているトモエと向き合った。

トモエの背後には、彼の護衛だろう騎馬の騎士が数名付き従っていた。

背後に気を配ることを怠るなど…

カズマは自分を罵った。

どうやら、魔力に集中しすぎたようだ。

「お前はいったい何者だ?」

そう問うトモエに、明らかな殺気を感じた。

彼がおかしな真似をしたら、トモエはすぐにも攻撃してくるに違いない。

「時間が無いんだ。邪魔をしないで欲しい」

カズマは落ち着き払った声で頼んだ。

「私は王だぞ。質問に答えろ」

ひどく冷ややかな声で、トモエは命じるように言った。

「あなたと争いたくはない」

トモエは愉快そうに、カズマの言葉を笑い飛ばした。
だがその目は笑ってなどいない。

「争う?お前、私に敵うとでも思っているのか?」

トモエは、カズマがチビだからと見下しているわけではない。

言葉を交わしながら、カズマがどれほどの力を隠しているのか、推し量ろうとしているのだ。

時間はどんどん過ぎてゆく。
このままトモエと睨みあって時を無駄にするわけにはゆかない。

だからといって、カズマから王に対して剣を向けるようなことも出来ない。

カズマは思案の末に、トモエに背を向け、今しがた自分が作った氷の道に足を踏み出した。

「待てっ!」

鋭い叫びに、カズマは足を止めなかった。

来るなら来い…そう腹をくくり、歩き続けた。

「黙って行かせるものか」

凄まじい気を感じ、カズマはしゃがみながら振り向くと同時に、手のひらを氷のような水に突っ込んだ。

次に、トモエと向かい合ったカズマの手には、氷の刃があった。

カズマの手にある刃を見て、トモエはハッと喘いだ。

その隙をカズマは逃さなかった。

やらなければならないなら、やるだけだ。

刃を抜き放って挑んできたのはトモエ。

癒える程度の傷くらいなら、仕方が無いだろう。

一瞬遅れたものの、トモエはカズマの剣をなんとか避けた。

魔法の剣同士がぶつかり、耳を劈くような音が発した。

トモエの背後にいる馬上の護衛は、彼らの武器である弓をカズマに向けていた。

だが、カズマは小さい的だし、彼の三倍ほどもある体躯のトモエが邪魔をしているせいで射ってはこれない様だった。

カズマは少しずつ後ろへと後ずさった。

相手は戦いに気を取られ、自分がカズマが作り上げた氷の道に入り込んでいると気づかないようだ。

カズマは剣を合わせながら、冷静にトモエの足元を窺い、頃合を見てしゃがみ込み、自分の足元から岸までの氷を水に戻した。

トモエが湖に落ちた音を背に聞きながら、カズマは渾身の力を振り絞って走り出した。

彼の身体の左右を、矢がすり抜けてゆく。

いつ矢が彼の身体を貫通するか分からない恐怖と戦いながら、カズマは船を目指してひた走った。




   
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