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1 ありがたい提案 (和磨
馴染みのノックの音がした途端、専務室のドアが開けられた。
仕事に没頭していた和磨は、不機嫌に顔を上げた。
「父さん、せめて返事を聞いてから開けてくれないか?」
「同じことだろう」
「仕事が忙しいんだ。邪魔しないでくれないか」
「ほお、せっかく忠告しに来てやったのに……」
忠告だ?
まさか、なにやら厄介事が起こるというのか?
「いったいなんです?」
「ここに来るつもりだと思うぞ」
ここに来る?
そう言われて思いつくのは、やたら行動派の祖母……
「長子さんだよね?」
確認したら真人が愉快そうに笑む。
得々とした顔の長子の顔が脳裏に浮かび、和磨はつい眉間に縦皺を寄せてしまう。
まさか、会社に乗り込んでくるつもりだとは……
「困った人だな」
和磨は疲れを感じて目を揉んだ。
もちろん祖母は、真子に会いたくてやって来るんだろう。
この最近、長子さんのところには行っていなかったからな。
長子は、真子をモデルに絵を描きたいらしく、しつこく誘われていたのだが……
いい加減、痺れを切らしたんだろうな。
「悪いが、母さんに意見して、行動を自粛させることは難しい」
確かにな……
「それでだ。ひとつ提案がある」
「どんな提案です?」
「次の週末にでも、母さんのところに遊びに行くと連絡をすれば、会社に来るという考えは消えるんじゃないか」
週末か……ひさしぶりに、真子とのデートだったんだが……その夜は俺のマンションに泊まる予定にしていて……
そうだな、デートのついでに、長子さんのところにちょっと寄ればいいか。
「わかった。連絡するよ」
そうと決まれば、早いほうがいい。
すでに、こちらに向かっているかもしれない。
携帯を取り出したら、「真子さんに電話させたほうが、効果的だぞ」と真人が意見する。
「真子さんから電話が来て、遊びに行きたいと申し出れば、部屋の片づけやら、ご馳走の買い出しやらで忙しくなる」
そうかもしれないな。
「急いだほうがいいぞ。昼休みを狙ってくるつもりだろうからな。それじゃあな」
真人が去り、和磨はすぐさま真子に向けてメールを打った。
つづく
プチあとがき
というようなことで、再掲載話ということではありますが、今後も、かなり改稿してのお届けします。
こちらは、長子さん絡みのストーリーをダイジェストで連載してゆく形となります。
ちなみに、書籍からは削除となりました、悪魔や天使のネグリジェ編も、今後、この形での再掲載を予定しております。
fuu(2016/3/6)
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