《シンデレラになれなくて》 番外編
 百代視点


必然の出逢い



だっさい眼鏡におさげの髪。
なんともレトロな女学生的雰囲気の彼女、名を早瀬川愛美という。

ここ一週間ほど、ウオッチングしてきたのだが…

百代は腕を組んでうーんと首を捻った。

そろそろ声をかけてみっか。

もうちょい待つか?

「あんた、なに考え込んでるのよ?」

その横柄な声に、百代は顔だけ後ろに向けた。

いつもと同じ高慢ちきな顔で、形のよい眉をわざわざ印象悪く歪めて話しかけてきたのは、百代に世話ばかりかける親友の蘭子。

「蘭子。あんた、ピカリンっとか、来てないかね?」

「はあ? ピカリン? なによそれ?」

「インスピレーションってことだよ。こう感覚にさ…」

「馬鹿言ってないで、帰るわよ」

なぬ、馬鹿?

馬鹿なんぞ言っちゃいないよ! と切り返そうとしたが、やめた。

百代は愛美の方へ視線を向けると、蘭子に何も言わずにすたすたと歩み寄っていった。

「ちょっと百代」という甲高い叫び声は、ガン無視。

近づいてくる百代に気づくことなく、愛美は帰り支度をしている。

つつましいという言葉が全く違和感ない。
それでいて、品格があるのだ。

こう、滲み出るような…

蘭子の場合、金持ちの家のお嬢様なんだけど…つつましさは皆無。
上品なんだけど、品格が劣る…超我儘だし。

そんな蘭子が、とっても個性的で好きではあるんだけど。

しかし、この早瀬川愛美、めちゃピュアなんだよね。

百代が他の連中にもれなく感じる邪気を、まるで持ち合わせていない。

慶介が彼女を見たら、純粋な女神の化身とでも表しそうだ。

愛美まで一メートルの距離を切り、鼓動が速まる。

なんかしらんが、興奮するぅ。

わたしの人生、彼女で激変するって感じ、バシバシするっ。

それだもんだから、長々と声をかけるタイミングを取ってたんだよな…

こりゃ、わたしってばけっこう、小心者だねぇ。

自分をくふくふ笑いつつ、百代は愛美のまんまえに顔をぐいっと突き出し、にっと笑う。

「早瀬川愛美さん」

突然目の前に出現しての百代の呼びかけに、かな〜りびっくりこいたらしい愛美は、驚きの分だけズザッと身を引いた。

くふふ。この反応、おいしすぎ!

「友達は欲しくありませんかぁ?」

「は…い?」

宗教の勧誘のような百代の言葉に、愛美の驚きは極限まで膨張したようだった。

目が真ん丸だ。

しかし、この子…
メガネの奥に、こんなにでっかい目玉を隠し持っていたとは…

ずいぶんな、美女じゃんか。

さらに、制服の中にも隠し持っている、バッボーンなボイン、ボイン♪

表向き澄ました顔をしつつ、百代は心の中でにたついた。

「あ、あの…?」

ぱちぱちと瞬きしながら、戸惑った返事をした愛美の顔に、百代はぐっと顔を近づけた。

またまた、ぎょっとして顔を引く。

百代は顔を突き出したまま、右手を後方にいる蘭子に向けて、ちょいちょいと動かした。

「いまなら、さらにもうひとフレンド、もれなくついてきま〜っす」

百代は、コミカルに宣伝した。

「はあっ?」

背後で蘭子が文句ありげに叫ぶ。

まあ、このふたりがどう感じたとしても、わたしゃどうでもいいんだけどね。

だって愛美は、百代と蘭子に出逢うために、ここにやって来たのだ。

百代は、どう反応して言いかわからずにいる愛美を、首を傾げて見つめた。

この出逢いは、百代の想像を超えた事態を起こすはずだ。

わくわくするのに、このちょっぴりの不安はなんなのだろう?

そんなことを頭の隅っこで考えながら、百代は困惑している愛美の手を、両手でがっちり掴み、にっこりと微笑んだ。

それは…未来になればわかるんだろう。



End


読んでくださってありがとう。fuu



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