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その2 買い物は連れ次第
「もうなんでもいいんじゃないかなぁと思うんだけど。どうせ何あげたって喜ぶよ」
あっちの店、こっちの店と巡り巡っていた遥輝は、連れの祥吾のかったるそうな文句にむっとして振り返った。
「お前な、俺がついてこなくていいって言ったのに、付き合うって言ったのお前の方だぞ」
「そりゃそうなんだけどさ。だからさ、そんなに迷うことないよ。さっきのネックレスでいいんじゃないかなぁ。本物のルビーがついてて、30%オフだったし、手ごろな値段だったじゃないか」
「なんかピンと来ないんだ」
「なんだよそれーっ。遥兄がピンと来るまで買い物続けるのかよ。そんな不確かな勘みたいなものに付き合わされる、僕の身になってくれよ」
「だから着いて来なくていいって言ってるんだ。俺の買い物が終わるまで、莉緒君のところにでも行ってろよ」
「今日は駄目なの知ってるくせに」
「なら、先に帰ってればいいだろ」
「電車で帰るなんて嫌だし、ひとりで家にいてもつまんないよ」
「祥吾、お前、その寂しんぼな性格なんとかしろよ。未成年じゃないんだから」
「そんなこと言われたって…」
遥輝は、祥吾の相手をするのを止めた。
こいつが後ろにくっついて、ごちょごちょ言わなければ、とっくの昔に買い物を終えられたかもしれない。
「じゃあさぁ。プレゼント以外のもの先に買おうよ。クラッカーとかシャンパンとか、食材とか」
「食材はどうしたって最後だろ。手に持って歩くのは重いし、車に入れておいたら腐る」
「ごもっともです」
今日は、弥由の誕生日なのだ。
遥輝から贈る、初めての誕生日プレゼントになるのだし、彼は弥由に、何か特別なものをあげたかった。
だが、こうして探し歩いても、なかなかこれというものは見つけられず、時間だけが無駄に過ぎてゆく。
「聞いてみれば良かったのに…」
「聞くって?」
「本人に、何が欲しいかってさ」
「聞いて買ったんじゃ、開ける楽しみが減るだろ」
「へいへい。そうですか」
「もういいから、お前黙ってろ。集中出来ない」
「買い物に集中ねぇ。そんな表現するひといるんだねぇ」
遥輝のこめかみが、ピキンと音を立てた。
「お前、クラッカーとかシャンパンとか、部屋に飾りつけするようなもの、これで買って来てくれ。一時間後にここに集合だ」
「おっ、名案。なんでもっと、この画期的な方法を思いつかなかったんだろう、僕達ふたり。なあ、遥兄」
遥輝は、駆けて行く祥吾の背中を見つめてため息をついた。
あいつは絶対、精神的未熟児だ。
弥由の純真さウブさは、例えようもないほどの愛らしさだが、祥吾の場合、間抜けとしか言えない。
それにしても、どうしたもんだろう。
いったい何を選べば良いのか…
祥吾の言う通り、彼女は何をあげても喜ぶだろう。
そうだからといって、適当なものをあげる気にはなれない。
これだ!と、ピンとくるもの。そういうものを、彼は弥由に贈りたいのだ。
祥吾と約束した1時間以内に、なんとか探しあてなければ。
遥輝は大きなデパートの入り口へと、小走りで向かった。
「わっ」
突然、目の前に自転車が飛び出してきた。
遥輝はさっと飛びのいたが、自転車に乗っていた男が肩に下げていた大きなバッグがぶつかり、いささか痛かった。
自転車がすぐに止まり、乗っていた男は飛び降りると頭を下げて謝ってきた。
「すみません」
「ああ、大丈夫だから」
「でも、ぶつかってしまって。バッグの中、本が入ってるんです。打ち身とかなってないですか?」
「確かにちょっとは堪えたよ」
相手の誠実な表情に好感を持って、遥輝は微笑んだ。
「ほんと、すみませんでした。あの、お詫びといっては何ですが、コーヒーでも奢らしてください」
「そんな気を使わないでくれ。なんてことなかったんだから」
「でも…それじゃあ、俺の気が済みません。とにかく、なんかお詫びさせてください」
ずいぶんと律儀な男だ。
祥吾と同じくらいの歳らしいのに、あいつとは出来の度合いが違うようだ。
「君の好意はありがたく受け取っておくよ。でも、コーヒーとか飲んでる場合じゃないんだ。彼女の誕生日のプレゼント探してるんだが、いいものが見つからなくて困ってるところで…」
「えー、そうなんですか?偶然ですね。俺も姉貴のプレゼント買いに来たんですよ」
「そうなのか?それで君は?お姉さんに何を買うか、もう決めてるのか?」
「決めてはいないんですが。何がいいのか」
「君もまだそんな段階か?」
遥輝は苦笑して言った。
思わぬところに同志を見つけて、愉快な気分になった。
「それじゃ、一緒に探しませんか?ふたりで知恵を絞れば、何かしらいいものが見つけられるかも知れませんよ」
「それもいいかな。従弟と一緒に買いにきたんだが、こいつが役に立たないやつで…それどころか邪魔ばかりして…」
「従弟?どこに?」
「あんまりうっとうしいから、パーティーに必要なものを、買いに行かせたところなんだ。一時間後に落ち合うことにしてる」
「パーティーですか?楽しそうだな」
「実は、彼女には内緒で、サプライズを計画してるんだ」
「サプライズ?ますます楽しそうですね」
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