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第二話 雪の降る夜に…
「何泣いてる?」
彼女はぎょっとして前に向いた。
ね、眠ってたはずなのに…
「お、起こしちゃって、ご、ごめんなさ…」
「だから、何泣いてるって聞いてんだ!」
窓ガラス越しに、責めるようにそう問われ、怖れた彼女は窓から後ずさった。
「バカ野郎!」
そう罵るように怒鳴り、彼女を充分ビビらせてから、サンタさんはベッドから出た。
数秒ののちに、家のドアが開き、彼が出てきた。
「あ、あの、…ごめんなさい」
あまりの事態に身を竦ませていた彼女は、目の前までやってきたサンタさんに恐れおののき、身を縮ませてぺこぺこと謝った。
「なにやってんだ、寒いだろ?」
「け、毛皮があるから…そんなに寒く…」
彼女の言葉をサンタさんは聞いていないのか、自分が羽織っているマントで彼女の全身をくるんでくれた。
背中に当たる彼のぬくもり…
心臓がドカドカと、力一杯足を踏みならす勢いで、胸の中で暴れ始めた。
「一緒に寝ようって言うのに、お前がどうしてもダメだって断るんだぞ、わかってんのか?」
そ、そうだったか?
「でも、…だ、だって…わ、わたしは、トナカイさんで…あなたは…サン…」
「うるさい!」
突然唇を塞がれ、力強く抱きすくめられた。
へはっ!!!
信じられない現実…
だが、意識が現実として飲み込めない間にも、キスは甘美に深まってゆく。
頬にあたる雪が、この出来事は嘘ではないよとやさしく囁く。
耐え切れないほど甘い余韻を残して、彼の唇がゆっくりとはなれてゆく。
なごりおしくて、切なさに泣きそうな気持ちで、彼女は彼の唇を見つめた。
彼の唇が薄く開いた。
「なんでそんなどうでもいいことを気にする?」
切なそうな瞳で、サンタさんは静かに言った。
彼女はパチパチと瞬きし、キスの前の会話を記憶から引っ張り出した。
ど、どうでもいいこと?なのだろうか?
突然ふわっと身体が浮き、彼女は驚いた。
「な、な、何を…」
「ごたごた言うな」
「で、でも」
「明日は忙しいんだ。さっさと寝るぞ」
そうそっけなくいい、自分の家に向かおうとする。
そう気づいた彼女は、両手足をブンブン振って、抵抗した。
「だ、ダメです。そこには入れません」
だって彼女はトナカイさんで、人様のベッドでなんか寝ちゃいけないのだ。
そういう宿命なのだから…
「強情だな」
呆れたような吐息をつかれ、彼女の胸が切なく疼いた。
「だ、だってぇ~」
「また泣く」
「だって…」
サンタさんはさっと踵を返し、方向を変えた。
どうやら彼女の小屋に向かうようだ。
そう分かり、彼女はおとなしく抱かれたまま運ばれていった。
小屋の中に入り、サンタさんは小屋の中を見回し、むっとしたように口をへの字に曲げた。
やたら不服そうだ。
この小屋が気に入らない?のかな?やっぱり…
気持ちが萎れた…
トナカイの小屋…だもんね…
哀しさと恥ずかしさが湧き、彼女は俯いた。顔をみられたくなかった。
「あ、ありがとう…ございました」
哀しさに胸がつまり、急いでサンタさんの腕から降りようとしたが、彼は彼女のことを降ろそうとしなかった。
彼女の枯れ草のベッドを、何を考えているのか、じっと見つめているばかりだ。
「あ、あのぅ?」
「ここがそんなにいいのか?」
そう問われて戸惑った。
いいとか悪いとかの問題じゃないのに…ただ、ここは彼女に与えられた唯一の場所だからで…
彼女は首を傾げた。
そういえば…この場所…いったい誰が彼女に与えてくれたのだったっけ?
雪の精?女神?神様?
それとも…
彼女は自分を抱いているサンタさんを、おずおずと見上げた。
サンタさんも彼女を見つめていたらしく、ふたりの目が合った。
彼女は頬が燃えたように熱くなった。
サンタさんの瞳に浮かんでいるもののせいだ…
なんだか混乱してきた。
頭の中がこんがらかってどうしようもない思いでいる彼女を、サンタさんは枯れ草のベッドにそっと寝かせた。
「あ、ありがとうございまし…へっ?」
お礼を口にしながら、枯れ草を自分の身体にかけようとしていた彼女は、枯れ草でないものが自分の身体に覆いかぶさってきて、天地がひっくり返るほど驚いた。
「な、な、な、なんですかぁ~」
「決まってるだろ。俺もここで寝る」
「は、はあぁぁ~?け、けどですね」
「うるさい!ごちゃごちゃいうな。先に夜這いしてきたのはお前だぞ」
よばい?
「あのぉ~、よばいって、なんですか?」
彼女の問いに、サンタさんの動きがピタリと止まった。
「話になんねぇ」
そう嘆くように言うと…
「あ、な、な、や、やめてください。なななするんですかぁ」
悲鳴のように彼女は叫んだが、驚きが過ぎて無様に言葉を噛んだ。
「なななするって、なんだ?」
彼女の胸あたりで動かしている手を休めず、しっかり彼女の揚げ足を取る。
「そ、それは服じゃないんですよ。脱げませんってば!脱げな…」
彼女は言葉を止めた。
脱げないはずの毛皮が、するするっと脱げてゆくではないか…まるで魔法のようだった。
「な、なんで…脱げ…」
あ然としている彼女のことなど構いもせず、彼は当然の顔をして、彼女の胸に顔をうずめた。
「ひ、あっ」
胸の突端にとんでもない甘い刺激を受けて、彼女は甘く叫んだ。
彼が与え続ける、とろけそうな疼き…
世界がぐるぐると回転してゆく…
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