ナチュラルキス
natural kiss

2007 Christmas特別編
第二話 雪の降る夜に…



「何泣いてる?」

彼女はぎょっとして前に向いた。

ね、眠ってたはずなのに…

「お、起こしちゃって、ご、ごめんなさ…」

「だから、何泣いてるって聞いてんだ!」

窓ガラス越しに、責めるようにそう問われ、怖れた彼女は窓から後ずさった。

「バカ野郎!」

そう罵るように怒鳴り、彼女を充分ビビらせてから、サンタさんはベッドから出た。

数秒ののちに、家のドアが開き、彼が出てきた。

「あ、あの、…ごめんなさい」

あまりの事態に身を竦ませていた彼女は、目の前までやってきたサンタさんに恐れおののき、身を縮ませてぺこぺこと謝った。

「なにやってんだ、寒いだろ?」

「け、毛皮があるから…そんなに寒く…」

彼女の言葉をサンタさんは聞いていないのか、自分が羽織っているマントで彼女の全身をくるんでくれた。

背中に当たる彼のぬくもり…

心臓がドカドカと、力一杯足を踏みならす勢いで、胸の中で暴れ始めた。

「一緒に寝ようって言うのに、お前がどうしてもダメだって断るんだぞ、わかってんのか?」

そ、そうだったか?

「でも、…だ、だって…わ、わたしは、トナカイさんで…あなたは…サン…」

「うるさい!」

突然唇を塞がれ、力強く抱きすくめられた。

へはっ!!!

信じられない現実…

だが、意識が現実として飲み込めない間にも、キスは甘美に深まってゆく。

頬にあたる雪が、この出来事は嘘ではないよとやさしく囁く。


耐え切れないほど甘い余韻を残して、彼の唇がゆっくりとはなれてゆく。
なごりおしくて、切なさに泣きそうな気持ちで、彼女は彼の唇を見つめた。

彼の唇が薄く開いた。

「なんでそんなどうでもいいことを気にする?」

切なそうな瞳で、サンタさんは静かに言った。

彼女はパチパチと瞬きし、キスの前の会話を記憶から引っ張り出した。

ど、どうでもいいこと?なのだろうか?

突然ふわっと身体が浮き、彼女は驚いた。

「な、な、何を…」

「ごたごた言うな」

「で、でも」

「明日は忙しいんだ。さっさと寝るぞ」

そうそっけなくいい、自分の家に向かおうとする。

そう気づいた彼女は、両手足をブンブン振って、抵抗した。

「だ、ダメです。そこには入れません」

だって彼女はトナカイさんで、人様のベッドでなんか寝ちゃいけないのだ。

そういう宿命なのだから…

「強情だな」

呆れたような吐息をつかれ、彼女の胸が切なく疼いた。

「だ、だってぇ~」

「また泣く」

「だって…」

サンタさんはさっと踵を返し、方向を変えた。

どうやら彼女の小屋に向かうようだ。

そう分かり、彼女はおとなしく抱かれたまま運ばれていった。

小屋の中に入り、サンタさんは小屋の中を見回し、むっとしたように口をへの字に曲げた。

やたら不服そうだ。

この小屋が気に入らない?のかな?やっぱり…

気持ちが萎れた…

トナカイの小屋…だもんね…

哀しさと恥ずかしさが湧き、彼女は俯いた。顔をみられたくなかった。

「あ、ありがとう…ございました」

哀しさに胸がつまり、急いでサンタさんの腕から降りようとしたが、彼は彼女のことを降ろそうとしなかった。

彼女の枯れ草のベッドを、何を考えているのか、じっと見つめているばかりだ。

「あ、あのぅ?」

「ここがそんなにいいのか?」

そう問われて戸惑った。

いいとか悪いとかの問題じゃないのに…ただ、ここは彼女に与えられた唯一の場所だからで…

彼女は首を傾げた。

そういえば…この場所…いったい誰が彼女に与えてくれたのだったっけ?

雪の精?女神?神様?

それとも…

彼女は自分を抱いているサンタさんを、おずおずと見上げた。

サンタさんも彼女を見つめていたらしく、ふたりの目が合った。

彼女は頬が燃えたように熱くなった。

サンタさんの瞳に浮かんでいるもののせいだ…

なんだか混乱してきた。

頭の中がこんがらかってどうしようもない思いでいる彼女を、サンタさんは枯れ草のベッドにそっと寝かせた。

「あ、ありがとうございまし…へっ?」

お礼を口にしながら、枯れ草を自分の身体にかけようとしていた彼女は、枯れ草でないものが自分の身体に覆いかぶさってきて、天地がひっくり返るほど驚いた。

「な、な、な、なんですかぁ~」

「決まってるだろ。俺もここで寝る」

「は、はあぁぁ~?け、けどですね」

「うるさい!ごちゃごちゃいうな。先に夜這いしてきたのはお前だぞ」

よばい?

「あのぉ~、よばいって、なんですか?」

彼女の問いに、サンタさんの動きがピタリと止まった。

「話になんねぇ」

そう嘆くように言うと…

「あ、な、な、や、やめてください。なななするんですかぁ」

悲鳴のように彼女は叫んだが、驚きが過ぎて無様に言葉を噛んだ。

「なななするって、なんだ?」

彼女の胸あたりで動かしている手を休めず、しっかり彼女の揚げ足を取る。

「そ、それは服じゃないんですよ。脱げませんってば!脱げな…」

彼女は言葉を止めた。

脱げないはずの毛皮が、するするっと脱げてゆくではないか…まるで魔法のようだった。

「な、なんで…脱げ…」

あ然としている彼女のことなど構いもせず、彼は当然の顔をして、彼女の胸に顔をうずめた。

「ひ、あっ」

胸の突端にとんでもない甘い刺激を受けて、彼女は甘く叫んだ。

彼が与え続ける、とろけそうな疼き…

世界がぐるぐると回転してゆく…




   
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