ナチュラルキス
natural kiss

やさしい風サイト10周年 特別番外編
啓史視点



『中途半端を味わう』



その2 案外そうでもない



父が先頭で走り出し、息子三人が後に続いた。

走り出してすぐは、予想した通り順平ははりきりすぎて、父を追い越す。

「順平、しょっぱなからそんなに頑張るな」

父が声をかけてたしなめるが、小さな末っ子は聞いちゃいない。鉄砲玉のようにすっ飛んで行く。

この先の状況が見えて、啓史はどうにも笑いが込み上げる。

「徹兄、今日は一キロ走れるのかな?」

「どうだろうな」

啓史と徹が後ろの方でそんなやりとりをした数分後、順平の速度は極端に落ちた。

「も、もうダメ……」

順平は立ち止まってしまい、ハーハー荒い息を吐く。

すると父は、末息子に歩み寄り、ひょいと抱き上げて肩車した。

「わわっ!」

驚いてバタバタしていたが、すぐに大喜びではしゃぎ始める。

「わーっ、たっかい」

「よし。このまま走るぞ」

父は、徹と啓史に向かって言い、走り始めた。

順平が走っている時より、速い。

肩車されている順平は、キャーキャー叫んで喜んでいる。

そんな弟を見つめて、啓史はやれやれと苦笑したのだが……

肩車されている弟に羨ましさを感じている自分に、舌打ちをしそうになる。

中学生にもなって、もう肩車をしてもらえないことに、寂しさを感じるなんて……

やっぱり、俺はまだまだ子どもってことか?

ほんと、いまの俺って中途半端だよな。

心も身体も……

自分はもう子どもじゃないと思うものの、どう頑張ったところで大人でもない。


川沿いの土手の道を走っていたが、そろそろ空模様が怪しいということで、そこで折り返すことになった。

戻る前に、河原に下りて少し休憩を取る。
初めてジョギングに参加した順平のためかもしれない。

川向うからは、気持ちのいい風が吹いてくる。

その風を頬に受けつつ、啓史は過去を遡った。

そういえば、俺が初めて参加したときも……ここら辺りに下りて川の流れを眺めた憶えがある。

あれは俺のためだったんだな、たぶん。

俺も順平と同じように足を引っ張ってたってのに、そのときの俺はそれと気づかなかった。

ふたりと走り始めてかなりたったころ、ようやくそうだったんだなと気づいたんだよな。

肩車も、幾度となくしてもらったっけ。

「こうやって顔に受ける風も気持ちいいけどさ、走ってる時の風って、これよりもっと気持ちいいね」

順平がそんなことを言う。

「自分で起こす風だからだろう」

父が順平に答えた。

自分で起こす風だから……気持ちいいか。

確かにな。

「さて、腹が減ったな。母さんの作った飯が待ってる。みんな折り返すぞ」

順平が元気よく、「おーっ」と叫び返す。

「僕、今度は家まで完走するからね」

自信満々で順平は宣言する。

啓史は笑ったが、家に向かって走り出した順平は、もう無茶な走りはしなかった。

変わり映えのしない毎日のように思っていたけど……案外そうでもないな。

それに、自分の中途半端さに苛立ってしまうのもいまだけってことなら、苛立つことなく、いまの中途半端さを味わえるのかもしれないな。

順平の後ろをゆっくりと走りながら、啓史はそんなことを思ったのだった。






ぷちあとがき

10周年記念、これにて終わりです。。。短いですが。

10周年記念なので、10年前の啓史を書いてみました。
啓史は中1。徹は高2。そして順平は小3。

中1の啓史は、あんまりいまと変わりませんね。笑
だからこそ、自分の中途半端が歯痒いかな。

読んでくださってありがとうございました。
楽しんでいただけていたら嬉しいです♪

fuu(2015-6-26)

  
inserted by FC2 system