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心を固めた反動
ひとのいない駐車場へ向かい、啓史は自分の車に乗り込んだ。
一時間ほど父兄の参観する中、最後のホームルームが行われる。
残っている仕事に啓史が取り掛かるのは、クラス全員が徹とともに外へと出てきてからだ。
啓史は座席を倒して、頭の下で手を組み、車の天井に目を向けた。
大学に入ったあたりから、橘の伯父から、数年でもいいから教師をしてみないかと、しつこく勧められていた。
あまり熱心に勧められて、教諭資格を持つのもいいかもしれないと、啓史は取得に向けてこれまで動いてきた。
橘の伯父は、昔から次男の啓史に、橘家を継いでもらいたがっている。
伯父とは気があったし、橘家は自宅と同じに気を使う必要もなく、やたら居心地がよかったから、頻繁に遊びに行っていた。
そんなこともあって、伯父夫妻とは親子のような心の繋がりがある。
彼は車の天井に向けて、胸に詰まった息を吐き出した。
やはり甘かったのだ。
橘の伯父にも、もうはっきりと断ったほうがいいかもしれない。
教諭資格も、いっそ取るのをやめたらどうだろう…
啓史自身もだし、橘の伯父も諦めがつくかもしれない。
教師をやりながら研究に打ち込むなんて、どっちつかずなことは、無責任が過ぎる。
心を固めた反動なのか、残念な思いが胸をつきあげてくるのに、啓史は悩まされた。
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