ナチュラルキス ハートフル
natural kiss heartful


christmas特別番外編



1 パーティーにご招待



書き終えた答案用紙を余裕なく見直していると、ついに終了の時間が訪れた。

答案用紙を提出するも、手で追いたくなる。

あそこ、あれでよかったかなぁ? 迷いに迷って答えを書いたけど……

答案用紙が手から離れてしまった今になって、迷いが強くなっていく。

今更後悔しても仕方ないんだから、もう考えるのやめよう。うん、そうしよう。と自分を強引に納得させる。

全部の答案用紙を集め終え、教師は教室を出て行った。その瞬間、教室内は喧噪状態となる。

「くわーっ、終わったーっ」

「あーっ、もうダメだぁ」

「くっそおーっ。予想した範囲外れちまったーっ」

安堵や失意の声など、あちこちで上がる。

けど、期末テストもこれで終わったんだ。

鬼のカテキョウに毎夜しごかれた日々も、ついに終わり。

今日から、通常の佐原先生と夜を過ごせるんだなぁ。

くくぅ、嬉しいよぉ。

……だけど、テストの結果が気になるぅ。
前回より成績落ちてないといいんだけどなぁ。

沙帆子はシャーペンをペンケースに戻し、机の上を片付けた。そして顔を上げて、まず詩織を窺う。

詩織、どうだったんだろう?

中間テストはかなりよくて、期末も頑張るって凄く張り切ってたのに、初日に行われた数学の試験があまりよくなかったみたいで、落ち込んでたんだよね。

挽回できたならいいけど……

詩織の側には千里がいた。それを見て、沙帆子も立ち上がりふたりのところにいく。

「沙帆子、あんたはどうだったの?」

「うーん……まあまあってところ、かな」

「そう」

「詩織はどうだったの?」

「う、うん。まあ、ちょこっとは挽回できたかも。国語は他の科目よりは得意だし、物理も思ったより頑張れたと思うんだ」

詩織の表情がそこそこ明るく、沙帆子はほっとした。

この様子だと、安心してよさそうかな。

「千里は?」

心配しなくても、千里は大丈夫だろうけど……

「まずまずよ」

「いいよねぇ。千里みたいな頭脳の持ち主になりたーい」

詩織は不服そうな目を千里に向けたが、すぐに満面の笑みになった。

「けど、ついに終わったね。これでやっと、クリスマスの雰囲気を思う存分楽しめるよ」

うん、クリスマスだよね♪

期末試験が終わるまでは、さすがにクリスマス気分に浸っていられなかったもん。

それに、クリスマスがやってくれば、もう冬休み。

まあ、その前にテストの結果が出るわけで、そっちはどうしたって気にかかるわけだけど……

「けどさぁ、今年はクリスマスパーティーできる?」

詩織は心配そうに沙帆子に聞いてくる。

ここ二年、イブの昼間には三人でクリスマスパーティーをした。
最初の年は沙帆子の家、去年は詩織の家でやった。

来年は千里の家でって話になってたんだよね。

「それについて話したいことがあるのよ」

「話したいこと?」

「それって、クリスマスパーティーのこと?」

「うん。それでさ、沙帆子の家にこれからお邪魔してもいい?」

「もちろんいいよ」

そんなわけで、三人はホームルームが終わるとすぐに、果樹園の家へと移動した。

お茶を用意しようとしたが、千里がとにかく話をしたいというので、三人してダイニングのテーブルに座った。

「で、なんなの?」

詩織は千里の話が気になるようで、せっつくようにして話を促す。

すると千里は、鞄の中からなにやら取り出し、「ジャジャーン」と言いながら、チケットのようなものをテーブルの上に置いた。

「なにそれ?」

えっ、クリスマスパーティー?

きらびやかな文字が目立つように印字されている。文字の周りに配置されたクリスマスのデコレーションも素敵だ。

「あっちゃんからもらったの」

あっちゃんというのは千里の従兄弟であり啓史の友人でもある飯沢敦のことだ。

「敦さんから?」

詩織は千里の手から受け取ったチケットをしげしげと見る。

沙帆子も一枚もらい、見てみたら……

「ええっ、大学主催なの?」

しかもこれ、佐原先生の通った大学じゃないか!

「うん。招待してくれるって、もちろん行くよね?」

「行きたい!」

詩織が間髪を入れずに返事をする。

「わたしも行きたい」

詩織の弾んだ声に、沙帆子も声を合わせた。

夏にオープンキャンパスに、千里たちと一緒に参加したんだけど、あの時は大学っていう雰囲気に呑まれて緊張しっぱなしで……
でも、とっても素敵な大学だった。

あの大学でクリスマスパーティーが開かれるのかぁ♪

緊張も感じるけど、みんなと一緒なら……

でもこれ、もちろん佐原先生も一緒ってことだよね?

そう考えた途端、沙帆子は眉を寄せてしまう。

先生……行くかな?

こういう場所、好きそうじゃないよね。

どう考えても、強烈に行きたがらない気がする。

参加は無理なんじゃないかな?

気弱になりつつ、沙帆子は千里に問い掛けた。

「千里、これって、もちろん啓ちゃんも、なんだよね?」

確認したら、千里は顔をしかめた。そんな千里を見て、詩織も不安そうになり、沙帆子と千里の顔を交互に見てくる。

「もちろんそうよ。そうじゃなきゃ、沙帆子ひとりで参加なんてできないでしょう?」

「けど……啓ちゃん、パーティーに素直に行くとは思えないんだけど」

「確かに、あっちゃんも、それを心配してたわ」

やっぱりか。
なんか、参加は無理っぽいな。

「け、けどさ。沙帆子がパーティーに行きたいって言えば、啓ちゃん、いいよって言ってくれるかもしれないよ」

詩織が慌てて意見を言う。

どうしても参加したいってお願いすれば、もしかしたら……

けど、先生が嫌なのなら、無理を言いたくないんだよね。

でもそうなったら、千里と詩織のふたりだけで参加してもらうしかない。

……。

ううっ、やっぱりわたしも一緒に行きたいよーっ!

それが本音です。

「実は、あっちゃんがさ」

パーティー参加は絶望的と考えて、内心激しく落ち込んでいたら、千里がそんな風に切り出してきた。

「啓ちゃんには、パーティーに参加すること、ギリギリまで黙っておくのがいいんじゃないかって」

ギリギリまで黙ってる?

そ、そんなこと、しちゃっていいの?





つづく





プチあとがき

今年のクリスマス特別番外編、ナチュラルキスにてお送りしました。

沙帆子と啓史が結婚して、初めてのクリスマスです。

敦により、なにやら啓史の大学のパーティーに参加となりそうな雰囲気。
けど、啓史が素直に参加するとも思えません。

さてさて、どうなることやら?
続きも楽しみしていただけたら嬉しいです♪

読んでくださってありがとう(*^▽^*)

fuu(2016/12/19)


  
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