ナチュラルキス ハートフル
natural kiss heartful


christmas特別番外編



5 まんまと嵌められて (海斗視点)



封筒を開けて中を見ようとしたら、携帯にメールの着信があった。

このタイミング? 偶然とは思えないが……

確認してみたら、やはり学生課からだ。

だが、海斗だけに送られたのではなく、学生全員に一斉送信されたものだった。

全文を読んだ海斗は、ムカつきに歯を軋らせた。

メールの内容はクリスマスイブに行われる学生課主催のクリスマスパーティーについてだった。

代表スタッフの名が連ねられていて、彼らがパーティー券の販売をすると書いてあった。

そして、代表スタッフの名前の中には、なんと海斗の名もあったのだ。さらに大成の名までも……

海斗は顔を引くつかせた。

これを仕組んだのは柏井に間違いない。

ひとの承諾も得ず代表スタッフにするなんて……こんな強引な手段に出るとは。

まったく冗談じゃない!

今後のためにも、ここはおとなしく引き下がるなんてことはしてられないな。

陸か柏井を探し出して、この封筒を突き返してやらねば。

すぐさま二人を探しに行こうとしたら、「あの、保科先輩」と呼びかけられた。

見ると、近くにいた数人の女子学生が、海斗に駆け寄ってくる。

彼を先輩と呼ぶということは1年の子たちだろう。

「なにかな?」

「パーティー券のことです。いま学生課から届いたメールを見ました。保科先輩から買えるんですよね?」

頬を染め、期待のこもった目を向けられる。

メールによれば、確かに海斗の役目なのだが……むざむざ従いたくない。

断ろうとしたが、こんな会話をしている間に学生たちが海斗に群がってきた。女性だけでなく男性たちもいる。

「保科君、早くパーティー券頂戴!」

「わたしも早くっ!」

彼女たちは先輩のようだが、なにやら目が血走っている気がする。

驚いたな。大学主催のクリスマスパーティーが、これほど学生たちに人気だとは。

「ねぇ、保科君。佐原先輩が特別代表スタッフとして参加されるって本当なの?」

佐原先輩? 誰だそれは?

「いえ、僕は知りませんが」

「えーっ、代表スタッフなのに、佐原先輩を知らないの?」

まるで知らないのが愚か者のような言われようだ。

「そう言われても……」

たったいま、代表スタッフにされたことを知ったのだ。内容について何も知るはずがないではないか。

まあ、彼らに何を言っても仕方がないわけだが。

「佐原先輩って、誰なんですか?」

後輩の子が興味を見せて先輩たちに聞く。すると先輩方は、急に胸を反らすようにする。

なんだろうな? ずいぶんと優越感を滲ませておいでだが。

「ああ、あなたたちは知らないのよね」

先輩たちは、さも気の毒そうに言う。その表情にはやはり優越感が色濃く滲み出ている。

「佐原先輩は二年前にこの大学を卒業された方なのよ。それはもう、筆舌に尽くしがたい素敵なひとだったのよ」

「えーっ、そうなんですか? その先輩は保科先輩くらい素敵な人だったんですか?」

そんなことを言うものだから、先輩たちが一斉に海斗に向く。

「そうねぇ……彼の1.5倍増しって感じかしら」

「ええーっ、保科先輩より上だって言うんですか? そんなひと想像できませんよ」

「想像するより実物を見ないと」

「そうそう」

「いま届いたメールによると、佐原先輩はこのパーティーに、特別代表スタッフとして参加されるようだから、あなたたちも見られるわよ」

先輩から上目線でそう言われた後輩たちは、互いに顔を見合わせる。

そして、そんな女性たちの盛り上がりの隙をつくように、男どもは海斗からパーティー券を購入していった。二枚購入する者も時にはいたが、ほとんどが一枚ずつだ。

女性たちは佐原という人物目当てで購入していくようだが、男たちは男たちでパーティーになにやら期待を持っているようだ。

まあそんなことで、海斗の手にあった券は、一週間経たずに完売となったのだった。





つづく




プチあとがき

海斗視点、第二話。いかがでしたでしょうか?

さて、次はまた視点が変わると思います。
クリスマスのうちに完結を目指します。

お読みくださり、ありがとうございました。
お次もお楽しみに♪

fuu(2016/12/23)
   
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