ナチュラルキス ハートフル
natural kiss heartful


2500000キリリク話 わんこ様
《ぷちハネムーン編》
(2017/1/23)


2 デコピンレッスン



夜になり、沙帆子は夕食のあと、映画の感想とともに、その話を啓史にした。

「江藤は相変わらず面白いな」

啓史はそう言うと、突然沙帆子に顔を近づけてきた。

顔が近づき、これはキスされるのかと思ってドギマギしたのだが……

「お前、俺にデコピンしてみろよ」

「へっ?」

「お前のデコピンがどれほどか試してみたい」

「そ、そんな……」

佐原先生のおでこをデコピンするなんて恐れ多いですっ!

と思ったのだが、先生から求めてきてるわけだから……ここはデコピンしたほうがいいのか?

なんて悩みつつ、沙帆子は恐る恐るデコピン体勢を取った。

やったことがないし、こんな流れでデコピンすることになり、所作がどうにもぎこちなくなってしまう。

こうかな? それともこうかな?

指を丸めて、試行錯誤だ。

啓史の額に狙いを定められず、さんざん迷う。

「早くしろよ!」

余計な叱責を食らってしまい、沙帆子は頬を膨らませた。

「経験ないんですよっ。どうやったらいいかわからなくて迷っちゃうんです」

「よし。なら、手本を見せてやろう」

は?

口を開けて啓史を見た途端、パチンとデコピンを食らう。

「いたたっ」

額を押さえ、沙帆子は啓史を睨みつけた。

「なんでこんな風にデコピンされなきゃならないんですか? おかしいですよ」

「おかしい? おかしくはないだろう? どうやったらいいかお前がわからないでいたから、手本を見せてやったんだ」

まるで恩に着せるように啓史は言う。

そして……

「見本を見せてやったから、もうやり方は分かっただろう。ほら、やってみろ」

なんでデコピンをやらせたがるのか、先生の気持ちが理解できないんですけどぉ。

よくかわらないが、ここはやるまでせっつかれそうだ。

沙帆子は再びデコピン体勢を取り、顔をしかめて思い切りデコピンを放った。

だが、沙帆子のひとさし指は、ぴとっと啓史の額に張り付いただけだった。

威力も何もない。

「なんだ?」

「しっ、失敗しました」

顔を赤らめて報告するように言ったら、啓史が派手に噴き出した。

「失敗するにもほどがあるだろ」

そう言って、それは楽しそうに笑い続ける。

「笑うなんて失礼ですよっ。デコピンができないのが、そんなにおかしいんですか?」

「おかしいけど」

くっくっと笑いながらさらりと言った啓史は、沙帆子の額に指を当てる。

「少し赤くなったな」

「先生は全然赤くないです」

「あんなにまで完璧に不発じゃな。赤くなりようがない」

「別にいいですよ。デコピンなんてできなくてもいいし、デコピンすることなんてないし」

「けど、お前いつも飯沢にやられてんだろ?」

「それはまあ……はい」

「飯沢の額に完璧にデコピンを食らわせてやったら、飯沢は目を丸くするぞ。それを見たいと思わないのか?」

「まあ、それは……」

「なら、デコピンの特訓が必要だな」

デコピンの特訓か。先生、面白いことを考えるなぁ。そんな風に思っていると、啓史が「なあ、沙帆子」と表情を変えて話しかけてきた。

「はい」

「夏休みに、旅行に行かないか?」

「旅行ですか? パパやママとですか? それとも先生のご両親と?」

「……ふたりでだ」

「ふっ、ふたり?」

「なんだ俺とふたりじゃ嫌なのか?」

「そ、そんな滅相もないです。もちろん嫌じゃないです。行けたら嬉しいです」

ふたりきりで旅行に行けるの?

なんかふたりきりの旅行って、すっごいドキドキしちゃうけど……

でも……

「大丈夫でしょうか? わたしたちのことを知っている人とばったり会ったりしたら……」

「お前だってバレないように化粧はしなきゃならないだろうな」

そう言った啓史は、沙帆子の目を覗き込んでくる。

「不安か? 旅行に行っても楽しめそうにないか?」

そう聞いてくるということは、佐原先生はわたしとふたりきりで旅行に行きたいと望んでくれてるってことだよね? 不安があっても。

「不安は感じますけど……行きたいです」

そう言ったら、啓史は頷いただけだったが、嬉しがっているのが伝わってくる。

そんな啓史を見ていたら、なんだか胸がジーンとした。

「そうか。知り合いに出くわすことのない、穴場でいいか?」

「はい。あっ、でも、今からだと宿とか取れるでしょうか? 夏休みって、ずいぶん前から予約取らないと……」

「別荘を借りるつもりなんだ」

「別荘? あの、誰から借りるんですか?」

「伯父貴」

「ええっ! 校長先生、別荘をお持ちなんですか?」

「北と南にな」

「に、二か所も?」

やっぱり校長先生って凄いなと、感心してしまう。

高校を経営してるだけじゃなくて、大きな果樹園の経営者でもあるんだものね。と、遅れて納得する。

「写真見せるから、どっちに行くかお前が決めていいぞ」

そんなわけで、沙帆子は別荘の写真を見せてもらい、ワクワクしながら目的地を選んだのだった。





つづく





プチあとがき

わんこさんのキリリクにお応えして、ナチュラルキスハネムーン編を。
ふたりきりの旅行なので、一応ハネムーンってことで。

沙帆子の卒業後に、本格的なハネムーンに行くことになると思うんですけどね。

何話になるかわかりませんが、まだ続きます。

読んでくださってありがとうございました。
お次もお楽しみに(#^.^#)

fuu(2017/1/23)
   
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