ナチュラルキス ハートフル
natural kiss heartful



3 居丈高なお願い



「では、全員集まりましたので、部会のほうを始めたいと思います」

ロボット開発部の部長である広澤が会を進行させる。

いくぶん固い雰囲気で、緊張を感じた沙帆子は無意識に姿勢を正した。

そのあと森沢が、簡単に全員を紹介してくれたので、自己紹介をせずに済んで、沙帆子はほっとした。

見覚えはあるものの名前がわからなかった男子は、矢島宙というひとだった。

森沢によると、プログラミング能力にバツグンに長けているとかで、ロボット開発には欠かせない人物なのだそうだ。

しかし、そのあたりの説明からして、情けないことに沙帆子にはちんぷんかんぷんだった。

森沢による全員の紹介が終わると、今度は広澤が改まった調子で話し始めた。

「実は、ロボット開発部は、ロボット技術研究会という名で、前年度までは同好会として活動していました」

へっ? どっ、同好会?

「そうなのか?」

沙帆子たち同様に何も聞かされていなかったのか、藤野が驚いたように言う。広澤は彼に頷き、また話し始めた。

「僕が一年の二学期、学校側に部の申請をしたんだけど、なかなか部員が集まらなくて、正式な部にはならなかったんだ」

そう語った広澤は、自分の左隣に座っている矢島に顔を向ける。

「結局、入ってくれたのは、この矢島だけだったんです。そのあと、森沢も入ってくれたんですが、一年半経っても部員は三人だけで、正式な部になれずにいたんです」

そうだったんだ。
てっきり、正式な部として活発に活動していたんだとばかり……

だって、森沢君に広澤君っていう、同級生の中でも特に優秀なふたりが揃っているんだもの。

でも、ロボット開発部って、特殊な感じだものね。
そういうのが得意で好きなひとじゃないと入部しようなんて思わないか。

……って、このわたしが入っちゃったわけだけど。

「だが、君らのことだ。活動はしていたんだろう?」

啓史が広澤達に問いかけた。

それだけのことなのに、沙帆子はちょっとどぎまぎしてしまう。

「もちろんです!」

広澤は勢い込んで啓史に返事をする。

自分たちの活動に興味を持ってもらえたことが、とんでもなく嬉しかったみたい。

「プログラムの作成にはかなりてこずってますが、試作品もいくつか作ったんです」

「その成果を見せてほしいが」

「はい。ぜひ先生方に見ていただきたいです」

「おいおい、広澤」

興奮気味の広澤に、森沢が声をかける。

「まだ説明しなきゃならないことがあるんだ。それはあとにしよう」

「そっ、そうだったな。森沢ごめん。……佐原先生、あの、あとで」

「わかった。それじゃ、さっさと説明とやらを終えろ」

「ありがとうございます。それじゃ、この後の説明は、僕のほうからさせていただきたいと思います」

森沢は丁寧に言い、さっそく説明を始めた。

「部員はこの六人ということで、正式な部に昇格する資格は得られたし、念願だった競技会に、ぜひとも出場したいと思っています」

「そうだな。顧問としても出場してもらいたいな。なあ、佐原君」

荻野は啓史に話を振る。すると啓史は、また先ほどのように苦笑する。

なんなんだろう? 先生、どうして苦笑してるのかな?

「もちろんですよ。引き受けた以上は、全国大会に出場するくらいの気持ちで挑んでもらいたい」

ぜ、全国大会!

全国だなんて、沙帆子にはとんでもない話のような気がするのに、啓史は本気のようだ。

「おおっ、力強いです。佐原先生、よろしくお願いしまーす」

矢島が急に色めき立って立ち上がり、啓史に頭を下げる。

「まあまあ、落ち着け矢島。……それで、顧問は荻野先生だと伝えていたけど、ここでそれを訂正させてもらいたいんだ」

えっ? 訂正って、どういうこと?

「実は、荻野先生は教師のほかにも仕事を抱えておいでなので、顧問として本格的な活動はできないそうなんだ。それで、実質的は佐原先生に顧問をしてもらうことになった」

その説明に、沙帆子は思わず啓史に向いた。啓史は沙帆子の目を見返したが、腕を組んで黙り込んでいる。

「それなら、初めから佐原先生に顧問になってもらったらいいんじゃ……」

「それはダメよ」

詩織の意見に、千里が即座にダメ出しした。

「千里、どうしてダメなのよ?」

「佐原先生が顧問をするとなったら、我も我もと女子生徒たちが入部してきて、大変なことになるわよ」

ああ、確かにそうかも。

沙帆子が納得したところで、森沢が笑いながら「そういうことなんだ」と言う。

「そんなことになったら部はまともに動かなくなる。だから、佐原先生の名前は伏せておきたいんだ。部員をこれ以上増やさず、これから一年、この六人で活動していくほうがいいだろうと考えてる」

「だけど、一年生も二年生も入ってこないんじゃ……。わたしたちが卒業するとき、この部も終わっちゃうんじゃない?」

詩織が、おずおずと尋ねる。

「終わってほしくはないな。だから、競技会に積極的に参加して、それなりの功績を残したいんだ。功績が残れば、勧誘しなくても入部希望者も現れるかもしれないしね」

「それなら、俺は顧問を下りたほうがいいんじゃないか? 他の教員に顧問になってもらえば……」

啓史がそんなことを言い出し、驚いていたら、荻野が「佐原先生」と声をかけつつ啓史の肩を叩いた。

「なんですか?」

「彼らは名ばかりの顧問がほしいわけじゃない。君に顧問をやってもらうことで困ることがあったとしても、君にやってもらいたいのさ。なあ、そうだろ?」

「はい。荻野先生のおっしゃる通りです。佐原先生、どうかよろしくお願いします」

森沢が頭を下げると、広澤と矢島も「お願いします」と頭を下げた。

「わかった。……君らがいいのなら、やらせてもらうさ」

「ありがとうございます!」

広澤と森沢、そして矢島の三人は、ほっとしたように笑みを見せる。

藤野だけは、どうしていいのかわからぬようで、困り顔で広澤達を見つめている。

「さて、それじゃあ、表向きは荻野先生が顧問だが、事実上は俺が顧問になるとして、部室は物理室ということにしてもらったほうが、俺としてはやりやすいんだが……それでいいか?」

「もちろんです」

「うん。……荻野先生、それでかまいませんか?」

啓史が荻野に了承を取ると、荻野はあっさり頷く。

「もちろんだ。それでいい」

「よし。それじゃ、部活動をするにあたって、君らにはまず手始めに、掃除をしてもらうとしよう」

「掃除ですか?」

広澤が戸惑ったように言う。

「ああ。物理を担当すると決まったのがあまりに急だったから、授業の準備に時間を取られて、教室のほうの清掃まで手を回せなかったんだ。思いのほか汚れていてな。そうそう、物理準備室の清掃も頼みたい。これから君らの部室としても使うんだし、もちろんやってくれるよな?」

啓史は部員全員に向け、居丈高に問いかけたのだった。





つづく



   
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