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第12話なのにゃ
第12話 『小人の宴会』
小人の小屋に辿り着いてみると、外まで響くほど、小屋の中は賑やかに盛り上がっていた。
「なにやってるにゃ。ハナ雪姫が来たときには、留守になってなきゃならないはずなのにゃ」
「そうでしたね。ちょっと行って、みんなに言ってきましょうか?」
「いますぐそうするにゃ」
「それじゃ」
fuuは、鍵のかかっていないドアを開けて中を覗いた。
ずいぶんいい匂いがする。
「もう、亜衣莉さん、お料理上手ぅ。すっごいおいしいよ」
ご馳走が山と盛られたテーブルを、全員が囲って食事中のようだ。
遅刻組のジェイと、美紅もいる。
それぞれみんな、ペアで座っているようだ。いや、ひとり、玲香だけがひとりぽつんと座って、怒りに駆られたような表情で料理を口に放り込んでいる。
「あのー、お邪魔します」
fuuの呼びかけに唯一気づいたのが、玲香だった。
玲香は、嬉しそうに顔をほころばせ歓迎の意志を見せた。
「あ。fuuさん。いらっしゃーい」
fuuは駆け寄ってきた玲香に抱きしめられた。
どうやら、よほどつまらない思いをしていたらしい。
「あれ、fuuさん」
遅ればせながら、亜衣莉が気づき、全員の顔がこちらに向いてきた。
「おなか空いてませんか?一緒に食べません?」
「あ、いや。それが外に来てるので。ま、不味いかなって…」
そう無意識に口にしつつ、腹ペコのfuuは、誘われるままふらふらとテーブルに近づいていった。
豪華な料理にごくりと唾を飲み込む。そんなfuuの前に、どっさり料理が盛られた皿が差し出された。
気の利く亜衣莉に、fuuは嬉し涙を浮かべ、無言で皿を受け取った。
皿の料理に魅入られていたfuuは、ジェイの勧めで、空いた席に座りこんだ。
かなり小さな椅子で、すわり心地はよくなかったが、これまでずいぶんな目にあっていたfuuにとって、このくらいのこと気にもならない。
「お、おいしいですぅ」
「亜衣莉は、最高に腕がいいシェフだからな」
「そんな、聡さん…は、恥ずかしいです」
聡に褒められて、顔を真っ赤にして俯く亜衣莉を見つめ、fuuは同意を示して口に頬張りながら、頷き続けた。
二皿目が空になったところで、ドアがバンと派手な音を立てた。
もちろん、全員が一緒に振り向いた。
「あれ、風かな。誰もいない」
ジェイが言った。
確かにドアのところには誰も…
fuuはハッとして飛び上がった。
空になっていた皿が手から零れ落ち、床に落ちた。
「どういうことにゃ」
「い、いえ。お腹が空いてて…つい」
すっすっと無言で近づいて来たハナは、fuuの横に立って見上げてきた。
「この椅子は、誰の椅子なにゃ」
その質問に、fuuは、改めて自分が座っていた椅子を確認し、ぴょんと横とびにとんだ。
真新しいかわいらしい椅子。
どうやらハナ専用の椅子だったらしい。
fuuは、自分の身の破滅を思って、腰が抜けた。
また…半生着ぐるみハムスターに…逆戻り?
「ハナ、キュートだね」
ジェイの朗らかな声が響き渡った。
ハナは、褒め言葉に相好を崩しジェイに向いた。
「ほんと、ハナちゃん、可愛い。白雪姫そのものだわ。らぶりぃ」
美紅は床にしゃがみこみ、ハナの両手を取って小さく揺らした。
ハナの相好はさらに嬉しげなものなった。
「ハナ、遅刻して悪かったね。でも、こんな可愛いハナ雪姫をみられるんなら、もっと早く来ればよかったよ。ねぇ、美紅」
「ほんと。ハナちゃん。わたしハナちゃんのためにご馳走作ったのよ」
「ほんとかにゃ。ストーリーの進行とちょっと違うけど、まあいいにゃ」
「ハナ、僕の作った椅子とベッド、みてくれよ。気に入ってくれるといいんだけど」
控えめにジェイが言ったことで、ハナのご機嫌は、宙を舞いそうなほどになった。
fuuは、危機を脱して部屋の隅に引きこもった。
ジェイと美紅には、あとで十分にお礼をしようと心に決めた。
宴会は盛大に盛り上がり、深夜遅くまで続いたあげく、みんなはやっとベッドに引き上げた。
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