100万ヒット記念 御礼 企画
白雪姫バージョン ハナ雪姫物語 (主演女優 ハナ)



 第17話なのにゃ




第17話 『王子の秘密』



堂々とした立ち姿は、まさに王子様。
そしてきりりとした知的なまなざし。

「あ、の、君は?」

自分が出るしかないと思ったのだろう、聡が前に進み出て、黒猫に尋ねた。

「隣国の王子です。この森に散策に来たのですが…それより…皆、泣きはらした目をして、どうしたのです?」

王子と名乗る黒猫はそうみなに優しく問いかけると、さっそうと馬から降り立った。

背丈はないのに、見事なほど凛々しさがある。

「お、王子様。どうかハナを助けてくださいっ!」

老婆の玲香が取りすがった。

老婆姿の玲香を見た王子は、その姿に驚きもせず、なぜか懐かしそうなまなざしで玲香を見つめ返した。

「大丈夫ですよ」

「でも、ハナちゃん、し、死んじゃったんです。い、息…し、してないんです」

葉奈はすすり泣きながら、両手を握り締め、祈りをささげる様に、黒猫王子に訴えた。

彼女の頬には、ずっと涙がこぼれ続けている。

「王子様。あなたなら、ハナを助けられますよね?」

痛みをこらえるように胸に手を当て、唇をかみ締めた亜衣莉が、黒猫に頼み込むように言った。

黒猫王子は、心を慰めるように静かに頷いた。

「あなた方のおしゃる、ハナという名の姫は、どこにおられるのです」

「ここです。このガラスの棺に…」

吉永が、教師らしいよく通る声で言った。

王子はさっと動き、ガラスの棺に歩み寄ると、眠ったような表情で横たわっているハナをみつめた。

「なんと、美しい姫だ」

王子のその台詞には、さすがに翔と聡は噴き出しそうになった。

王子は、ガラスのふた開けて、ハナ雪姫を見つめた。

「ハナを助けられるのか?」

王子の横に並んだ翔は、固い声で尋ねた。

平生どんなにやり合おうとも、翔は誰よりもハナを大切に思っている。
表情には出さないものの、彼の喪失感は深かった。

ハナが助かるのなら、どんな一縷の望みでも…縋りたい。
彼の隣で、いまだに涙を止められないでいる葉奈のためにも…

「あ、あの」

王子の背後から呼びかけたのはジェイだった。王子がくるりとジェイに向いた。

「お前?」

ふたりは見つめあった。
王子はひどくまぶしげに、ジェイを見つめている。

「お久しぶりです。ジェイ」

「お、お前?…だよな?」

ジェイの声は、なぜだかひどく震えている。
涙を浮かべているジェイをみた美紅は、はっと喘いだ。

「サスケ君?」

「サスケ?」

美紅の言葉に、聡が驚いて叫んだ。

「サスケってジェイが飼っていた…?だ、だが、サスケは犬だぞ」

翔の言葉に、ジェイが微笑んだ。

「でも、サスケだ。僕には分かるよ」

サスケが嬉しげに頷いた。

「会いたかったです」

ジェイが手を差し出した。
サスケは小さな黒い手を、ジェイの手に重ねた。

「ジェイ、素敵なひとと出会いましたね」

サスケは、ジェイに寄り添っている美紅を見つめて微笑んだ。
美紅も微笑み返した。

「サスケ…お前、これが終わったら、どこかに行ってしまうのか?」

サスケは謎めいた笑みを浮かべた。

「犬のサスケはもういません。ジェイ、それでもいいですか?」

「え?」

ジェイの驚きに笑みを浮かべ、サスケはハナに向いた。

「姫にキスを…。私の特別なひと…」

胸にじーんとくるようなささやきだった。

サスケはハナに顔を近づけ、やさしく唇を触れ合わせた。

その様子を、みな、固唾を呑んで見守った。

ハナの口から、リンゴの小さなかけらが転げ落ち、ハナの目が開いた。

女の子たちの、小さな歓声が上がった。

「私の姫…」

サスケ王子は、愛しげにハナにささやき掛けた。

「王子様?わたしの?」

無垢な少女のように、ハナは戸惑っている。
芝居か本気か分からない。

「ええ。迎えに来ました。さあ、みなに別れを告げて、私の城へ参りましょう」

差し出された手に、ハナが手を差し出し、二人の手が触れ合った。

「はい」

信じられないほど可憐なハナの返事だった。

みんな思わずのけぞった。

王子はハナを軽々と抱き上げ、みなが呆然としている間に、白馬に跨った。

「ご恩は忘れません」

王子はみなに向かって叫び、馬の向きを変えた。

「サスケ!」

ジェイの急くような呼びかけに、サスケは一度だけ振り返り、大きな笑みをみせた。

その笑みを残し、馬はあっという間に走り去っていった。

後には、駆けてゆく馬のひずめの音だけが残った。

「どういうことだろ?」

呆然としてサスケとハナが消えた方向を見つめているジェイに、美紅が寄り添った。

「サスケにもうすぐ会えるわ」

「会える?」

「ネコになっててもいいかって言ったわ、サスケ君」

「そうなのか?」

ジェイはみんなに確認を取ろうとでもするように、周りを見回した。

だが、周囲はすでにぼやけつつあった。

「終わりのようだな」

ぼやけた視界の向こうで聡の声が聞こえ、「ああ」という翔の返事が聞こえた。

そして…すべてが消えた…




End







あとがき


100万ヒット企画。これにて終了です。

終了までに、ずいぶん掛かってしまいましたが、とにかく完結できて嬉しいです。

fuuは途中でとんずらしましたが、あんなのはいなくてもどうということありませんので、気になさらず、お話を楽しんでくださればうれしいです。笑

終わり方が少し曖昧ですが、ハナの創り上げた世界は消え、みな、自分たちの世界に戻ってゆきました。

たぶん、みんなの記憶には残らないのでしょうけど…サスケはきっとジェイの元に…

読んでくださって、ありがとうございました。


fuu








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