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第2話なのにゃ
第2話 『井戸と小鳥さん』
しおらしげな風情で井戸に寄りかかっているハナ雪姫。
…けれど背がまったく足りていないため、井戸に手をついている、ただのネコにしか見えない。
そこに、ネコの存在に怯える2羽の小鳥、餌に釣られて登場。
ピチュ ピチュ…
「小鳥さん、こんにゃちわぁ♪」
井戸の近くに添えられた餌台の上に、恐る恐るとまり餌を、いままさについばもうとしていた小鳥2羽、ハナの大声に「ピギッ」と悲鳴をあげ空に舞い上がった。
ハナ、小鳥が自分を恐れたとは気づかず、小鳥たちの羽ばたきをうっとりと見つめる。
「今日も、いい天気にゃーね。わたしもお空を飛んでみたいのにゃあ」
小鳥、ネコの鳴き声に仰天し、餌の誘惑も消え、バサバサと飛び去ってしまう。
「にやんで、もう行っちゃうのにゃ?まだ出番は終わってないのにゃー」
ハナ、大声で叫ぼうとも、鳥は帰ってこず…シーンとした静けさの中、くすくす笑いが…
ハナは翔に凄んだ目を向けた。
「翔、なにを笑ってるにゃ?」
「べつに」
「いったい、にゃんであんたがこんなところにいるのにゃ?あんたの出番はまだ先なのにゃ」
痛いところを付かれたらしく、翔の顔が歪んだ。
「いいだろ、どこにいたって」
翔はそう言うと、城の外壁を眺め回した。
「なあ、ハナ」
「にゃんにゃ?」
小鳥がいなくなってしまい、必要不可欠キャラの失踪に、この後の設定をどうするか考えていたハナ、めんどくさそうに答えた。
「どこから中に入るんだ?」
「中って、なんにゃ?」
「城の中だ」
当然だろうというように口にした翔だが、その頬が見る間に赤らんでゆく。
ハナの瞳がきらりんと妖しく光った。
翔、それを認めて、プライドを軋がせ顔を引きつらせた。
「ははーん。あんた、さては葉奈のところに忍び込もうと企んでるにゃ?」
図星を当てられ、翔のプライドの柱がグギッと妙な音を立てた。
どうやら折れたらしい…
翔、折れたプライドを片手で支えて、何事もなさそうな涼しい顔を取り繕った。
「企んでる?何を言う。僕はだな、城の中にひとりきりになった葉奈が心細いに違いないと思って、心配しているだけだ」
「ふーん。それで? 翔は、ひとりきりの葉奈のところにいって…何をするつもりにゃ?」
「一緒にいてやるに決まってるだろう」
さも自分に分があるかのように、翔は正当なことのように言った。
けれど、ハナも負けていない。
「純粋にそう思ってるとは、とても思えにゃいわね」
ハナ、鼻で笑いつつ、見るものがその首を絞めたくなるほど憎たらしげに、首をひょろひょろと振りながら言った。
「入り口はどこだって聞いてるんだ!」
怒髪天を衝いたらしい翔が怒鳴った。
ハナは、呆れたように左右に首を振った。
「もうこれから葉奈の出番にゃ。どうせふたりきりにはなれにゃいんだから、諦めて出番までおとなしくしてるのにゃ」
ふたりのバカなやりとりを、貴弘はカメラを回しつつ、苦笑しながら見守っている。
マイクのぶら下がった棒をずっと抱え、ハナや翔が話しをするたびに、よたよたとマイクの向きを変えるのに必死なfuu、せっかくの心のくすぐる愉快な会話も、頭に入れるどころではない。
「おい、fuu、声を拾い切れてないぞ。ちゃんとやれよ」
貴弘は優越をもってfuuに指示をすると、翔に向いた。
「なあ、翔、お前暇なら、俺の手伝いしろよ」
ずっとカメラを回していた貴弘、妙に嬉しげに翔に言った。
普段、一目置かれている翔を、自分の下で働かせられるというおいしいシュチエーションに、心が躍ったようだ。
「何で俺がっ!」
青筋を立てて翔が怒鳴った。
「スタッフとして、俺らと一緒に、どうどうと城に入れるんだけどなぁ」
翔、野性の耳をピンと立て、身動きを止めて、貴弘の申し出を吟味しはじめた。
「よ、よし。仕方ない。やってやろう」
翔、威厳を顔に貼り付けて言った。
ほとんど剥がれ落ちているが…本人、自尊心にヒビを入れないために、気づかないふりをするつもりのようだ。(…かなり笑える)
貴弘、翔に見えない位置まで顔を俯け、にっと笑った。
「それじゃあ、翔、お前、それ持って、付いて来い」
翔はそれと示された照明の器具を目にし、仕方なさそうにそれを手にして担いだのだった。
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