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第5話なのにゃ
翔がひっくり返ったその頃、小人連中は…
第5話 『怪しい小屋』
「ねえ、わたしら、迷ったんじゃないのかなー?」
列の最後尾を歩いている玲香、前を行く、聡と亜衣莉、綾乃と吉永に向けて呼び掛けた。
2組のペアは、森の中を歩き回っていることを楽しんででもいるように見える。
聡が振り向いた。
「まだそんなに歩いてないだろ。この道まっすぐだって言われたんだ、横道はどこにもなかったし、迷うはずが無い」
…そうだろうか?
玲香は、それ以上口を挟めず、また黙々と4人に付いて歩き出した。
「お、小屋があったぞ」
五分ほども歩いた辺りで、聡が言った。
見ると、確かに小屋がある。だが、なんとなく雰囲気が受け入れ難い。
「なんだか小人の家というより…ずいぶんと…おどろおどろしくない?」
「ネコの想像の産物だからな。こんなものだろう」と聡。
彼は、ハナがこの場にいなかったことに、感謝するべきだろう。
だが聡も、あまりこの小屋を歓迎していないようだ。
「なんか、変なにおいとかしない?」
綾乃の言葉に鼻をひく付かせると、たしかに臭い。
「みんな、僕が中の様子を見てくる。ちょっと、ここで待ってろ」
「わたしも行きましょう」すぐに吉永が申し出た。
さすが、吉永、見本的紳士だ。
「いや、吉永先生は、ここにいてください。女の子だけを森の中に置いておきたくない」
「うん。まあ、それもそうですね」
吉永は女性陣を見渡し、同意して頷いた。
「あ、あの。わたしも一緒に行きます」
亜衣莉は急いで聡の横に並んだ。
「亜衣莉、危険かもしれないんだぞ。君は駄目だ」
「いやです。聡さんひとりで行かせられません」
「亜衣莉。僕は大丈夫だ」
そう言った聡は、亜衣莉の下瞼に膨らんだ涙にうろたえた。
「泣かなくていいんだ」
「だって…」
聡は、あまりの愛しさにたまらなくなり、亜衣莉をそっと抱き締めた。
後方で、この様を眺めていた玲香は、馬鹿馬鹿しさにしゃがみこみ、細い枝を拾うと、地面に落書きを始めた。
「ねえ、吉永先生、それじゃあ、私たちが行きましょうよ」
なんだかワクワクした顔で、綾乃が言い出した。
「え?小原、だが…」
綾乃は吉永の腕を取り、彼を引っ張りながら小屋の扉を叩いた。
「返事はないわね」
耳を澄ましている吉永も、同意して頷いた。
綾乃は、ドアの取っ手を掴みパッと開いた。
部屋の中から、すさまじい刺激臭がどっと出てきた。
「うわー。ホントに、くさーい。なんか料理でも焦がしてるんじゃないかな」
鼻を摘んだ綾乃は、臭いに負けじと、あまり乗り気ではない吉永を道連れに、小屋の中に踏み込んで行った。
「お兄ちゃんたち、どこに行くのよ」
綾乃たちを見送った玲香は、森の中に入っていこうとしている聡と亜衣莉に気づいて、慌てて呼び掛けた。
どうも亜衣莉は、聡を引きとめようとしているように見えるが…
「なんだか、人影が見えたように思うんだ。少し様子を探ってくる」
「なんでよ。そしたら私はひとりになっちゃうじゃん。可愛い小人の私が、狼にでも襲われたらどうしてくれるのよ」(…綾乃、自分で認めてどうする)
聡がブッと吹いた。
「狼がいるかはわからないが…お前もその小屋の中に入ってろ。あのふたりは、まだ生きてるようだし、中にはいっても大丈夫だろう」
「そんなあ」
そんな玲香の叫びも虚しく、聡は亜衣莉を連れて、森の中に入って行った。
「ほんとうに、大丈夫でしょうか?玲香さんの言うように、狼が出てきたりしたら…」
「そんな物騒なものは、いないだろう」
「でも、動く影が見えたのでしょう?」
「ああ。だが動物ではなさそうだった。たぶん人だろう」
「や、やっぱり、怖いです」
亜衣莉は立ち止まり、聡を掴んでぐっと脚を踏ん張った。
「こ、これ以上奥に行くの、やめましょう、ねっ」
「それじゃあ、そうするとしようか」
亜衣莉はほっとして聡を掴んでいた手を話した。
その瞬間、亜衣莉は聡に抱き締められていた。
先ほど、小屋のところでただ抱き締められたのとは、種類が違う。雰囲気も…
「さ、聡さん」
聡は、亜衣莉の身体にそっと手のひらを滑らせてゆく。
その愛撫のような触れ合いに、亜衣莉は動転した。
「だ、駄目です」
「どうして?」
「だ、だって。森の中です。怖い影がいるかもしれないんです。こんなことしてちゃ、絶対に危険です」
「亜衣莉」
聡の諭すような呼び掛けに、甘い響を聞き取って、亜衣莉はごくりと唾を飲み込んだ。
「は、はい」
顔を上げた聡が、亜衣莉の顎に指先を掛けた。
目を丸くした亜衣莉の唇は、無抵抗状態で塞がれていた。
聡の柔らかな唇がついばむ様に動き、エロチックな刺激を彼女の唇に与えてくる。
ウブすぎる亜衣莉、いつものように意識のヒューズが飛んだ。
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