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白雪姫バージョン ハナ雪姫物語 (主演女優 ハナ)

 第6話なのにゃ




第6話 『魔女の鍋』



一方、超妖しい小屋の中に入って行った綾乃と吉永。

「うっ。小原、君、大丈夫か?」

「はい。まずまず大丈夫みたいです。ここのところ鼻炎で、あんまり鼻が利かないんで…」

吉永、綾乃の言葉に、少し不平等さを感じて、いささか損をした気分に囚われた。

彼の鼻は、曲がって元に戻らなくなるのではと不安になるほど、強烈な臭いを吸い込んでいる状態だ。

「あ。先生、あれですよ、たぶん。この臭いの元」

吉永は目に涙を溜め、(臭い)という綾乃の単語を、(激臭)に置き換えながら、綾乃のさしている方向へ視線を向けた。

釜戸に掛けられた大きな鍋がぐつぐつと音を立てている。

鼻を抓みつつも、躊躇などまったくなく鍋に近付いてゆく綾乃に、吉永は仕方なく続いた。

鍋の中身はいったいなんなのか…こげ茶色をした液体に、大きな泡がぶくぶくと湧いてきている。

毒薬…吉永にはそうとしか思えなかった。

「これって、にんじんですよね。それでこれはじゃがいもだし。あ、なんかサトイモらしきものも入ってる」

綾乃はそう言って首を傾げた。

肉じゃが?煮物?…それともやはり魔女の…住まい?

ここは、魔女の住まいなのだろうか?
ということは、魔女がこの近くにいるのだろうか?

もし、いたとしたら…残念ながらいい魔女とは思えなかった。

こんなとんでもない代物を煮込んでいるような魔女に、いい魔女がいるとは思えない。

しかし、これを食べたら、いったいぜんたいどんなことになるのだろう?

何かに変身したりとか?

宙に浮かべたりとか?

もしかして、魔法が使えるようになったりとかは?

あっ。もしかすると、これは媚薬で…思いを寄せる人に食べさせたら…

綾乃は自分の勝手な妄想に、限りなく期待を膨らませてゆく。

吉永に試食してもらうなんてことは…

鼻を抓んで、呼吸困難に陥りそうな状態でありながらも、鍋を観察している綾乃を心配して見守っている吉永。

まさか綾乃が、彼の身に危険をともなうそんな妄想を抱いているとは、気づきもしない。

綾乃は鍋の横に置かれた見たこともないくらい長い菜ばしを手に取ると、鍋の中をそれで混ぜ始めた。

臭いはさらに強烈になり、綾乃の鼻炎の鼻にすら、耐えられないほどの刺激臭が立ち込めた。

綾乃は鼻を抓み、やたら目立つ大きな具のひとつを箸に挟んで差し上げた。

骨付きの肉だ。いったい何の肉だろう?

首を捻って考え込んでいる綾乃は、彼女の後ろで、意識がもうろうとしだした吉永が、ゆっくりとくず折れて床に倒れたことに、まるで気づかなかった。

「綾乃、吉永先生、いったいどうしたのよ」

綾乃は、おかしな声に驚いて後ろに振り返った。

戸口のところに立っているのは、鼻をぐっと抓んだ玲香だった。

「吉永先生がどう?あれ、先生はどこ?」

綾乃、きょろきょろと部屋の中を見回したが、足元に転がっている吉永に気づけない。

「下よ下」

「舌。舌がどうしたの?」

「だから、下だってば。床に転がってるじゃないの」

「へ?」

綾乃、ようやく床に視線を落とした。

「よ、吉永先生!!!」

驚いて飛び上がった綾乃は、吉永に屈み込むと、彼の胸を揺らして呼びかけた。

「先生、い、いったい、ど、どうしちゃったの?」

「そりゃあ、この臭いのせいじゃないの?」

綾乃は目を丸くした。

「えっ。せ、先生。な、なんてナイーブなの」

綾乃、心配を捨てて、恋心を揺らし、やたら感激している。

違うだろ…おい (玲香 心の声)

「そんなこと言ってる場合。早くここから外に出した方がいいわよ」

「そ、そうね」

綾乃は吉永の脇に両手を差し入れて引っ張ろうとしたが、吉永の大きな身体は、ぴくりとも動かない。

「手伝ってよ、玲香」

「いいけどさ…」

玲香は、吉永の足元に行き、片手で片足を持った。
相変わらず鼻を抓んだままだ。

もちろん、それくらいの助けでは、まったく役立たない。

「玲香ってば、両手を使いなさいよ。先生死んじゃったらどうするのよ」

「いくらナイーブでも、臭いくらいで死んだりしないわよ。現にわたしと綾乃は大丈夫なんだし…」

「先生は、玲香や、わたしなんかと違って、超デリケート仕様なのよ。つまり、デリケート紳士なの。繊細で、優しくて、素敵で…」

綾乃、吉永の素晴らしさをあげつらねながら、ぽおっとした顔になってゆく。

「あー、もういいってば。すでに耳にたこだわよ」

玲香はぶつくさいい、仕方なしに、必要不可欠な鼻を抓む手を、吉永の救出の応援に回した。

「うぐぐっ」

この言葉は、力を入れたためではなく、激臭にやられたための叫びである。

ふたりは腕に渾身の力を込めた。

そしてよたよたしつつ、吉永の身体をずりっずりっと少しずつ引きずりながら、かぐわしい空気の漂う外の平和な世界を、必死の形相で目指したのだった。




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