2006年 新年のご挨拶



『恋は導きの先に』編


鮫島「全員、揃ったか」

(周りを見回し、手にした紙にチェックをいれつつ、名前を呼び上げて、点呼を取る鮫島芳樹)
(鮫島の隣には、秘書かとまがう平林)

(鮫島に名を呼ばれて優等生のような返事をする連中の後方で、ひそひそ声が…)

莉緒「あのひと…だれ?」
祥吾「さ、さあ??」

今津「しっ」

(ふたりの前方にいた丸顔の女性に、マジ顔でたしなめられる莉緒と祥吾)

鮫島「森川莉緒、いないのか?」

莉緒「へ、わ、わたし?…は、はい、はーい」

弥由「あっ」
今津「あぁあ」
栗田「あちゃー」
佐野「マズ」
遥輝「…(笑)」

(回りの不穏な反応に「へっ」と眉を上げる莉緒)

鮫島「返事は一度!!アホウみたいに繰り返すなっ!!」

今津「き、きたー!」
栗田「うはーっ、相変わらず怖えー」

弥由「鮫島係長、すみません。わたしの妹が…」

鮫島「もちろん、知ってるさ。諸悪の根源だろ」

莉緒「諸悪の根源?」

(すさまじい怒号に半分ひっくり返り、祥吾に抱きかかえられていた利緒、
 鮫島の言葉に?マークのついた顔をあげる)

鮫島「あとは、長沢祥吾…誰だこれ?こんなやついないぞ、平林、記入ミスだ。
    お前、新年からたるんでるな、気を張れ!」

平林「お言葉ですけど、その方は関係者よ」

鮫島「関係者?俺は知らんぞ」

平林「鮫島の知らない人だってこの世には存在してるのよ。長沢祥吾さんは、そちらの方ね」

(平林に微笑みかけられ、祥吾、ほっとして頭を下げる)

平林「とにかく全員揃ったわ。この後は主役のおふたりにバトンタッチ。鮫島、わたしたちはこっちよ」

鮫島「おい、平林、背広を掴んで引っ張るんじゃない。皺になるだろう」

平林「皺なんかつくわけないわよ。鮫島の背広、まるで甲冑みたいに固そうじゃないの」

(平林のツボを押さえた言葉に、全員、押さえられず、ぶほっと噴き出す)

鮫島「お前ら、何で笑う」

(ひと睨みで全員の足を竦ませ、ぶつぶつ言いながらも、平林とともに、後方へと移動してゆく鮫島)
(全員がほーっと安堵の吐息をつく)

遥輝「なんだ、もう終わりか?弥由、ずいぶんと面白かったな」

(みなから少し離れた場所で、先ほどからずっと、笑いを堪えながらこの場の成り行きを堪能していた遥輝、
 隣にいる弥由の耳に、笑いを含めながら囁く)

弥由「篠崎さん、聞かれてます」

遥輝「大丈夫。聞こえやしないよ」

弥由「いえ、皆様の視点、いまわたしたちに来てます」

遥輝「えっ?ほんとにか?」

(さっと手際よく居住まいを正した遥輝。弥由を促して一歩前に出ると、口元に爽やかな笑みを浮べる)

遥輝「篠崎遥輝です。皆様、明けましておめでとうございます」

弥由「おめでとうこざいます。森川弥由です。
    昨年は遊びに来てくださってありがとうございました。本年もよろしくお願いいたします。
    ではわたしの妹、莉緒が、続いてご挨拶申し上げます」

莉緒「あ、はいはいはい。森川…」

弥由「あ」遥輝「…(笑)」今津「あたた」祥吾「あわわ」佐野「またか」栗田「おいおい」

鮫島
「返事は一度と言っただろう。二度も言わせるなっ」(後方から、お約束の怒号)

莉緒「ぎゃひっ!だ、誰なのよぉ、お姉。あの超怖のひとー」

弥由「いいから、あの方のことは気にしないで、莉緒、挨拶」

莉緒「えーっ、なんか納得できないぃ。ねぇ、祥吾」

祥吾「納得とかはいいから、挨拶した方がよさそうだよ。ぐずぐずしてると、また、飛んできそうだし。
    どうも、長沢祥吾です。今年もよろしくお願いします。
     このグループにいると、飽きるということだけはなさそうです。はい」

莉緒「もう。祥吾、それでいいのぉ。なんかなぁ…。まあいいけどさぁ…皆さん、どうもですぅ。森川莉緒でーーす」

(後方からまた怒号を食らったが、少し慣れたため、プチ首をすくめたもののそのまま受け流す莉緒)

莉緒「昨年の暮れまでにお仕事頑張ったので、お正月は祥吾とゆっくり過ごせて嬉しいです」

祥吾「ほんとだよ。
    クリスマスは、昨年のリベンジと思って気合いれて予定立ててたのに、
    莉緒、締め切りに追われて缶詰状態…だもんな。あんまりだよ」

莉緒「しょうがないじゃん。仕事なんだもん。プロには責任てものがあるのよ。
    その代わり、追い出したりせずに一緒にいさせてあげたでしょう」

祥吾「いさせて…莉緒、そういう言い方ないんじゃないかな。なんか傷つくなぁ」

弥由「長沢君、莉緒があなたと一緒いたかったのよ。
    照れるような言葉、莉緒が素直に口に出来ないの知ってるでしょ?ねっ、莉緒」

莉緒「お姉ってば、人前でそんなこっぱずかしいこと言わないでよぉ。
    …も、もうわたしら行くよっ。バイチャ」

(祥吾の腕を掴み、そのままダッシュして去ってゆく莉緒)

遥輝「あのふたりがいなくなると、ほっとするよ。
    あいつら、君を肴に騒ぎを起こすのを生きがいにしてるような気がする」

弥由「すみません」

遥輝「なんで弥由が俺に謝ってるの?」

弥由「ふたりに踊らされて、篠崎さんに迷惑掛けてるの…わたしだから…」

遥輝「ちっとも迷惑じゃないよ」

弥由「篠崎さん、…ありがとう」

(弥由の前髪に触れてやさしく微笑む篠崎。鮫島らの存在を、彼はうっかり失念してしまったらしい)

今津「ねぇ、お取り込み中悪いけど…」

弥由「きゃっ。い、今津さんたち、いたんですよね」

今津「いたわよ。それよりはやいとこ新年の挨拶進ませていいかしら。
    わたしたちそのために来てるわけだし。
    いまんとこ、平林さんと佐野さんが鮫島係長の趣味話に花を咲かせてて
    注意を逸らしてるからいいけど、…そろそろ来るよ」

弥由「そ、そうでした。それでは今津さんのご挨拶をどうぞ」

今津「
わたしなんかが、こんな場所にのこのこ出てくるのって間違ってる気がするんだけど…
    鮫島係長から号令かけられちゃった以上、出てこないわけにゆかないもので…


(ひたすら小声で前置きし、姿勢を正す、今津)

今津「今津です。今年も『恋導』よろしくね。以上。次、栗田さんです」

栗田「お、どもども。栗田です。
    実はね、この後、新年会があるんすよ。
    うまい店で、たっぷり食べられるとこだといいなー
    料理がこちょこちょ出てくるとこって、いくらうまくても物足りないですよ。
    皆さんも、そう思うっしょ?
    やっぱ、飯はガバガバッと、勢いよく食いたいっすよねぇ」

今津「栗田さん、もういいですよ。次は、佐野さんだね」

佐野「佐野です。恋は導きの先に、リクエストをいただきありがとうございました。
    私に出番があるか分かりませんが、お楽しみに。次は芝原か?あれ、いないな?」

今津「芝原さんは、スキーに行っちゃってます。なんか新年会には間に合わせるように戻ってくるって…」

栗田「さすが芝原さん、めんどいことは、うまいこと迂回してくよな」

今津「では平林さんにバトンタッチ」

平林「はい。皆様、人事部の平林です。
    見た目で、ひっくり返るくらい意外がられますが、実は鮫島と私は同期です。
    はい?バンジージャンプですか?も、もちろん体験してきましたよ」

(にやにやしつつ、ぐいっと前に進み出てきた鮫島)

鮫島「いささか足が竦んだようだったから、わたしが手伝ってやったがね」

平林「手伝って?あれは手伝いとは言わないのよ。精神統一してるひとの背中突き飛ばしておいて…」

鮫島「精神統一?あれはそうだったっていうのか?ずいぶん長い精神統一だったな。
   お前が十分近くまごついてる間に、後ろがつかえはじめたから、手伝ってやったんだ」

平林「まごついてなんかいないわ。それに十分なんて嘘よ」

弥由「あの、おふたりとも、それは挨拶を済ませたあと、そのあたりでゆっくり話し合ってもらって…」

(弥由の促しで、平林、我にかえる)

平林「まあ、わたしってば。すみません。鮫島が余計なことを言うものですから」

(鮫島、物申そうとするも、佐野と今津になだめられ、憮然として腕を組む)

平林「おめでとうございます。新年を迎え、皆様のご多幸とご繁栄をお祈りしています」

(佐野と今津にどうぞと促され、腕を組みむっとしたまま口を開く鮫島)

鮫島「謹賀新年。新しい年になったんだ。未経験のものにチャレンジし、充実した年にして欲しい。以上」

平林「どうやら、全員終わりましたね。それじゃあ、新年会の会場に移動しましょうか」

栗田「おおっ。飯だー。たらふく食うぞー」

(鮫島、平林を先頭に、ぞろぞろと去ってゆくみんなの最後尾、
 遥輝と肩を並べて歩き出そうとした弥由、何かを思い出したようで、こちらに振り向く)

弥由「そうそう、弟の駿輔が、皆様によろしくと言ってました」

(ぺこりと頭を下げた弥由と、弥由を待っていた遥輝、みんなからかなり遅れて歩き出す)

(遥輝の指が、弥由の後ろ髪を絡めとり、ゆっくりと撫で下ろす)

(頬を染めて遥輝を見上げる弥由の唇に、驚く間も与えずキスを落とす遥輝)

(固まって動けなくなった弥由を、苦笑しつつ愛しげに見つめる遥輝)


≪遥輝が一番、弥由を翻弄して楽しんでる…よね≫




お次に進む
                                
inserted by FC2 system