2007年 新年のご挨拶



『恋に狂い咲き』編 



2007年の日の出間近…ベッドの上で目覚めし和磨…

大晦日、かなりのハードスケジュールの後、欲望に駆られてさらにハードに夜を楽しんだせいで、目覚めのいい彼も、いささか頭がぼおっとしているのは否めない。

《お…おいおい》

…が、胸に包み込んでいるオイシイものを意識にいれた途端、彼はぱっちりと目覚めた。

和磨はふわふわの上掛けをそぉーっと這いで、真子の身体をじっくりと眺め回した。

昨夜、楽しい奮闘のあげく、和磨お気に入りの、悪魔のコスプレネグリジェ姿だ。

彼は、俯いて寝ている真子のお尻のあたりでだらけている悪魔のしっぽを手に取ると、いい案配の位置に据えた。

「う…ふぅん」

お尻がむずむずしたのか、真子が甘く呻いた。

真子のお尻でエロティックに揺れる尻尾と、和磨を甘く誘うような声音…

視覚と聴覚へのたまらない刺激に、和磨は欲望をむき出しにして、にやりと笑う。

彼は、真子のすんなりしたうなじに、そっと唇をつけた…


霞んだ意識の中、真子は首筋に、奇妙な違和感を感じた。
温かで心地よいような気もするのだが…それだけではなくて…

「ふぅ…ぅあ?」

「真子、起きたか?」

安らぎを与えてくれる和磨の低い声を耳元に聴き、真子の意識は喜びを感じつつはっきりとしてきた。

それとともに、お尻あたりに何かが触れているのにも気づいた。

「え?えっ、えっ?…か、和磨さん、何してるんですか?」

「尻尾の元気がなかったから、手伝ってやってるんだ」

「手伝って…」

真子は首を背後に回して和磨のやっていることを見た。
滑稽なしぐさで、ピコピコと悪魔の尻尾が動いているのを目にして、真子の頬が熱く赤らむ。

「そ、そんなことしなくていいです」

「ぺしょんとしてたら、悪魔の尻尾らしくないだろ?悪魔の尻尾なら、悪魔の尻尾らしく、悪魔的な威厳がないといけない」

作り物の尻尾を掴んで偉そうに言われても…と思う。

「なんなんですかぁ、それはぁ」

情けない声で言うと、真子は、自分のネグリジェにくっついている尻尾を掴んでいる和磨の手を、払いのけようとした。

「わたしは悪魔なんかじゃないんですからぁ」

「もちろんだ。中身は天使の真子が、悪魔の姿に扮しているところが堪らないんだ」

「堪ら…何言ってるんですかぁ。もういいですから、その尻尾、放してください。それを掴まれたままじゃ、起きあがれないし…」

「まだいいだろう。日の出もまだなんだから」

和磨は真子の身体を背後からがっしり押さえ込み、カーテンの隙間からの差し込んでいる薄い日差しを見つめて言った。

日の出はまだだったのか…そう考えた真子は、これが和磨と迎える初めての年明けなのだということを思い出した。

「和磨さん」

神妙になった真子の表情に、和磨も面を改めた。

「うん?」

真子は仰向けになり、上掛けを自分の首までさりげなく持ち上げた。

「明けましておめでとうございます」

和磨がじっと見つめてきた。
彼はひととき真子の瞳を見つめた後、ゆっくりと顔を近づけてきた。

「おめでとう…真子。君と一緒に年を越せて…神に感謝するよ」

真子の唇に和磨の息がかかり、真子の肩に、ぞくりと震えが走る。

和磨は、真子の唇をついばむように触れ合わせた後、唇を重ねた。


《………お、おーい…新年の挨拶はぁ…どうなったのよぉ…》





甘過ぎる朝を堪能し、ふたりは静かに太陽が顔を出す瞬間を眺めた。

「きれい…これまで何度かみたけど、これが一番きれいです」

窓を少し開けて顔を出したふたりの目に、日の光が反射する。

「風景の美しさは、心に大きく影響されるってことなんだろうな…本当にきれいだ」

真子は、和磨の分厚いコートを頭から被っている。
コートの下は、まだネグリジェのままだ。

和磨は、胸に抱きしめた真子の瞳の輝きを、記憶に刻み付けた。


和磨のこさえた朝食を食べ…真子はやっと悪魔のネグリジェから開放された。

身支度を終えた真子を乗せた車は、すでに顔馴染みとなったエステサロンの前に止められた。

直行で野本家に行くものと思っていた真子は、眉を寄せて和磨に向いた。

「和磨さん?どうして…」

「野本氏から頼まれた」

「父さんに?」

意味が分からぬまま、真子はスタッフに迎えられ、奥へと連れてゆかれた。

髪をセットされ、大きな薔薇の髪飾りをつけられた真子は、長細い金ぴかの箱を前に戸惑った。

「あ、あの…これは?」

「振袖です。野本様よりお預かりしました」

「父に?」

「はい。お嬢様に袖を通して頂くのを、とても楽しみになさっていらっしゃるようでした」

どうやら父は、真子の知らぬ間に振袖を用意したらしい。


約一時間後、振袖姿の真子は、和磨の前に出て行った。

すでに痺れを切らしていたらしい和磨は、煌びやかな振袖姿の真子に目を見張った。

「真子…」

サロンのスタッフの存在を、和磨はお約束の如く忘れたようだった。

ぎょっとして硬直した真子は、和磨に窒息しそうなほど力強く抱きしめられた。

《和磨ってば…やってられませーん…》

天高く飛ばした意識を取り戻した和磨は、いささか頬を赤らめながら、真子を連れてエステサロンを後にした。

「真子、どうした?」

「い、いえ、驚いてしまって…」

「振袖のことか?」

「はい」

「野本氏は、成人式に買ってやれなかった償いに、どうしても買ってやりたかったんだろう」

いったいいくらしたのか、真子はひどく気になったが…それは心の中だけの懸念にしておいたほうが良さそうだった。

「嬉しくないのか?」

「もちろん嬉しいです…けど…」

「野本氏にとって、取り返しが付かないことが多すぎるんだ。後悔をこういう形で少しでも埋めたいという気持ちなんだろう…僕にも痛いほど分かるよ」

「わたし…いま、とっても幸せなのに…」

「…野本にとっての過去の君は、また別の存在なんだと思うよ」

真子は素直に頷いた。

この高価な振袖は、父を癒すためのものなのだ。

ならば、金額におどおどせず、喜んで受け取ることが真子の務めなのだろう。

もちろん振袖を買ってもらえたことも、こうして振袖姿になっていることも、嬉しいに決まっている。

「父は、癒される時が来るんでしょうか?」

「真子、心配いらない。彼はすでに癒されてるさ」

和磨の言葉に、真子の胸の痛いような切なさが和らいだ。

「それでも過去に時々苦しめられる…でもそれは仕方のないことだろう」

そう言うと、和磨は車を片側に寄せ、路肩に停車した。

「もうすぐ、野本家だ。この辺りで、新年の挨拶をしておくとしよう」

《おおっ、忘れてなかったのね?》

和磨は真紅の落ち着いた色合いの振袖を着た真子を、ほれぼれと見つめた。

出来るならば、元旦の挨拶も、野本家への訪問もほったらかして、ふたりの愛の巣に、今すぐ飛んで帰りたいところなのだが…

めんどくさいことに、野本家の訪問後、朝見の家にも顔を出しに行かなければならない…

「和磨さん?挨拶をするのでしょう?」

正月三が日を占めている予定を、面白くなく考えていた和磨は、真子に腕をそっと叩かれて我に返った。

「あ、ああ。分かってる」

和磨は姿勢を正した。
真子も和磨に合わせて背筋を伸ばす。

「そういえば、新年の挨拶ははじめてだな」

「そうですね。恋に狂い咲きは、昨年の3月にアップされましたから」

「狂い咲き…ネーミング…気に入らない」

和磨は仏頂面で呟いた。

「どうしてですか?インパクトあっていいと思いま…うっ」

真子の不意を付いて、和磨は彼女の唇にキスを落とした。

あわあわしている真子を見て、和磨はふっと余裕の笑みを浮かべると、やっとこちらに振り返った。

「皆様、明けましておめでとうございます。朝見和磨です。昨年は、恋に狂い咲きのストーリーを僕らとともに追い、また見守ってくださり、ありがとうございました」

そこまで言うと、和磨は真子に挨拶を促した。

「はいっ。ま、真子です。昨年はありがとうございました。今年も、よ、よろしくお願いいたします」

焦りまくり早口になりながらも、なんとか挨拶を済ませた真子、汗を掻き掻き、深々とお辞儀をした。

和磨は真子のしぐさの可愛らしさに笑いがこみ上げ、彼女に分からぬように小さく吹き出すと、そしらぬ顔を取り繕った。

「真子や拓海も同じかと思いますが…特に野本氏にとって、過去とまともに向き合わなければならない苦しい時もありましたが…時の癒しの助けもあり、彼の速度で、乗り越えておられるように思います」

真子がしんみりとした眼差しで、こくりと頷いた。

「今後もまた、恋に狂い咲き。僕らとともに歩んでくだされは嬉しく思います」

「よろしくお願いします」

ふたりは一緒に頭を下げたが、真子は和磨の倍ほども、深く頭を下げた。

「着物…」

和磨の呟きに、真子は顔を上げた。

「はい?」

「今夜が楽しみだな」

「はい?」

「着物ってやつは、脱がすのが、特別楽しそうだ」

真子の頬がみるみる赤らんだ。

「か、か、和磨さん、な、何を…」

和磨は真子のうなじに指を当て、すっと奥に指を滑らせてもぐりこませた。

真子は、ぞわっと鳥肌が立った。

「赤い印…今夜、もっと濃く刻んでやろう」

「印?…あ、和磨さん、もしかしてまたですか?」

「君のうなじ、奇妙に支配欲をそそる」

「そんな欲に取り付かれないでください。明日はお母様にいただいた襟の開いたドレスを着ることにしてるのに…どうしてくれるんですかぁ」

「見られて困るもんじゃないさ」

和磨はそっけなく返した。

「困るに決まってます」

真子は、和磨の肩を叩きながら不満を叫んだ。

「キスマークくらいで文句言ってると、もっとすごいもの買うぞ」

脅すように和磨が言った。

声の迫力に真子は怖気を奮った。

「す、すごいもの?買うって?なんなんですか?」

声が上ずるのが情けない。

「言葉通りだ。悪魔の尻尾つきネグリジェよりもっとすごいのをみつけたんだが…君の気に入りそうもないと思えてね。…買おうかどうしようかと、いま迷ってるところなんだ」

真子は目を丸くし、和磨に飛びついた。

「そ、そんなもの買っちゃダメです」

「キスマークを、今後も好きにつけていいか?」

「そうは言ってません」

「ふぅん。さ、そろそろ行くか」

和磨はさらりと流すと、車のギアを入れた。
さらりと流れた真子、不安がむくむくと膨張する。

「和磨さん…あの?」

「消費が増えると、世の中が潤うんだ。買い物はすべきだよな、真子」

和磨の爽やかな笑みに真子は疲れを感じた。

どうしてこんな場面で、こんなにも邪気のない笑みを浮かべられるのだ、この人は…

「めちゃくちゃです」

和磨は、唇を突き出して不服顔をしている真子の唇を、笑いながらつつき、顔をあげた。

「僕らの馬鹿なやりとりに長々と付き合せてしまい申し訳ない」

《はぁー…ちゃんと分かってやってるわけかい…やれやれ》

「皆さん、今年一年、良い年にしてください」

「あ、ありがとう、皆様…」

あわてて付け加えられた真子の叫びを最後に、和磨の車は走り去って行ったのだった。








皆様、どうもです。

年明け三日目の深夜。
ようやくキャラによる新年の挨拶です。
のほのほと三が日を過ごしてました。しゅみませーん。

遅れたことも、新年の挨拶が『恋に狂い咲き』の和磨と真子ペアならゆるされるかもというセコイ考えのfuuです。たはは(冷や汗…

ひさしぶりの和磨と真子のベッドシーンから始まり…延々と…
新年の挨拶はどうなったのよ?と言いたくなるような進行状況でしたね。笑

悪魔の尻尾は、いまだ尾を引いてるし…って、ダジャレかよ…(シーン

翔よりマシっすよね…赤っ恥 (ウギャッ

まあ、ふたりの甘々ぶりが皆様の活力に繋がるかは、甚だ疑問ですが…

やさしい風ならびに、恋に狂い咲き、今年もよろしくお願いいたします。


fuu…



 
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