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その2 成道の愚痴
葛城響(かつらぎ・ひびき)は、二ヶ月ぶりに、中学からずっとつるんでいる相沢成道と酒を飲んでいた。
「まったくあれが自分の姉貴かと思うと、いやんなるぜ」
響は成道の姉の話を延々と聞かされて、いい加減うんざりしていた。
「お前の姉さん、色気がありすぎるんだろ。高校の頃からそうだったもんな」
知らず苦々しい口調になってしまっているのに、響は気づかない。
成道はよくぞ言ってくれましたというように頷いた。
「そうそう、そうなんだよ。あの妙な色気に、いくらでも男が寄ってきちゃうんだよなぁ」
響は胸がぞわぞわと騒いで、ひどく気分が悪かった。
これ以上、成道の姉の話など聞きたくないと思う一方で、もっと聞きたいと切望している自分がいることが疎ましかった。
「それでも、もう26だぞ。弟としちゃ、そろそろ結婚して落ち着いて欲しいわけよ」
「結婚…」
「お前もそう思うだろ?」
響は、内心の動揺を気づかれないように短く「ああ」と答えた。
成道の姉、尚とは、中学三年の時以来逢っていない。
初めて彼女に会ったのは、成道の家に遊びに行った時だった。
彼が中一、彼女は高校一年だった。
白地のかわいらしい花柄のワンピースを着て、ポニーテールの髪をしていた彼女に、響の身体は、その時初めて自分は男だと主張した。
あの衝撃はいまも生々しい記憶となって残っている。
彼女に逢いたくて、それから何かと理由をつけては相沢家に通った。
それも彼女に彼氏が出来るまでだ。
彼女が短大に入ってすぐのことだった。
恋心だとは思えなかった。
恨みなのかもしれない。
それとも執着心だろうか…
決着をつけるべきなのかもしれないなと、響は思った。
このままいつまでも彼女を引きずってしまっていては、彼の望む本気の恋愛などできやしない。
グラビアアイドルの微笑みも、エロ本の女も、欲情した彼の脳内ではすべて尚にすり替わってしまう。
付き合った女の子達とのキスも、みな同じことだった。
目を閉じた途端、相手は…
「おい。何、考え込んでるんだよ、響。酒飲め、酒」
我に返った響はコップを力を込めて掴むと、生ぬるくなったビールを一気に飲み干した。
決心がついた。やってやる。
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