思いは果てしなく 
その5 苦悩と妄想と



自分のアパートのドアを開けて中に入ると、響はそのまま床にへたり込んだ。
「いたっ」と声を上げて、尻を浮かす。

尻餅をついたせいで、まだ痛みが残っていた。
だが、この手に彼女を抱けたのだから、このくらいの痛みなどなんでもない。
それより、ひどい疲れを感じていた。

ずっと緊張していたからなと苦笑する。

なんにしても上出来だ。と、響は満足げに微笑んだ。
とにかく付き合いを承諾させたのだ。
おまけに携帯番号まで聞き出せた。

ポケットから携帯を取り出し、彼女の番号がほんとにそこに存在しているか改めて確認する。

彼女は変わらずきれいだった。
そして抜群のプロポーション。
以前より増した、はなはだ迷惑なあの色香。
あの色気に魅せられて、男達は彼女にひざまずくのに違いない。

響自身、あの首筋に顔を埋められるなら、すべてを無くしてもよいという気分になる。

彼女を家まで送る途中、彼女から発せられる芳香に彼は自分を見失いそうだった。
馴染みの妄想が馴染みの感覚で頭の中を蹂躙してくる。

八年ぶりに見た彼女の生の肢体。
彼の脳内で、成長できずにいた彼女が、すでに、手のつけられないくらい熟していた。

だから、逢いたくなかった。
妄想の中でしか抱けないのなら…

妄想に翻弄され、開放して自分を取り戻したとき、響は自虐的に笑った。

「畜生!」

いまいましさが全身を貫く。

「ぜったいモノにしてやる。彼女に捨てられる前に」




   
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