《シンデレラになれなくて》 番外編
PURE7 優誠サイド 2013バレンタイン特別編
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第1話 五十歩と百歩の差
ブルブルブルブル……
机の上に置いておいた携帯が振動し、耳障りな音を立てはじめ、仕事に集中していた優誠は無意識に手を伸ばし、携帯をおとなしくさせた。
そしてそのまま、仕事を再開する。
「不破さん」
大きな声で名を呼ばれ、優誠は書類から顔を上げ、呼びかけてきた三次に視線を向けた。
「昼ですよ」
「あ、ああ、そうか……」
そういえば、いま携帯のアラームが鳴ったな……
「必要だからアラームをセットしているのに、無意識に止めて仕事に戻っては、まったく意味がないんじゃありませんか?」
三次の至極まともな指摘に、優誠の向かい側で仕事をしていた保志宮が噴き出した。
優誠は目を細めて保志宮を睨んだ。
こいつ、自分も私と同様のくせに……
今日は三次も来てくれて三人で仕事をしているが、保志宮とふたりきりだと、どちらも仕事に没頭しすぎて、気づくと、とうの昔に昼が過ぎてしまっていたということが多いのだ。
それで、優誠はアラームをセットするようになったのだが……これが思うほど役立っていない。
優誠は、雑然としている室内を見回した。
ビルの二階がワンフロアになっている。
保志宮が見つけてくれたこの場所は、小奇麗でかなり広い。そのため、机と椅子、仕事に必要な機材もすでに運び込んだのに、駆けまわれそうなほど空間がある。
「それじゃ、食べに行こうか?」
パタンと音を立ててパソコンを閉じ保志宮が立ち上がったのを見て、優誠も腰を上げた。
「おや、蔵元君はどこに……?」
保志宮がそう言って周りを見回したとき、給湯室から三次が出てきた。
カップを載せたトレーを手にしている。
「お茶かい?」
面食らったように保志宮が言う。
これから食べに出ようとしているのにと、優誠も首を傾げる。
「おふたりとも、この匂いに気づかないんですか?」
匂い?
呆れたような三次を見つめ返し、優誠は漂っている匂いに意識を向けた。
うん? これは……
「なんだ、出前を取ったのか? 蔵元君、君、気が利くな」
保志宮が嬉しそうに言った。
デマエを取った?
デマエとは、いったいなんだろうか?
戸惑いながら、保志宮の視線を追ってみると、空いている机の上に、皿やどんぶりが並べられている。
優誠は面食らった。
いったいいつの間に?
どうやら、デマエというのは、料理の配達をしてもらうことらしい。
しかし、これだけのものを運んできた者がいて、ここに並べたという事実にまるで気づかなかったとは……さすがに自分に呆れてしまう。
優誠は自分と同類の保志宮と顔を見合わせて苦笑し、三次に感謝しつつ昼食を取ることにした。
「美味しいな」
「不破、お前、出前のラーメンなんて食べたことがないんじゃないのか?」
からかうように言われ、優誠は顔をしかめた。
確かに、このような料理を配達してもらって食べるのは初めてのことだが……
「ラーメンなどは頼んだことはないが、ピザは幾度も配達を頼んだことがある」
つい負けじと言ってしまい、少々大人げなかったか、と気まずさを覚える。
「ピザ? 不破、お前が自分で注文したというのか?」
その保志宮の声には、驚きが含まれていた。
おや、どうやら保志宮は……
「なんだ。お前、ピザを注文した経験がないのか?」
そんなつもりもなかったが、いくぶん自慢するような言い方になってしまったようだ。
保志宮は面白くなさそうに口元を引き締める。
「だ、だが、ピザの宅配と、ラーメンの出前を同じように扱うのは、違うんじゃないか?」
「どうして、同じだろう? 蔵元君、君の意見は?」
三次に意見を求めると、呆れたような眼差しを向けられた。
「五十歩百歩でしょうね」
淡々と宣言され、優誠と保志宮は、なんとも言えない表情で顔を見合わせた。すると、保志宮が頬をひくつかせ、口を開く。
「こんな世間知らずと私を、一緒にするな!」
保志宮は三次に向けて文句を飛ばす。
もちろんそんなことを言われては面白くないし、見過ごせない。
「保志宮、聞き捨てならないな。世間知らずとは、まさか私のことではないだろうな?」
「お前以外いないだろう」
「君は、私と似たようなものじゃないか。だいたい君は、ピザの配達を頼んだ経験がないのだろう?」
ぴしゃりと言ってやると、対抗意識を燃やした様子で、保志宮は睨み返してきた。
「ちょっと経験があるからと言って……たかがそんなことで威張るな」
「負けを素直に認められぬとはな」
「やれやれ、世間知らずは、身の程がわからないらしい」
嫌味の掛け合いをしていたら、三次が「すみませんが!」と大声で呼びかけてきた。
ふたりして振り返る。
「なんだい?」
「どうした、蔵元君?」
同時に問うと、三次がこれみよがしなため息をついた。
「食事をゆっくり食べたいので、おふたりとも静かにしてくれませんか?」
苛立ちとともにたしなめてくる。
確かに、食事中に言い合いなどすべきできなかった。
しかも、取るに足らないことで……
「ああ、すまない」
優誠は少々赤面しつつ謝罪した。
「蔵元君、すまなかったね」
保志宮も頭を下げて謝ると、三次が抑え込んだ声で笑い出した。
「蔵元君? 君、いったい何が可笑しいのかな?」
優誠が問うと、三次は真顔を向けてきた。
「もちろん、おふたりが、ですよ」
澄まして答えた三次は、すぐに食事に戻った。
優誠と保志宮は、思わず視線を合わせた。
互いに睨み合ってから、ふたりも食事を再開する。
それにしても、五十歩百歩とは……
どうでもいいことにこだわり過ぎかもしれないが、どちらが五十歩で、どちらが百歩なのか?
似たり寄ったりであるにしろ、数値的に倍もの差があるわけで……
残念だが、聞かずとも答えはわかっているし、はっきりと認めたくないが、自覚もある。
たぶん……私が……なのだろうな。
むっつりとし、優誠は香ばしい炒飯を味わったのだった。
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プチあとがき
こちらは、「PURE7」の優誠サイドになります。
バレンタイン企画として、お届けしたわけですが、ここまでだと、ぜんぜんバレンタインデーらしくありませんでしたね。笑
ですが、最終的にはバレンタインの内容となります。
あと、二話ほど続く予定です。
明日はバレンタインデーですので、明日までにお届けさせていただきますね。
続き、それなりに楽しみにしてもらえたらば、嬉しいです♪
fuu(2013/2/13)
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