シュガーポットに恋をひと粒



第22話 なんなの? な、会話



「偕成君、悪かった。この通りだ」

宮平に向かって、恭嗣は深々と頭を下げて謝罪する。

玄関先でいつまでもごたごたしているのもなんだからということになり、三人に上がってもらい、四人で小さなテーブルを囲っている。

この状況に、歩佳はプチパニック中だったりする。

な、なんか、おかしなことになっちゃったよぉ。

わたしの部屋に、柊二さんがいるとか……こんな現実、考えお及びもしない。び、びっくりだ!

「僕は別に怒ってませんよ!」

どうみても怒っている表情と態度で、宮平は真逆の返事をする。

恭嗣はそんな宮平を見つつ、困ったように腕を組んだ。

ぷりぷりしている宮平に対して、謝っているほうの恭嗣は腕を組んで宮平を見下ろしているわけで……

宮平君、ごめん。
……いまのあなたは、お父さんに叱られて拗ねている子どもにしか見えないです。

それにしても、恭嗣さん、謝る立場で態度がデカすぎだし。

まったく、困ったひとだ。

けど、いまのこの状況、柊二さんはどんな風に思っているんだろう。

柊二が気になり、歩佳はちらっと彼のほうを窺ってみた。

うん? なんか、表情が冴えないような?

気分を悪くしてる?

そ、それはそうだよね。
柊二さんは、わたしの家があるのか確かめるのに、宮平君に無理に付き合わされただけなんだ。

わたしの家だってわかって、すぐに帰ろうとしてたのに、成り行きでそのまま帰れなくなってしまったんだから、不機嫌にもなる。

「ところで、ちっ……いや、歩佳君」

「はい」

「名はなんと言ったかな? 彼の……姉の名は」

「美晴ですよ」

やれやれ、ちっこいの、ちっこいのって呼んでるから、名前を憶えてないんだわ。

「おお、そうだったな。美晴君はどこにいるんだ?」

恭嗣は、いまさら美晴を探して部屋を見回している。

「美晴はここにはいませんよ」

「いない? どういうことだ? 君に弟たちを任せて帰ってしまったのか?」

「違います!」

恭嗣さんってば、勝手に解釈してぇ。

「宮平君の家がここから近いんです。柊二さんは、今日、宮平君の家に泊まるんだそうです」

「つまり、ちっ……いや、美晴君は家に帰ったということか?」

ちょっと残念そうだ。

あれっ?
もしや恭嗣さん、美晴に会いたかったのかな?

「並んだところを、比べて見たかったんだが」

えっ、そんなこと?

「俺と姉を? 俺たちは見世物じゃありませんよ?」

それまで黙っていた柊二が憤慨したように言う。
そして鋭い目で恭嗣を睨む。

歩佳はおろおろした。

柊二さん、物凄く怒ってるよ。ど、どうしよう?

もおっ、恭嗣さんのせいだ。

もっと相手の気持ちを考えて発言してくれればいいのに……

「君は……何を怒っている?」

恭嗣が柊二に向けて尋ねる。

「何を、とおっしゃるんですか? 貴方が、俺と姉貴を見世物のように扱うからですよ」

「そんなつもりはない。君もそれはわかっているようだ」

「えっ?」

柊二は恭嗣の勝手な発言に、なぜか驚きを見せ、そのあと表情を硬くして黙り込んだ。

な、なんなの?

わかっているようだって……何が? なんの話?

「なのに君は、それを盾に取り、私に怒りをむき出しにしてくる。その理由はなんだ?」

はあっ? 恭嗣さん、何を言ってるの?
さっぱりわかんない?

「うはーっ」

急に宮平が叫んだ。当惑していた歩佳は、宮平に目を向け、困惑した。

み、宮平君?
いまのいままですっごい怒っていたのに……瞳をキラキラさせているって、どういうこと?

「さすが! 半端ない洞察力ですね」

宮平は感心したように拍手までする。

「君も……必要以上に怒っているようだったが……それはなんのためだ? ここに上がり込むためか?」

「う、うーんと……何をおっしゃっているのか、僕、わからないなぁ?」

そう言って、宮平は目を泳がせていたが、眉を寄せて柊二に向いた。

「柊二君、相手が悪いようだぞ」

「そのようだな」

なんなの、この会話?

わたしだけ、おいてけぼりを食らっている気がするんだけど?

「理由を聞かせてくれ?」

恭嗣がふたりに向けて問いかけると、宮平が両手で×を作る。

「それはダメですよ」

「なぜ?」

「こっちこそ、貴方に聞きたいことがあるんですが」

話を逸らそうとしてか、宮平は恭嗣に逆に問う。

「うん、なんだ?」

「貴方は、歩佳さんと付き合っているわけでは、ないですよね?」

「お、おい。偕成、何を!」

宮平に向け、柊二が咎めるように叫ぶ。

ほ、ほんとだよぉ。

「付き合っているわけではない」

当然のことながら、恭嗣が即答する。

すると宮平は「そうですか」と口にしつつ、なぜか柊二に意味深な目を向けた。

そんな宮平を気にしていた歩佳は、恭嗣が「だが」と言葉を続け、彼に視線を戻した。

宮平は「だが、なんですか?」と言葉の続きを催促する。

「妻に娶る気ではいる」

………………。

は?

「ええっ!」「ええっ!」

歩佳は宮平と叫びをハモらせた。

な、な、な、何を言い出してんだ、このおひとはっ⁉





つづく




   
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