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第27話 雨上がりのお誘い
うわーっ、降ってるなぁ。
電車の中から外を眺めて、歩佳は肩を落とした。
今日は降ったりやんだりの一日だった。
仕事を終え、会社から駅まで歩く間は、傘がなくてもなんとかなる程度だったけど……いまはひどい降りだ。
降りる駅まであと三分くらいか……
この降り、少し弱まってくれないものかな。
その願いが通じたのか、駅の改札を出たときには雨脚はかなり弱まっていた。
うわーっ、神様、ありがとう!
空を見れば、少しだけ青空も覗いている。
駅から歩佳のアパートまで歩いて十分弱。
土砂降りなら、バスを待とうと思ったけど……どうやら歩いて帰れそうだ。
また降り出す前にと、歩佳は駆け出した。
アパートが見えてきた。
その頃にはすっかり晴れ渡っていた。
土砂降りが残した水たまりが、あちこちにある。
舗装された道は、かなりでこぼこしてるんだよね。
アパートの前の駐車場にも大きな水たまりができていた。
覗き込むと青空と雲が映っている。
ふふっ、いいな。
そのとき、青空が黒い影に遮られた。
歩佳はハッとして顔を上げた。
「み、宮平君」
なんと、水たまりを挟んで宮平がいる。
「あ、あなたどうしたの? それにびしょ濡れじゃない」
宮平のズボンの裾やら制服の上着が濡れそぼっている。
「それが、歩佳さんを待っていたら、大型トラックがやってきて、見事な水しぶきを跳ね上げまして……こうなりました」
宮平は自分の上着を指で摘まんで、困ったように笑う。
「わ、わたしを待ってて?」
「ああ。もちろん、こうなったのは別に歩佳さんのせいだという意味で言ったわけじゃないですよ」
「あの、部屋に……タオルで拭いたほうが」
「いえ。僕の家はすぐそこですし、用を終えたらすぐに戻りますから」
用? ああ、そうか。宮平君、わたしに用があって来たんだよね。
「それで用ってなんなの?」
「歩佳さんに、ひとつご相談があるんです」
「相談?」
「ご存知かわかりませんが、今度の金曜日、柊二君の誕生日なんですよ」
突然柊二の名が出て、ちょっと動揺する。
「……あ、ああ……はい。き、聞いてます。美晴から」
「そうですか。それで柊二君のバースディパーティーをサプライズでやりたいなと思ってて」
サプライズ?
うわーっ、やるのなら、わたしも混ぜて欲しいよぉ。
あっ、でも……
「けど、柊二さんは、自宅で家族とお祝いするんじゃないかしら?」
「ですから、その翌日ですよ」
翌日というと土曜日か……
「僕も少しは料理を作れますけど、さほど腕が立つわけではないので……歩佳さんにも手伝ってもらえたらなぁと思って」
それって、わたしも参加させてくれるってことなの?
「あ、あの、参加するひとは、何人の予定なの?」
「もちろん四人ですよ。もしかしたら、五人になりますかね?」
どうしてわたしに聞いてくるんだろう?
戸惑っていると、宮平は指を下りつつ、「柊二君に僕、歩佳さんと美晴さん。それから国見さんです。数に入れないと、国見さんに裁きを下されそうで……そんなことはありませんか?」
宮平ときたら、窺うように聞いてくる。
「そんなことはないと思うし……恭嗣さんは仕事で無理なんじゃないかと思うわ」
美晴たちの引っ越しの日、土曜日の午前中なら空いてると言ってたけど、週末そんなに休みがあるわけではないはず。
「そうですか。これは願ったり叶ったりの情報だぁ」
「えっ? 恭嗣さんは参加者に入れたくないってこと?」
「正直に言えばそうです」
そっ、そうか……宮平君、身長のことで恭嗣さんに嫌な思いをさせられたんだっけ……
「あの、恭嗣さんのこと、ほんと失礼でごめんなさい」
思わず謝ったら、宮平が苦笑いする。
「そんな風に謝られると、泣きたくなるのでやめてください」
えっ?
「ご、ごめんなさい」
焦って頭を下げたら、宮平はくすくす笑い出した。
もおっ、宮平君ってば……本気なのか冗談なのか、いまいち判断がつかないわ。
「それじゃ、オッケーってことで、いいですか?」
「え、えっと……ええ、いいわ」
ドキドキしつつ、そんな返事をしてしまう。
思いがけず、次の土曜日に柊二さんのバースディパーティーに参加できることになったとは。
けど、サプライズなのよね。
「あの、サプライズってことは……美晴には?」
「美晴さんにも、当日まで内緒でお願いしたいです」
「わ、わかったわ」
柊二さんだけでなく美晴の驚く顔も見られるのか。
なんか楽しくなってきた。
「それで、すみませんが……」
「はい?」
「なにぶんにも、バースディパーティーです。ちょっとしたものでよいので、柊二君にプレゼントなどを用意していただけますと、さらにありがたいのですが」
「ああ、はい。もちろん用意するわ」
うわーっ♪
バースディプレゼントまで渡せるんだぁ。嬉しすぎる!
テンションがどんどん上がり、心が舞い踊っちゃってる気がする。
あっ、そうだ。
宮平君なら、柊二さんの欲しい物を知っているんじゃないかしら。
「宮平君、何か欲しいものがあるか、柊二さんから聞いていない?」
「学生の分際ですからね。欲しいものは色々あると思いますよ。なかでも彼が欲しがっているものは……」
「欲しがっているものは?」
歩佳はごくりと唾を呑み込んで、宮平に答えを促がしたのであった。
つづく
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