シュガーポットに恋をひと粒



第29話 思わずジャンプ



えっと、売り場はどこかな?

仕事を終えて、駅前のショッピングセンターにやってきたところだ。

柊二さんのバースディプレゼントを買うんだけど……

まずは美晴に頼まれたぶんを買ってしまおう。

マウスは、もちろん家電のところだよね。

家電売り場に向かいながら、思わずため息が出てしまう。

車があれば、もっと大きなショッピングセンターに行けるんだけどなぁ。

なんて、無い物ねだりしても仕方がないか……

美晴は九時くらいには歩佳のアパートに来れるらしい。

夕食は仕事の合間にコンビニで買ったものを適当に食べると言っていたから、少し夕食を用意しといてあげようかな? そしたらわたしも、一緒に食べる相手ができて嬉しいし。

そんな算段をしつつ、家電売り場に辿り着いた。

柊二が欲しがっているというマウスはすぐに見つけられ、プレゼント用のラッピングをお願いし、今度は靴屋に向かう。

柊二の好みの靴メーカーは美晴から聞いていたものの、同じメーカーであっても幾つも種類があるわけで……やはりデザインで悩んでしまった。

でも……これが一番よさそうかな?
背が高くてすらりとしてる柊二さんに、すっごく似合いそう。

わたしの選んだ靴を柊二さんが履いてくれるとか……なんてしあわせ♪

美晴に感謝だなぁ。

綺麗にラッピングしてもらった靴を手にしてにまにましつつ、家電売り場に戻ろうとしていたら、携帯に着信があった。

あれっ、宮平君からだわ。

「もしもし」

「あっ、歩佳さん。宮平です。いまどこにいるんですか? まだ仕事だったりします?」

どうしたのか、宮平は急くように口にする。

「ううん。もう帰ってきたところよ。ちょっと買う物があって、いまは駅前のショッピングセンターにいるんだけど」

「よかった」

宮平は嬉しげに叫ぶ。

そんな宮平の反応がよくわからず、歩佳は眉を寄せた。

よかったって?

「いま買い物ってことは、今日、このあとは予定空いてるんですよね?」

「このあとって? わたし、買い物にまだ時間取られちゃうし……アパートに帰るのは、一時間後くらいになっちゃうんだけど」

「一時間ですか? そのあとなら大丈夫ですか?」

「あの、いったいなんなの?」

「バースディパーティーですよ」

「はい? それって、柊二さんのってこと?」

「そうです。そうです」

「で、でも……」

「突然過ぎるかとは思うんですけど、柊二君のバースディパーティ、今夜はやらないらしいんですよ。なんか美晴さんの仕事が忙しくて、帰ってくるのが夜中になるらしくて」

「え、ええ。わたしも美晴からそう聞いたけど」

「ええっ!」

宮平が驚いて声を張り上げる。

「歩佳さん、知ってたんですか?」

「知ってたけど……」

「ええーっ! 歩佳さん、知ってたなら僕に教えて欲しかったですよぉ」

「ご、ごめんなさい。でも……なんで?」

「なんでって……柊二君の誕生日は今日なんですよ。この日が空いてるなら、今日、サプライズパーティーができたじゃないですか?」

「あ」

そう言われればそうか。

でも……

「今日は平日だから……」

「そんなの関係ないですよ。明日は休みなんだし、今夜僕のところに柊二君を泊まらせちゃえば、夜中までどんちゃん騒ぎできるじゃないですか」

ど、どんちゃん騒ぎ?

「……そ、そう?」

「そうですよ。そうか……よし、なら、今日サプライズパーティー決行ですよ、歩佳さん!」

「ええっ!」

マジで? 宮平君、ほんとに今日、柊二さんのバースディパーティーをやっちゃうつもりなの?

「計画は、この間決めた通りで行きますから」

唖然としている歩佳を置き去りに、宮平はどんどん話を決めて行く。

バースディパーティーがだんだん現実味を帯び始め、歩佳の心臓は煩いほど騒ぎ始める。

「開始は……七時半くらいならどうでしょうか?」

「あ、あの。でも、柊二さんは?」

「実は、いま一緒にいるんですよ」

「へっ?」

いっ、一緒にいるぅ?

「柊二君とゲームセンターに来てるんです」

な、なんと! 彼と一緒にいたとは?

それでも、すぐ側にいるわけではないのだろう。この電話は、柊二さんには内緒でかけてきているはず。

「誕生日だから、僕の驕りで小一時間くらい遊ぼうってもちかけて……そしたら、たったいま、家族でのパーティーは明日になったって言うじゃないですか。……あっさり僕の誘いに乗った時点で気づくべきだったのになぁ。ちっとも帰りを急がないし……」

宮平はブチブチと独り言を呟く。

そうか。宮平君は、逢坂家の誕生日のお祝いが明日になったことは聞いていなかったんだ。

そう考えていたら、宮平の不服そうな言葉が続く。

「土曜日の予定というのが、家族との外食だったとは……まったく柊二君ときたら、ちゃんと教えといてくれれば……って、呑気に文句を言ってる場合じゃありませんでした」

ブツブツ言っていた宮平は、急に気を取り直したように言う。

「これから、なんとしても僕の家に引っ張って帰ります。美晴さんは参加してもらえず残念ですが……」

「美晴は、今夜わたしのところに来るのよ」

「えっ、美晴さんが?」

「ええ。柊二さんへのバースディプレゼントを買う余裕がなかったらしくて、わたしに代理で買ってほしいって頼まれたの。それで、いまわたしはショッピングセンターにいるの。美晴は、それを取りに、九時くらいにわたしのところに寄ることになってるのよ」

「なんて好都合だ♪ それじゃ、美晴さんも参加できそうですね」

「あの、でもいまから料理は間に合わないんじゃない?」

「そうですね……柊二君を連れて帰って作ってたんじゃ、サプライズにならないし。となると、宅配ピザにするしかないかな?」

「ねぇ、宮平君」

「はい」

「パーティーの場所、わたしのアパートでどうかしら?」

「えっ」

「わたし、これから急いで準備するわ。用意できたら宮平君に電話するから、そしたら柊二さんを連れてくるっていうのはどう? それなら充分サプライズにならない?」

「もちろんいいですよ。けど、歩佳さんにばかり、お世話をかけてしまうことに……」

「そんなことは気にしないで。それより、もう時間が惜しいから電話切るわね。それじゃ、あとで」

急いで電話を切った歩佳は、嬉しさが膨らみ、思わずその場で大きくジャンプしたのだった。

「やったーっ!」





つづく




   
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