|
第30話 天の助け?
「えーっと、えーっと」
もう買うものはなかったかな?
カートに山盛りのものを見つめ、歩佳は真剣に考え込む。
料理は5品くらいで……
参加人数は4人だから、スプーンとかフォークは家にあるので間に合うし……
あと、お箸は割り箸を買ったし……
それから、バースディっぽい演出をするためのアイテムも色々と購入したし……
買い物ばかりに時間を割けないし、あんまり選んでいられなかったから……適当に買っちゃったけど……
そう考えつつ時間を確認した歩佳は、焦った。
うわっ、三十分過ぎちゃってる!
もう足りないものがあってもいいや。急いで帰ろう!
ショッピングセンターの入り口までやってきて、荷物を抱えようとした歩佳だが……
や、やっぱ、買いすぎたかも。
これ全部抱えて、アパートまで帰らなきゃならないんだよね。
カートの上の一番重そうなレジ袋を持ち上げて、顔が歪む。
こ、こうなったらタクシーだな。
うん、それしかない。タクシーで帰ろう。
カートを押してショッピングセンターの外に出て、タクシーを探す。
こっちの方向に、確かタクシー乗り場があったような?
ガラガラと音を立てて、荷物満載のカートを押していたら携帯に電話がかかってきた。
あっ、宮平君かも。
急いで携帯を出し確認したら、美晴からだった。
「美晴」
「歩佳ぁ、柊二のプレゼント、買ってくれた?」
「うん。ちゃんと買えたよ」
「サンキュー♪ 助かったよ。面倒をかけてごめんね。後日、お礼するからね」
「そんないいよいいよ。買い物のついでだったし」
「ふふ。ありがと。それでさ、実は思ったより早く仕事を終えられそうなんだよ」
えっ?
「そ、そうなの? あの何時くらいに来る?」
あんまり早かったら、準備の途中ってことになっちゃってサプライズにならないんだけど。
「一時間後くらいになるかな」
一時間か。
頑張ればなんとかなるかな?
手の込んだ料理を作るわけじゃないし……
まあ、どっちにしろ、美晴にはバレちゃってもいいか。
「うん。それじゃ待ってるね。あっ、夕ご飯用意しとくから食べずに来てよ」
「ええっ♪ いいのぉ。ありがとう、歩佳。それじゃ、あとでねぇ」
携帯を切った歩佳は携帯をポケットに戻し、タクシー探しに戻った。
うーん、なかなかいないなぁ。困ったよぉ。
こんなところで時間をロスしてられないのにぃ。
そのときまた携帯に電話がかかってきた。
今度こそ、宮平君かと思ってみたら、なんと恭嗣だ。
もおっ、いまは恭嗣さんなんかに構ってる時間なんてないのにぃ。
けど、電話を無視したら、あとでこってり叱られる。
歩佳は渋々電話に出た。
「はい巡査殿。何か用ですか?」
「歩佳君、君、いまどこにいる?」
はい?
「ショッピングセンターですけど。いま買い物に来てて」
「ふむ、買い物中か。君のアパートにやってきたら留守だったのでな」
えっ? 恭嗣さん、うちに来てるの?
「巡査殿、今日のお仕事は?」
「もう終わった。君にちょっとした手土産を持ってきたんだが……ああ、そうだ。そちらに迎えに行ってやろう。買い物はもう終わったのか?」
む、迎えに?
これぞ、天の助けだ!
迎えにきてもらえたら、超助かる。
けどぉ~、バースディパーティーのことが、恭嗣さんバレちゃうな。
それでも、手土産を持ってきてくれたらしいから、どちらにしろわたしが戻るまで恭嗣さんは待つよね。
うん、結局バレるんなら、助けてもらおう。
だいたい宮平君は、初め恭嗣さんをパーティーの人数に入れてたくらいだもんね。
「恭嗣さん、お迎え助かります。実は荷物がすっごい多くて困ってたんです。よろしくお願いしまーす」
時間短縮のため、手短に場所を伝えて、携帯を切る。
よーしっ。こいつはラッキーだったな。
ここまで五分もかからずやってこれるはず。
恭嗣がやってくるまでに、歩佳は宮平に、恭嗣が参加することになりそうだとメールを打っておいた。
恭嗣はあっという間にやって来てくれた。
カートの荷物を目にして、さすがに恭嗣も驚いている。
「何事だ? スーパーセールでもやっていたか?」
「そんなものはやってませんよ。恭嗣さん、とにかく時間がないんです」
焦って言いつつ、後部座席に急いで荷物を積み込む。
「どうしたんだ? これから何かあるのか?」
「あるんです。実は今日、美晴の弟の……」
「なんだ、あいつの誕生日か?」
歩佳が後部座席に積み込んだ荷物を見て、恭嗣が言う。
「なっ、なんでわかったんですか?」
恭嗣に言い当てられて驚いた歩佳は、助手席に乗り込みながら聞き返してしまう。
「それはどうみても、プレゼントだろう? そしてパーティーのアイテムがどっさり入っている。わからないほうがおかしい」
そっ、そうか。
「だが、どうして君ひとりで買い物をしてる? ちっこいのはどうしたんだ?」
「ちっこいのは仕事が忙しくて遅くなるんです」
あっ、しっ、しまった!
恭嗣さんにつられて、美晴のことちっこいのって言っちゃったよぉ。
ごめん、美晴っ!
心の中で必死に謝り、恭嗣への説明を続ける。
「とにかく色々な経緯があってのことなので、説明が長くなりますです。さあ巡査殿、余談はいいので、さっさと出発してくださいっ!」
恭嗣に向け、ビシッとばかりに号令をかける。
恭嗣はきゅっと眉を上げたが、とにかく車を発進させてくれた。
「では、歩佳君。アパートに着くまでに、その色々な経緯と言うのを聞かせてもらおう」
恭嗣に求められ、歩佳は事の経緯を話したのだった。
つづく
|