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第41話 そんな言葉で締めくくり
庭で顔を合せると、逢坂家の両親と恭嗣の間で、初対面の挨拶が行われた。
「まあまあ、こんなしっかりした方が、ふたりを見てくださったら、安心ですわ」
「はい。おまかせください」
恭嗣は、美晴の母に向け、びしっと敬礼して応えた。美晴の父も感心したような顔をしている。
ほんと、恭嗣さん年のわりに貫禄あるし威厳もあるもんだから、大人にはもれなく受けるよね。
「それでは、時間もあまりありませんので、さっそく荷物を積み込みましょう。柊二君、君の荷物から積み込もうと思うが」
「よろしくお願いします」
柊二は軽く頭を下げてお礼を言う。その顔は無表情だ。
嬉しいのか、むかついてるのか、わかんないよぉ。
かたや美晴のほうは、頬を紅潮させて嬉しいのが丸わかり。
ともかく、そんなわけで、まず柊二の荷物をトラックに積み込んだ。
家具とかは、そんなに大きいものはなく、トラックの半分埋まらないくらいだ。
柊二の荷物が終わり、続いて美晴の荷物を積み込む。
こちらの荷物も、思ったより少なかった。
「美晴、これだけでいいの?」
「いいのいいの。とりあえずこれだけあれば暮らせるもん」
「うむ。君はよくわかっているな、美晴君」
恭嗣が美晴を褒め、美晴はぱあっと笑顔になった。
「恭嗣さん、ありがとうございます!」
美晴は、勢いよく深々とお辞儀する。
荷物を全部積み終え、荷台に幌をかけて固定する。
準備が整い、逢坂の両親に挨拶をし、四人はそれぞれ車に乗り込みことになった。
「それじゃ、わたしは自分の車でついていきます。ほら、柊二も乗って」
美晴が柊二に声をかけるが、柊二は返事をせず、恭嗣に話しかけた。
「恭嗣さん、俺、トラックに乗せてもらってもいいですか?」
えっ?
柊二さん、トラックに乗って行くのか。
美晴の車のほうがよさそうなのに。
あっ、もしや、恭嗣さんに話したいことがあるとか?
恭嗣さんに監督されることに対して、何か言うつもりとか?
「ああ、構わないぞ」
恭嗣はあっさりと承諾し、歩佳に顔を向けてきた。
「それじゃ、歩佳君。君は、美晴君の車に乗せてもらえ」
「あっ、はい」
別にどちらに乗るのでも構わない。
歩佳は、美晴の車の助手席に乗り込んだ。
「いよいよだわ」
運転席の美晴が嬉しそうに言う。
「歩佳のアパートでの生活、もう楽しみでさぁ」
「わたしも楽しみだったよ。指折り数えてまってたもん」
「同じだぁ」
美晴が嬉しそうに叫んだところで、恭嗣の運転するトラックが出発した。
美晴もそれについて出発する。
見送ってくれている逢坂の両親は、ちょっぴり寂しそうな顔をしてる気がした。
歩佳は、ふたりを元気づけたくて一生懸命手を振った。
「美晴のお父さんとお母さん、ちょっと寂しそうだったね」
「まあねぇ。ずっと四人で暮らしてきたから、そりゃあ寂しいという気持ちもあると思うよ。けど、ちょこちょこ会いに行くつもりだし、すぐに慣れるわよ」
美晴は元気づけるように言う。まるで自分を元気づけているかのようだ。
美晴も、やっぱり寂しいんだな。
それがわかったので、歩佳は、もうそのことに触れるのはやめておいた。
前を行く、恭嗣の運転するトラックの荷台の荷物を見つめていたら、美晴が尋ねてきた。
「歩佳も、ひとり暮らしするとき、寂しかったんじゃないの?」
「……まあね。ひとり暮らししたかったけど……寂しさはあったよ」
「歩佳って、寂しがりな感じなのに、意外としっかりしてるよね」
「意外と?」
むっとして聞くと、美晴は笑って「うん、意外と!」と断言する。
ふたりは顔を見合わせたあと、同時に声を上げて笑い合った。
歩佳のアパートに到着すると、前もって待ち合わせをしていたかのように宮平が待っていた。
そして、当たり前の顔で出迎えてくれ、美晴の荷物をアパートに運び込むのを手伝ってくれた。
五人も人出があり、あっという間に荷物を運び終えてしまう。
「よし順調だな。それでは、次は柊二君の荷物だ」
トラックの運転席に乗り込みながら恭嗣は言う。
「はい。よろしくお願いします」
柊二は恭嗣に頭を下げ、「先に行って待ってます」と、宮平と駆けて行った。
「歩佳君、君はみんなの昼飯を頼むぞ。食材はあるか?」
「はい。前もって用意しておきましたので」
「よし、感心だ」
恭嗣はいい子いい子するように、歩佳の頭を撫でてくる。
「ちょっ、やめてください。子どもじゃないですから」
恭嗣の手を避けて文句を言ったら、美晴が「えーっ!」と批判を込めた声を上げた。
「もったいないこと言わないの。せっかく恭嗣さんが頭を撫でてくださってるのに」
は?
「美晴……」
「やはり君は面白いな」
恭嗣は、美晴を愉快そうに見つめて言う。
「面白い?」
きょとんとして口にする美晴を見て、恭嗣は頷き、「それでは行ってくる」とトラックに乗り込んで行ってしまった。
「それじゃ美晴、片付けをガンバロ」
美晴に声をかけ、アパートに向かおうとしたら、美晴に腕をがしっと掴まれた。
「歩佳、わたし、面白いことなんて口にしなかったよね?」
納得できない顔で美晴は聞いてくる。
正直、恭嗣の言った通り、美晴の発言は面白かったと思う。
けど、美晴がとても真剣に口にしたってこともわかっている。
「恭嗣さんの思考は読めないからねぇ」
歩佳はそんな言葉で、話を締めくくったのだった。
つづく
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