シュガーポットに恋をひと粒



第43話 ならではの発言



昼食が終わるとすぐに、恭嗣が帰るというので、みんなしてアパートの前まで出て見送ることになった。

「恭嗣さん、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

美晴と柊二は、恭嗣に世話になった礼を言い、それぞれ頭を下げる。

「ああ、また顔を出そう。ではな」

すちゃっと手を上げ、トラックに乗り込んだ恭嗣はすぐに行ってしまった。

「それじゃ、俺たちも戻るから」

「うん、柊二も片付け頑張んなよ。ああ、そうそう」

美晴は何か考えついたようで、歩佳に向き直ってきた。

「ねぇ、歩佳。今夜は、わたしにビザを奢らせてよ」

「えっ」

「そいで、こいつらにも奢ってやろうと思うんだけど……いい?」

「ええっ! ピザをご馳走してもらえるんですか? ヤッター!」

宮平は大喜びで飛び上がる。

姉の驕りということで、柊二も文句なしに大歓迎のようだ。

「それなら、場所は我が家でどうですか?」

えっ、宮平君のアパート?

「宮平君がいいなら、わたしはそれでもいいよ。どう、歩佳?」

「わ、わたしも……いいけど」

もちろん、これから柊二さんが住むことになる家だもの。
お邪魔できるなら、とっても嬉しい。

「よし、決まり! あんたたち、好きなだけ注文しといて」

美晴の大盤振る舞いな発言に、宮平が「ほえっ!」とおかしな叫びを上げた。

さらに、「そんな、いいんですか?」と宮平が言うと、柊二が彼の肩をポンと叩く。

「偕成、姉貴が奢るだなんて滅多にないことだぞ。遠慮なくご馳走になろう」

柊二の発言に、歩佳は堪らず噴き出してしまった。

振り返った柊二も、歩佳に笑い返してくれ、心臓がバクンと跳ねる。

わわっ、いまの笑顔、凛々しいうえに可愛かったよーっ。

ひとり胸キュンしていたら、美晴がむっとして弟に噛みつく。

「ちょっと柊二! もおっ、滅多に……って、まあ、そうか」

話している途中で美晴が納得するので、さらに笑いは膨らんだ。

もちろん歩佳の胸は喜びではち切れそうだ。

柊二さんと、今夜また会えるんだぁ。

引っ越しばんざーい!

柊二と宮平が戻っていき、歩佳も美晴に引っ張られるようにしながらアパートに戻った。

歩佳は美晴の手伝いをさせてもらったが、そんなに時間がかからず終わってしまった。

「よし、完璧」

腰に手を当て、新しい自分の部屋を見回した美晴は満足そうに頷き、歩佳に向き直ってきた。

「歩佳。これからお世話になります」

美晴は背筋を伸ばし、畏まって挨拶する。

「どうぞよろしくお願いします」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

笑って返したら、美晴も笑う。

それから美晴は「ちょっと座って」と言う。

ふたりは小さなテーブルを挟んで座り込んだ。

「それじゃあ、居候させてもらうに当たって、色々決めようか?」

「何を決めるの?」

「もちろん家事の分担だよ」

そう言った美晴は、元から考えていたのか、すらすらと提案してくる。

美晴は、自分は料理は得意ではないから、歩佳にやってもらうことになるけど、掃除全般は自分がやると言う。

「ダメだよ。それじゃあ、美晴ばっかりが大変になるよ」

「いやいや、料理が一番大変だって。とにかく、それでやってみるってことで、どう?」

「わかった。それじゃ、ひとまずやってみて……」

「うん。それでバランス取って行こう」

そんな会話で、歩佳はますますわくわくしてきた。





美晴とお茶をしつつおしゃべりを楽しんでいたら、宮平から歩佳の携帯に電話がかかってきた。

ピザは六時半に届くように注文したとのことで、それに合わせて来て欲しいと言う。

すぐに切ってしまいそうになったので、歩佳は慌てて宮平を呼び止めてしまった。

「あ、あの、宮平君」

「はい」

「柊二さんの荷物は、もう片付いたの?」

「はい……というか、片付ける気はなさそうですよ」

「はい?」

片付ける気がないって、どういうことだろ?

「家具は配置したものの、段ボールはそのまま積みっぱなしです。必要なものを必要になったときに取り出すんだそうですよ。それってどうかなと僕は……」

「偕成、お前、いったい誰と話してるんだ?」

わっ、柊二さんの声だ。

「歩佳さんですけど」

「はあっ? お前、歩佳さんに何を話してんだよ!」

「うぐぐっ……ギ、ギブ! ギブですよ、柊二君」

どたばたしている様子が伝わってくる。

「歩佳、どうしたの?」

苦笑していたら、美晴が尋ねてきた。

「それが……あの、宮平君、大丈夫?」

「大丈夫じゃ……歩佳さん、助けてくださーい。あっ、自由になれ……」

「あの、歩佳さん」

急に柊二に代わってしまい、びっくりしたせいで携帯を取り落しそうになる。

すると、どういう状況かわからずにいた美晴が、業を煮やしたのか、歩佳から携帯を取り上げた。

ああっ!

思わず携帯を追いそうになる。

「もしもーし。どう……ああ、なんだ柊二、どうしたのよ?」

せっかく柊二さんと話せるチャンスだったのに……ちょっと惜しい。

「ははあ、なるほど。まあ、いいんじゃないの。……うん、六時ね。了解。それじゃあねぇ」

通話を終えて、携帯が戻ってきた。

ついつい恨めしげに携帯を見詰めてしまう。

「柊二らしいわ」

「必要な荷物を、必要になったら取り出すって話?」

そう言ったら、美晴がくすくす笑い出す。

「男の子だよね。けど、宮平君はそういうの我慢できないみたいね」

「そうなんだ」

「しっかり者がついててくれれば、安心だわ」

「そうだね。けど、見た感じでは、宮平君より柊二さんのほうがしっかり者に思えるけど」

「買い被りだよぉ」

うーん、これは姉ならではの発言かも。

柊二さんは高校生とは思えないくらい、しっかりしてるのになぁ。





つづく




   
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