クリスマス特別編
2018
第1話 想像ににまにま


「よし、いいかな」

完成したイラストを長いこと眺めていた澪は、最終的にそう呟いて合格点を出した。

もっと、ここの色を微妙な感じに淡くしてもいいかなと思うけど……そしたらこっちとの釣り合いがなぁ。

合格点を出したものの、また迷いが出てきてしまう。

まあこれも、いつものことだったりする。自分の手掛けた作品に、百パーセント満足するってことは一度だってない。

けど、それでいいと思ってる。
イラストレーターになってまだ数年だし、それなりに成長してる手応えもある。

イラストを丁寧に封筒に入れ、散らかった机の上も片付け、澪は立ち上がった。

そろそろお昼だ。ちゃんと食べとかないと、また道隆に叱られる。

居間へと入った澪は、部屋を眺めてにっこりした。

道隆と飾ったツリーが、部屋をクリスマス色に彩ってくれている。

澪はツリーに歩みより、てっぺんの星を指先でちょんちょんとつついた。

道隆とこのツリーを買った時のことを思い出すと、どうにも胸がいっぱいになる。

ふいに目尻に涙が浮かび、澪は自分を笑った。

けどしあわせすぎて、気持ちの持って行き場がなくなるんだもん。


昼食にサンドイッチを食べつつ、澪はテーブルに置いていた大学のクリスマスパーティーのチラシを手に取った。

クリスマスまで、もうあと二週間ってところだ。
来週は、羽歌乃おばあちゃんからクリスマスパーティーに招待されている。

正直、かなり不安なんだけど……

羽歌乃おばあちゃんのことは好きだけど、おばあちゃんの住んでるお屋敷がなぁ……

庶民の自分には、それはもう敷居が高い。

すでに数回遊びに行かせてもらったが、どうにも緊張してしまうし、落ち着かない。

あの執事さんがなぁ。

苺の彼氏である藤原さんのお屋敷の執事さんは、やさしくて気のいいおじいちゃんなんだけど……

真柴さんは厳格すぎて苦手だ。粗相をしたら、厳しい目を向けられそうで……

でも、今回は道隆も一緒だものね。

道隆は、お休みの都合がつかないこともあって、まだ苺さえとも会っていない。

苺は、藤原さんの経営してるお店にお勤めしてて、道隆がお休みの土日は仕事なんだよね。

だけど、苺のことや羽歌乃おばあちゃんのことは、わたしから話を聞いてるので、よく知っている。

苺と羽歌乃おばあちゃん、そして苺の婚約者の藤原さんが、わたしの大恩人だってことや、道隆と出会えたのも三人のおかげなんだってことも伝えてある。

苺の働いてるお店にも、一度行ってみたいんだけどなぁ。

苺から話を聞くに、とっても素敵な品物でいっぱいらしいんだよね。

でも、澪が苺と会うのはお店がお休みの日だから、チャンスがないのだ。

道隆に行きたいとお願いすれば、連れて行ってくれるだろうけど、ここからだと遠いし、なんとなく遠慮してしまってる。

それにしても、あんな立派なお屋敷で催されるパーティーって、いったいどんななんだろう?

救いは苺がいることだ。それに苺の気のいい家族のひとたちも……
鈴木家のみんなも参加するんなら、きっとなんとかなる。

まこちゃんもいるんだしね。
まこちゃんは苺の甥っ子くんで、それはもう可愛いのだ。

道隆にも甥っ子くんがいるけど……残念なことに、澪には懐いてくれていない。

どうも、敵対視されてる気がするんだよね。道隆が大好きな子だから……

「ふうっ」

思わずため息をついた澪は、ずっと手に持っていたチラシに目を向けた。

ダンスの文字に目が止まる。

さすが大学のクリスマスパーティー、社交ダンスを踊るらしい。もちろん参加者全員なんてことじゃなく、踊りたい人だけだけど。

道隆とダンスを踊れるものなら踊ってみたい。でも、道隆にその気はまったくないだろう。

道隆って、とってもシャイだもの。人前でダンスを踊るって言われたら、その方がびっくりするよ。

苺たちはどうなんだろう?

澪は苺と苺の婚約者の藤原さんがダンスを踊っているところを想像してみた。

うーん、藤原さんは社交ダンスなんてお手のものって感じだけど……苺はピンとこないな。

苺はわたしと同じで、社交ダンスって柄じゃないような。いま流行りの曲なら、ノリノリで踊るだろうけど……


サンドイッチを食べ終え、澪は自室に戻ってクローゼットを開けた。

檸檬色の素敵なドレスが、華やかに存在をアピールしてる。

このドレスは道隆が買ってくれた。もちろん嬉しかったんだけど、かなりお高かったから、申し訳ない気持ちにもなって……でも、自分で出すとは言い出せなくて……

こういうのって、ほんと難しいなって思う。
結婚して夫婦になったら、また違ってくるんだろうけど。

夫婦という言葉に、澪の頬が赤らんだ。

なーんか照れちゃうんだよねぇ。

自分を誤魔化すように、澪は「てへへ」とひとり笑いし、ドレスを取り出した。

ドレスを胸に当てて身体を左右に揺らし、ドレスの裾をふわふわゆする。

羽歌乃おばあちゃん家のクリスマスパーティーと、大学のクリスマスパーティーで着るドレス。

これを着てパーティーに参加するんだなぁ。
道隆も正装するし……

いつも素敵な道隆だけど、さらにかっこよさが増しちゃうだろう。

正装した道隆にパーティードレスで寄り添う自分を想像して、どうにもにまにましてしまう澪だった。





つづく






プチあとがき
クリスマス特別編。澪のお話になりました。
どこら辺を切り取って書こうか、書き出しながらも迷ってばかりでした。
どのくらい続くかわかりませんが、最後までお付き合いくださったら嬉しいです。
読んでくださって、本当にありがとうございます。

fuu(2018/12/12)

   
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