ハッピートラブル
happy trouble

続編


15 やる気の誘因



「最高!」

大声で叫び、丸美は腹を抱えてゲラゲラ笑う。

いましがたの弥義とのやりとりを語って聞かせたところだ。

「ちょっと丸美。あなた、わたしの味方じゃないわけ?」

「味方だけどさぁ。ってかさ、わたしが味方なら、弥義那義さんは、敵なわけ?」

「敵と位置付けるつもりはないけど……別に望んでもいないのに、自分が養成している部下みたいに扱われるのって……」

「わたしは羨ましいけどなぁ」

「う、羨ましい? ど、どうして?」

「仲間にしてもらえてるのがだよ。だって、那義さんは、誰でも部下にするわけじゃないと思うんだよね。たとえば、わたしが部下にしてくださいって頼んだところで、相手にしてはもらえないだろうね」

そうなのかな?

「蓬は、あの那義さんに選ばれし者なんだよ。喜ぶべきだよ」

選ばれし者ねぇ。

「しかもご褒美がもらえるんでしょう?」

「う、うん」

「何をくれるのか、すごく興味あるし……弥義さんによると、蓬が欲しがるものだっていうしさ」

「品物だけじゃなくて、情報とか写真もなんだよ。そんなの欲しい?」

「そんなのって……あのさ、蓬が欲しいと思うものなんでしょ? なら、欲しいじゃん」

「わたしは別に……だいたい、わたし自身が、自分が欲しいと思う写真とか情報なんて、何も思いつかないのに、なんで那義さんがわかるの?」

「わたしだってわかるけど」

丸美ときたら、ずいぶんと自信ありげに宣言する。

「え? マジで?」

「うんうん」

「えーっ? なら言ってみてよ」

「当然、柊崎さん関連のものでしょ」

しゅ、柊崎さん関連?

「このわたしだったら、那義さんやユールさんの情報。そいで、欲しい写真は、このふたりのプライベート写真とかだね。おふたりの高校生の頃の写真なんてのも捨てがたいねぇ」

丸美の言葉に、蓬は思わずごくりと唾を呑み込んだ。

柊崎さんの情報に、柊崎さんの高校生の頃のプライベート写真!

あの那義ならば、柊崎のとんでもないお宝写真を持っていそうだ。

そっ、そうだったのか……

目眩がした。なぜ、丸美のようにすぐに思い至らなかったのだ。

弥義があれほど後悔すると言ったのも、いまなら頷ける。

ポイントを貯めて、それらのお宝を手にしたい。けど……

これからも那義さんに翻弄されるのかと思うとなぁ。お宝を諦めようと思わないでも……

「ユールさんの私服姿なんて欲しいなぁ。あの制服姿しか見たことないし……」

ユールさんの私服姿ね……

わたしも私服の姿は見たことはないけど、高校の学生服姿なら見たよ、丸美。と心の中で教える。

「けど、もっと欲を言えば、寝顔の写真かなぁ」

いったいどんな写真を思い浮かべているのか、丸美はにたにた笑う。

しかし、寝顔の写真?

頭の中に、今日目にしたベッドで気怠そうに横になっていたセクシーな柊崎が浮かび、頬に熱が集まる。

ほ、欲しい……かも。

「蓬、嫌だ嫌だ言ってないでさ、ポイントゲット、頑張ろうよ。わたしも出来うる限り協力させてもらうからさぁ」

「えっ……そ、そう?」

赤らんだ顔を隠しながら、なにげなく答える。丸美はそんな蓬に気づかず、さらに勢い込んで話を続ける。

「ほんでさ、協力者のわたしにもご褒美くれないか、那義さんに交渉してみてよ」

それはどうだろうか?

うーん、けど、可能性がないわけではないかも。那義さんって、読めない人だし……

「わかった。交渉してみる。その代り、協力頼むからね」

「およよっ」

丸美が驚いた声を上げる。

「な、なに?」

「いや。だってさ、さっきまでまったくやる気なさそうだったのに。はっはーん」

丸美は蓬を見つめ、にやつく。

蓬は黙ってすっと視線を逸らした。

「蓬も、柊崎さん関連のお宝が欲しくなったってわけだ」

「ま、まあ。そうだけど……」

「おーっ、素直でよろしい。よし! そいじゃ、本腰入れてポイントゲット作戦を練るとしようよ」

「う、うん」

頷いた蓬は、その夜、丸美に負けず劣らず本腰を入れて作戦を練ったのだった。





   

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