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第一話 無謀な王子
「カズマ様、どこに行っておられたのですか?」
帰ったばかりのところを、咎める口調で出迎えられて、カズマはむっとしてクニムラを無視した。
「カ、カズマ様、その額はいったい?」
額?
彼は唇を突き出し、額に触れた。
少し疼くと思ったら、傷を負っていたらしい。
赤く染まった手のひらをクニムラの目に晒さないように、カズマは握り締めた。
「騒ぐな、クニムラ、たいした傷じゃない。ちょっと竜退治をしてきただけだ」
カズマは、破れたマントを脱ぎ捨て、そのまま床に落とした。
これはもう使い物にならないだろう。
「り、竜退治…ま、まさか、お1人でゆかれたのではないでしょうね?」
心配に顔をゆがめているクニムラに、カズマはため息をつきそうになった。
まったく過保護というか…
クニムラは、すでに成人の儀を終えているカズマを、いまだに一人歩きさせられないひよっ子とでも思っているらしい。
「一人に決まってるさ。連れなど連れて行ったら、助けになるどころか、俺がそいつを助けるハメになる」
「どうしてそんな危ない真似をなさるのです。クニムラは、呆れてものが言えませぬ」
「なら、言わなきゃいい。もういいだろ。身体が汚れてるんだ。風呂に入ってくる」
そう言ったカズマは、自分の袖に鼻をくっつけて匂い嗅いだ。
うおっ!
なんとも、竜の体液ってやつは…
カズマはまだ何か言ってこようとするクニムラに構わず、さっさと風呂場に向かった。
「カズマ様、今日、タクミ様がおいでになりましたよ」
カズマは歩を止め、上半身を捻って後ろに振り返った。
「タクミ?何しに?」
「何か相談事がおありだとか」
相談事?
「ふーん」
会えば諍いばかりしているタクミが、カズマに相談事?
なんだろうか?
ひどく気になったが、すでに夜中だ。
いますぐには会いにゆけない。
「明日にでも出向いてみよう」
カズマはそういい、今度は邪魔されること無く風呂場に向かった。
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